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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月27日03時45分 三陸東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船竹内宝幸丸 総トン数 19.90トン 登録長 14.95メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
308キロワット(定格出力) 回転数
毎分1,900(定格回転数) 3 事実の経過 竹内宝幸丸(以下「宝幸丸」という。)は、昭和49年に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、三菱重工業株式会社が製造したS6A2-MTK型ディーゼル機関を装備し、これに逆転減速機(以下「減速機」という。)及び直径1,300ミリメートルの3翼固定ピッチプロペラが連結され、操舵室から主機及び減速機の遠隔操作が行えるようになっていたが、プロペラ回転計は設けられていなかった。 減速機は、新潟コンバーター株式会社が製造したMGN76-1型と称する、1段減速歯車と湿式油圧多板クラッチ(以下「クラッチ」という。)を内蔵したもので、主機運転中は入力軸兼用の前進軸と歯車で噛み合って逆方向に駆動される後進軸とが常時回転しており、入力軸からの動力は、前進軸及び後進軸の後部にそれぞれクラッチを介して装着されている小歯車により、出力軸に固定された大歯車に伝達されプロペラが回転する仕組みとなっていた。 また、クラッチは、同ケーシング内に油圧ピストン、摩擦板及びスチールプレートが納められ、摩擦板はケーシング内面と、スチールプレートは小歯車とそれぞれスプライン方式で連結しており、油圧ピストンに作動油圧が作用すると、交互に10数枚組み込まれた摩擦板とスチールプレート(以下「クラッチ板」と総称する。)とが圧着される構造となっていた。 A受審人は、平成5年4月に宝幸丸を買い取り、借入金の関係で所有者の名義をCとしたまま、自ら船長兼漁労長として乗り組み、7月末から翌年1月まで三陸東方沖合で、その後南下して2月から6月にかけては高知県沖でそれぞれ操業することを毎年繰り返していた。 B受審人は、平成4年ごろから操業期間中の機関長として雇い入れられるようになり、1人で機関の運転管理に当たるとともに、航海中には輪番で船橋当直にも従事していた。 宝幸丸は、A及びB両受審人のほか4人が乗り組み、同8年10月3日宮城県塩釜港を出港し、同月7日に漁場に至って操業を続け、まぐろなど約13トンを漁獲したのち、同月23日12時30分操業を終え北緯35度20分東経156度26分の地点を発して帰途に就き、主機回転数を毎分1,500の全速にかけて西行中、折から台風23号の余波を受けて船首方向からの波とうねりが徐々に強くなり、同月26日夕刻には同回転数を毎分1,200まで下げ、船体のピッチングによる動揺を抑えて航行を続けたものの、深夜からは激しくパンチングするようになった。 A受審人は、翌27日03時からの航海当直であったが、大しけ模様となったことから01時ごろから昇橋し、当直中の同人の息子と交代して操船操機に当たり、手動操舵に切り替えるとともに、パンチングによる活魚の損傷を防ぐために、波高の大きな波が見えると主機回転数をさらに毎分600まで下げてクラッチを離脱させ、波が過ぎると再びクラッチを嵌入するとともに、毎分1,200まで回転を上げるという操作を頻繁に繰り返していた。 宝幸丸は、このような状況で続航するうち、海中に浮遊していた直径50ミリメートル長さ75メートルばかりの化繊ロープを船首で引っかけ、同日03時35分ごろ、船尾に流された同ロープの一部をプロペラに巻き込んで、ロープのほとんどが船尾ボスからプロペラ羽根にわたってだんご状に絡み付き、プロペラ軸の回転を拘束したことから、主機は調速機の回転維持作用によって一時的に出力を増し、減速機のクラッチに過大なトルクがかかって摩擦板を更に回転させようとする一方、スチールプレートには制動力が働いたため、急速にクラッチに滑りが生じるとともに、クラッチ板が過熱して金属粉が発生し始めた。 B受審人は、同日00時までの船橋当直を終え、機関室後方の居室で休息していたところ、03時40分ごろに、機関室からの異臭を感じるとともに船体が何かで叩かれるような異音を聞いたことから機関室に赴き、減速機の息抜き管付近から白煙が上がり、ケーシングが発生しているなどの異状を認め、クラッチが嵌入されているのにもかかわらずプロペラ軸が回転しないことに気付いた。 一方、A受審人は、クラッチ操作を繰り返すうち、舵効きが悪くなって船首が風に立たなくなったので不審を感じ、B受審人を起こそうと思っていたとき、機関室前部の中段から操舵室床のさぶたを開けて顔を出したB受審人から、クラッチが焼けているので主機を停止する旨の報告を受けた。 こうして、宝幸丸は、同日03時45分、北緯37度27分難145度50分の地点において、機関室へ戻ったB受審人が主機を停止した。 当時、天候は晴で風力7の北西風が吹き、波の高さは約4メートルであった。 B受審人は、減速機内部を,点検して入力軸兼前進軸の軸受に焼付きを認め、ターニングもできなかったことから、運転が不可能な旨をA受審人に報告し、しけが治まってきた翌朝、プロペラに絡まったロープを取り除いた。 宝幸丸は、海上保安部に救助を要請し、来援した巡視船及び引船により塩釜港に引きつけられ、修理業者が減速機を開放調査した結果、前示損傷のほか、入力軸兼前進軸、同小歯車及び直結潤滑油ポンプなどが損傷していることが判明し、のち不良部品を新替えして修理された。
(原因) 本件機関損傷は、夜間、荒天航行中、海中に浮遊していたロープがプロペラに絡み付き、減速機に過大なトルクがかかってクラッチに滑りを生じたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |