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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月17日10時00分 沖縄県那覇港 2 船舶の要目 船種船名
漁船真優III 総トン数 6.68トン 全長 14.97メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
257キロワット 回転数 毎分1,950 3 事実の経過 真優III(以下「真優」という。)は、昭和57年1月に進水し、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、三菱重工業株式会社が製造したS6BF-MTK-2型と称するディーゼル機関を装備していた。 主機は、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、操舵室から遠隔操縦装置によって発停を含むすべての運転操作ができ、同装置にはセルモータ用スタータスイッチ、回転計、冷却清水温度計、潤滑油圧力計、吸気圧力計、冷却清水温度上昇などの警報装置、ブザー停止ボタン及び危急停止スイッチなどが組み込まれていた。また、主機は、前方の動力取出軸を介して甲板洗浄などに使用する海水を送水する雑用水ポンプを駆動するようになっていた。 主機の冷却は、間接冷却方式によるもので、主機駆動の冷却清水ポンプにより吸引加圧された清水が、入口主管から各シリンダのシリンダジャケット及びシリンダヘツドを冷却したのち、自動温度調整弁に至り、冷却清水タンクに組み込まれた清水冷却器をとおるものと、同冷却器をバイパスするものとに分流して温度が調整され、その後いずれも同ポンプ吸入側に還流するようになっていた。 また、自動温度調整弁の手前に冷却清水温度上昇警報装置の温度検出端が設けられ、清水温度が上昇して設定値に達すると、同警報装置が作動して操舵室でブザーによる警報音を発するようになっていた。 一方、主機の冷却海水系統は、海水吸入コックから主機駆動の冷却海水ポンプによって吸引加圧された海水が、空気冷却器、清水冷却器及び潤滑油冷却器を順次冷却したのち、水面上にある船外吐出口から排出されるようになっていた。 ところで、海中に浮遊しているビニール片(以下「浮遊ビニール片」という。)などの異物が海水吸入コックに吸着し、冷却海水の流れが阻害されると、主機が過熱するおそれがあることから、主機始動後には冷却清水の温度に注意するとともに、同海水流量が減少することのないよう、船外吐出口からの冷却海水の吐出状況を点検する必要があった。 また、主機は、シリンダライナ下部のシリンダジャケットとの嵌合部に、同ジャケットとクランク室間の水密を保つOリング(以下「Oリング」という。)が3本装着されていたが、Oリングが長期の使用による経年変化や、主機が冷却阻害によって著しく過熱するなどして劣化すると、水密が不良となって、冷却清水が下方のクランク室内に漏洩して潤滑油中に混入するおそれがあった。 A受審人は、父親のBが平成9年12月に真優を購入したときから船長として乗り組み、機関部の保守管理にも当たり、同10年3月に主機潤滑油を新替えし、本船に慣れるために、購入後初めて4ないし5時間運航したのち、自ら冷却海水ポンプを開放整備したところ、一体に成型された9枚のゴム製のインペラのうち3枚が欠損していたので、同インペラを予備品と交換した。 ところが真優は、これまで冷却海水ポンプのインペラの前示欠損によって、同ポンプの揚水能力が低下したまま運転されていたことから、主機が過熱気味となり、Oリングの劣化が進行していた。 A受審人は、那覇港内にある泊漁港に真優を係留していたが、4月下旬から本格的に真優を運航するための準備として、船体を洗浄することとし、同人が1人で乗り組み、4月15日12時50分同漁港を発し、同漁港北側の通称小船溜りに赴き、岸壁に係留されていた漁船群の間に入って両舷の漁船からそれぞれロープを1本取って係留し、13時00分から主機を停止回転にかけ、雑用水ポンプを運転し、操舵室を閉めきって船体の洗浄作業を開始したがその後、船体の洗浄作業に専心し、船外吐出口からの冷却海水の吐出状況を十分に点検しなかったことから、いつしか海水吸入コックに浮遊ビニール片が吸着し、同ビニール片の一部が清水冷却器をも閉塞し、冷却海水の流れが阻害され、同海水流量が著しく減少したことに気付かず、主機が過熱気味になり、Oリングの劣化が著しく進行する状況となったまま運転を続け、15時00分に同作業を終え、その後、15時05分前示係留場所に戻り、主機を停止し、同人は離船した。 こうして、真優は、無人状態で係留されているうち、著しく劣化したOリングの水密が不良となり、冷却清水がクランク室内に漏洩し始めるようになった。 A受審人は、同月17日10時00分那覇新港船だまり防波堤灯台から真方位154度520メートルの前示係留地点において、発航前点検を行い、冷却清水タンク内の冷却清水量が著しく減少し、クランク室の検油棒の挿入口から、冷却清水が混入して乳化した潤滑油が溢れているのを発見し、主機が運転不能になったことを認めた。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、港内は穏やかであった。 真優は、修理業者による主機各部の精査の結果、3番シリンダのOリングから冷却清水の漏洩が認められ、さらに、全シリンダライナ内面にかき傷を生じていることが判明し、同ライナ及びOリングなどを新替えして修理された。
(原因) 本件機関損傷は、主機を運転中に、操舵室を離れ、主機駆動雑用水ポンプで海水を送水して船体の洗浄を行う際、船外吐出口からの主機冷却海水の吐出状況の点検が不十分で、同海水流量が減少し、冷却阻害の状態で主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機を運転中に、操舵室を離れ、主機駆動雑用水ポンプで海水を送水して船体の洗浄を行う場合、海水吸入コックに浮遊ビニール片が吸着し、冷却海水の流れが著しく減少することがあるから、主機の冷却が阻害されることのないよう、船外吐出口からの主機冷却海水吐出状況の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船体の洗浄作業に専心し、冷却海水吐出状況の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同海水流量が著しく減少したことに気付かず、冷却阻害の状態で主機の運転を続けて過熱を招き、シリンダライナ下部のOリングの劣化を進行させ、冷却清水の漏洩を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |