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1999年(平成11年)

平成10年広審第46号
    件名
漁船第三長生丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年1月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第三長生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
シリンダライナ、ピストン、ピストンピン、クランクピン軸受及び連接棒など損傷

    原因
主機冷却清水の漏洩箇所の調査不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却清水の漏洩箇所の調査が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月18日14時00分
鳥取県境港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三長生丸
総トン数 19トン
全長 23.45メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分1,400
3 事実の経過
第三長生丸は、昭和63年12月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6N165-EN型と称するディーゼル機関を装備し、主機の動力取出軸により駆動される容量400キロボルトアンペアの集魚灯用交流発電機及び容量3キロワットの充電用直流発電機をそれぞれ備え、操舵室には主機の回転計及び潤滑油圧力計などの各計器並びに冷却清水温度上昇及び潤滑油圧力低下などの各警報装置が組み込まれた主機遠隔操縦装置を設けていた。
主機の冷却清水系統は、主機前部の上方にある清水冷却器を兼ねた清水タンク内の冷却清水が、直結の冷却清水ポンプにより約2キログラム毎平方センチメートルに加圧されて冷却清水入口主管に至り、同主管から各シリンダのシリンダジャケット、シリンダヘッド及び排気マニホルドを順次冷却し、自動温度調整弁を経て清氷冷却器を経由するものと、清水冷却器をバイパスするものとに分かれ、次いで同タンクの出口管で再び合流して同ポンプに還流するようになっており、循環する冷却清水の総量が約130リットルであった。
主機は、各シリンダに船尾側を1番として6番までの順番号が付されており、全長378.2ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径165ミリの特殊鋳鉄製シリンダライナをシリンダブロックに挿入し、燃焼ガスシール部の周りに冷却清水穴4個、ロッカーアーム注油穴1個、プッシュロッド穴1個及びねじの呼び径22ミリのシリンダヘッド締付けスタッドボルトの挿入穴6個などが設けられた、厚さ2ミリの鋼製シリンダヘッドパッキン(以下「ヘッドパッキン」という。)を同ライナのフランジ上面に装着してシリンダヘッドを組み付け、6個のシリンダヘッド締付けナットをいずれも65キログラムメートルのトルクで締め付けて、シリンダヘッドを同ブロックに固定するようになっていた。
ところで、ヘッドパッキンは、冷却清水穴部やロッカーアーム注油穴部などにシリコンゴムが接着されていて、シリンダブロックとシリンダヘッド間から冷却清水や潤滑油が漏洩(ろうえい)しないようになっていたが、機関振動の影響のもと、運転時間の経過につれて同パッキンがなじむのに伴い、シリンダヘッド締付けナットの締付け力が低下すると、同パッキンのシール機能が弱まって燃焼ガスが漏洩し、同ガスシール部に最も近接して配置されている冷却清水穴部の同ゴムが損傷することとなり、このため冷却清水が漏洩してシリンダ内に浸入するおそれがあった。
A受審人は、本船の竣工時から船長として乗り組み、機関の整備と運転にもあたり、主機の取扱いについては、平成7年4月にピストン抜き整備を行ったのち、修理業者に依頼して、過給機及び燃料噴射弁の整備を1年ごとに、清水タンク内の冷却清水の取替えを半年ごとに、潤滑油及び同油こし器フィルタエレメントの取替えなどを約2箇月ごとにそれぞれ行っていたほか、出港時には清水タンクの水位及び潤滑油量を点検のうえ操舵室で主機を始動し、運転中には適宜機関室に赴いてビルジ処理や各種配管に漏洩箇所がないか点検しながら年間約5,500時間運転していた。また、同人は、連続最大回転数近くで運転すると船体及び主機の振動が激しくなることから、航行中及び操業中ともに回転数を毎分1,200として、激しい振動が発生しないよう運転していたものの、市場の競り時間に遅れそうなときには同回転数を上げて運転することもあった。
本船は、A受審人ほか2人が乗り組み、鳥取県境港を基地とし、平素14時ごろ出港して同港沖合の漁場に至り、集魚灯用交流発電機を駆動して翌日の早朝まで操業を行ったのちに帰港する日帰り操業を繰り返しているうち、いつしか主機3番、5番及び6番シリンダのヘッドパッキンがなじむのに伴い、シリンダヘッド締付けナットの締付け力が低下し、同パッキンとシリンダヘッドとの燃焼ガスシール部から同ガスが漏洩して冷却清水穴部のシリコンゴムが損傷し、これが進展する状態となった。
A受審人は、同9年2月11日ごろから主機始動前の点検の際に、それまでほとんど補給の必要がなかった清水タンクの水位が低下し、始動直後の低速時、排気ガスが異常に白く変色するようになったのを認めた。しかしながら、同人は、主機の外部に冷却清水が漏洩した形跡もないので、不足しないよう冷却清水を補給すれば大丈夫と思い、修理業者に依頼するなどして、速やかに冷却清水の漏洩箇所の調査を行うことなく、連日の操業に従事していたため、運転中にシリンダ内に冷却清水が浸入してシリンダライナとピストンとの潤滑が阻害し始めたうえ、停止中にも冷却清水がシリンダ内に浸入していることに気付かないまま、越えて18日早朝操業を終え、帰港して漁獲物を水揚げしたのち、08時ごろ境水道大橋橋梁灯(L1灯)から真方位156度170メートルの岸壁に本船を係留し、主機を停止した。
こうして、同日14時少し前、操業の目的で乗り組んだA受審人は、主機を停止したときに補給した清水タンクの水位が著しく低下していたので再度冷却清水を補給したうえ、14時00分前示の係留地点において、操舵室から主機の始動操作を行ったが、セルモータが回転せず、主機を始動させることができなかった。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹いていた。
始動不能となった主機は、修理業者により開放され、各部を精査した結果、3番、5番及び6番シリンダのピストン頂部に多量の冷却清水が滞留しており、シリンダライナ、ピストン、ピストンピン、クランクピン軸受及び連接捧などが損傷していることが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、主機清水タンクの水位が低下し、排気ガスが異常に白く変色するようになった際、冷却清水の漏洩箇所の調査が不十分で、運転時間の経過につれてヘッドパッキンがなじむのに伴い、シリンダヘッド締付けナットの締付け力が低下して同パッキンのシール機能が弱まり、漏洩した燃焼ガスにより冷却清水穴部のシリコンゴムが損傷し、冷却清水がシリンダ内に浸入するまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機清水タンクの水位が低下し、排気ガスが異常に白く変色するようになったのを認めた場合、冷却清水がシリンダ内に浸入しているおそれがあったから修理業者に依頼するなどして、速やかに冷却清水の漏洩箇所の調査を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、主機外部に冷却清水が漏洩した形跡もないので、不足しないよう冷却清水を補給すれば大丈夫と思い、速やかに冷却清水の漏洩箇所の調査を行わなかった職務上の過失により、ヘッドパッキンの冷却清水穴部から冷却清水がシリンダ内に浸入していることに気付かないまま運転を続け、シリンダライナ、ピストン、ピストンピン、クランクピン軸受及び連接棒などに損傷を招き、主機を始動不能にさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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