日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年函審第69号
    件名
引船第八富士丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年4月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第八富士丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
クランク軸、3番シリンダのピストン及びシリンダライナ、6番シリンダの連接俸、主軸受及びクランクピン軸受の全軸受メタルを損傷

    原因
主機運転継続の可否の判断不適切

    主文
本件機関損傷は、主機運転継続の可否の判断が不適切で、潤滑油に金属摩耗粉が混入したまま運転を継続したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月28日09時00分
函館港
2 船舶の要目
船種船名 引船第八富士丸
総トン数 99.31トン
登録長 25.48メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
回転数 毎分720
3 事実の経過
第八富士丸(以下「富士丸」という。)は、昭和49年5月に進水し、航行区域を沿海区域とした主に北海道各港間の曳(えい)航業務に従事する鋼製引船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社が同52年7月に製造した8DSM-26FS型と呼称するディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側から船尾側にかけて順番号を付け、軸系には逆転減速機を備え、船橋から主機の遠隔操作ができるようになっていた。
主機の潤滑油主系統は、台板油だめ内の潤滑油が、直結の歯車式潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器名については「潤滑油」を省略する。)によって吸引加圧され、金網式こし器及び冷却器を通って圧力調整弁で調圧されたのち二方に分かれ、一方が軸受系統で、ノッチワイヤ式こし器を経て同系統の主管に至り、各シリンダの枝管を分流して主軸受、クランクピン軸受を順に潤滑し、他方がピストン冷却系統の主管に至り、各シリンダのテレスコピック形伸縮管から噴出してピストン内部を冷却したのちピストンピン軸受を潤滑し、そのあと両系統とも台板に落下するようになっており、ピストン摺(しゅう)動面とシリンダライナの間の潤滑は、台板に落下する油滴のはねかけで行われるようになっていた。なお、循環油量は、油量1,400リットルの別置タンクを含めて総量が2,000リットルであった。
A受審人は、平成10年2月に富士丸に機関長として乗り組み、機関当直にあたっては2時間毎に機関室に入って見回り、潤滑油圧力、潤滑油温度、冷却水圧力、排気温度などを機関日誌に記載するほか潤滑油などの補給を適宜行っていた。
富士丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、船体修理工事を函館市内の造船所において施工する目的で、同年7月25日07時00分北海道紋別港を発し、宗谷海峡を通過したのち途中北海道余市港に寄せて乗組員が休暇を取り、翌々27日09時05分同港を発し、同日夜半津経海峡に差し掛かり、主機を回転数毎分650の全速力にかけて函館港に向け航行していたところ、翌28日03時00分函館港西副防波堤灯台から真方位204度4.6海里の地点において、主機3番シリンダのピストンとシリンダライナがピストンリングが折損したかして焼き付き、多量の金属摩耗粉が生じて潤滑油に混入するとともに主機の回転が低下した。
A受審人は、機関当直中、一時船尾甲板上に出て涼を取りながら周囲の景色などを眺めていたとき、主機の回転が低下するのに気が付き、急ぎ機関室に戻り、主機を停止してクランク室ドアを触手点検したところ、平素より高温になっているのを認めた。そして、同人は、フライホイールにターニングバーを差し込んでターニングを試みたものの重くてできず、1時間ばかり冷却するのを待って再度試みたところ、依然として重かったもののターニン可能になったので順次ターニングしながらクランク室内を点検し、3番シリンダのシリンダライナ下部内面に縦傷の発生しているのを発見した。
ところで、このようにピストンとシリンダライナが焼き付いたときは、それらを新替えするか、あるいは焼損箇所を油砥(と)石などで修正しなければならず、これらの作業を船内において乗組員だけで行うには長時間要するうえに、潤滑油に金属摩耗粉が混入しているおそれがあり、それを除去するため潤滑油系統をフラッシングし、場合によっては新油と交換しなければならないが、船内には、予備の新油が400リットルしかなく、全量を交換できない状況であった。また、主機を停止した海域が、航路筋から外れていて本船を緊急に移動させる必要性がなく、更に目的地の函館港までは近く引船による曳航要請がし易い状況であった。
しかるに、A受審人は、主機が冷却後ターニング可能となり、目的地までわずかの距離なので微速力なら何とか行けると思い、主機の運転を断念することなく、06時30分主機を始動し、潤滑油圧力が正常に上がらなかったものの、運転音に格別異状を認めなかったことから、主機の遠隔操作が可能である旨を船橋に連絡した。
こうして、富士丸は、07時00分前記地点を発進し、主機を回転数毎分340の微速力にかけて航行していたところ、次第に3番シリンダの損傷が拡大し、ピストン及びシリンダライナの摩耗が進行して燃焼ガスが吹き抜けるようになったうえ、潤滑油に混入した金属摩耗粉によってこし器エレメントの目詰まりが進んで潤滑油圧力が低下し、主軸受及びクランクピン軸受の各軸受メタルが焼損し始め、やがて、6番クランクピン軸受が焼き付いて軸受メタルが連れ回りするようになり、クランク室ミストガスの圧力が上昇して、クランク室安全弁の周囲から白煙が漏れ出るようになった。
A受審人は、主機を再始動後潤滑油圧力が徐々に低下してくるうえに白煙が漏れ出てきたので、これ以上の運転継続は無理と判断して09時00分函館港西副防波堤灯台から真方位230度1,450メートルの地点において主機を停止した。
当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、海上は隠やかであった。
富士丸は、救助を求め、引船によって船体修理工事を予定していた函館港内の造船所の岸壁に引き付けられ、修理業者が開放点検した結果、前記損傷のほか6番シリンダの連接棒大端部が焼損しており、のちクランク軸、3番シリンダのピストン及びシリンダライナ、並びに6番シリンダの連接棒、主軸受及びクランクピン軸受の全軸受メタルを新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、北海道余市港を発して函館港に向け航行中、同港近くにおいて、3番シリンダのピストンとシリンダライナが焼き付いて主機の回転が低下した際、主機運転継続の可否の判断が不適切で、焼き付きによって生じた金属摩耗粉が潤滑油に混入したまま主機の運転を継続し、クランクピン軸受などの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道余市港を発して函館港に向け航行中、同港近くにおいて主機の回転が低下し、3番シリンダのピストンとシリンダライナが焼き付いているのを認めた場合、損傷箇所の修理などが船内において困難であったうえに、焼き付きによる金属摩耗粉が潤滑油に混入しているおそれがあったから、損傷が拡大することのないよう、主機の運転を断念すべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機が冷却後ターニング可能となり、目的地までわずかの距離なので微速力なら何とか行けると思い、主機の運転を断念しなかった職務上の過失により、焼き付きによって生じた金属摩耗粉が潤滑油に混入したまま主機の運転を継続し、クランク軸、主軸受及びクランクピン軸受の焼損を招き、損傷を拡大させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION