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1999年(平成11年)

平成10年長審第3号
    件名
貨物船いずみ丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年1月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、保田稔
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:いずみ丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
各シリンダの排気弁の弁棒1本にステライトの局部的な欠損、過給機のノズルリング表面に多数の打痕、全タービン羽根の先端部ノズルリング側に曲損

    原因
経年劣化した主機の減速運転による燃焼不良

    主文
本件機関損傷は、経年劣化した主機の減速運転による燃焼不良によって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月26日07時ごろ
鹿児島県甑島列島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船いずみ丸
総トン数 626.86トン
登録長 58.08メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 882キロワット
回転数 毎分820
3 事実の経過
いずみ丸は、昭和47年11月にケミカルタンカーとして竣工した船尾船橋機関室型の鋼製貨物船で、ヤンマーディーゼル株式会社が同年9月に製造した6GA-ET型と称するディーゼル機関を主機とし、主機駆動のカーゴポンプを2台備え、パナマ共和国の国籍を有してキシレン、メタノール等の危険物輸送に従事していたところ、同58年12月R株式会社の所有となり、基地を鹿児島県枕崎港に定め、主機の燃料をA重油とし、1箇月に2ないし10回程度、同県内の諸港で焼酎の製造過程で生じる醗酵廃液(以下「廃液」という。)を積み取り、枕崎港から100海里ばかり離れた長崎県男女群島女島南方海域で投棄する業務に従事していた。
また、主機は、船尾側から順に1番から6番までのシリンダ番号を付け、船尾端上部に、石川島播磨重工業株式会社製のVTR-250型と称し、単段の遠心式ブロワと単段の軸流タービンからなる排気ガスタービン方式の過給機を備え、各シリンダヘッドには、燃料噴射弁と始動弁を1個ずつ、吸気弁と排気弁を2個ずつ備えて排気弁のみ弁箱型とし、同弁の弁棒と弁座の双方の当たり面に耐熱・耐磨耗性のあるステライトを溶着してあった。なお、竣工前のB重油を使用した海上試運転時のシリンダヘッド出口の排気温度は、50パーセント負荷において摂氏370度から390度(以下、温度については摂氏とする。)、75パーセント負荷において420度から450度、100パーセント負荷において490度から520度であった。
ところで、A受審人は、同61年ごろR株式会社に機関長として入社し、本船と同じ業務に従事する他船にも乗り組みながら、本船に繰り返し乗り組んで主機を取り扱っていたものの、主機が全体的に経年劣化していて水漏れや油漏れなどを頻発するとともに、入港時刻調整のための減速運転を余儀なくさせられで燃焼不良となることから、毎分回転数については、航海中が500から700まで、カーゴポンプ運転によるバラスト排出時が約500、廃液投棄時が約600とそれぞれ定めたうえ、毎年8月に入渠して燃料噴射弁のノズルチップ新替え、吸・排気弁の削正摺合せ等の整備のほか、管系の修理を行っていた。
こうして本船は、A受審人ほか5人が乗り組み、鹿児島県米ノ津港で廃液1,200トンを積み取り、廃液を投棄したあとは枕崎港に向かう目的で、船首3.6メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成9年6月25日21時10分主機を始動し、同時30分米ノ津港を発した。
発航後本船は、枕崎港入港時刻調整のために主機の減速運転を一時行ったのち、A受審人が自室で休息し、一等機関士が機関室当直に就いて主機の回転数を毎分約700として航行中、減速運転時の燃焼不良により、燃料噴射弁のノズルチップ先端やシリンダヘッド内面の隅などに付着していた燃焼残渣(ざんさ)物の塊が剥離(はくり)して排気弁の弁棒と弁座との間に噛(か)み込み、1番、2番及び6番各シリンダにおいて、排気弁に排気ガスの吹き抜けを生じて弁棒のステライトが一部欠損し、その破片が過給機に侵入してノズルリングとタービン羽根との間に挟まり、過給機の回転数が低下して主機の吸気量不足をきたし、翌26日07時ごろ北緯31度33分東経129度12分ばかりの地点において、船橋当直中の船長により、煙突から多量の黒煙を排出しているのが発見された。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、船長から異変を知らされて機関室に赴き、一等機関士と調査した結果、主機の吸気圧力が低下しているとともに、1番、2番及び6番の各シリンダの排気温度が若干上昇して420度ばかりとなっているのを認め、いったん主機の回転数を毎分約500に下げて元に戻したところ、吸気圧力、排気温度ともほぼ通常どおりとなったので、船長にその旨報告し、主機の運転を続けた。
本船は、同日12時30分女島南方の海域に至り、14時15分廃液の投棄を終え、翌27日00時30分枕崎港に入港したが、その後も主機の運転状態に格別の異状を認めなかったので、引き続き廃液の投棄業務を数回行ったのち、同年8月例年どおり入渠して主機の開放整備にかかったところ、前示各シリンダの排気弁の弁棒2本のうち1本にいずれもステライトの局部的な欠損があること、過給機のノズルリング表面に多数の打痕があること及び全タービン羽根の先端部ノズルリング側に幅0.5ミリメートル長さ2ミリメートルばかりの曲損があることが発見されてこれらの部品をすべて新替えし、同年12月中華人民共和国へ売却された。

(原因)
本件機関損傷は、全体的に経年劣化した主機を運転中、減速運転時の燃焼不良により、シリンダ内に付着していた燃焼残渣物の塊が剥離して排気弁に噛み込み、同弁に排気ガスの吹き抜けを生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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