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1999年(平成11年)

平成9年仙審第32号
    件名
漁船第一大慶丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年9月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、長谷川峯清、内山欽郎
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第一大慶丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
クランクピン軸受焼損、シリンダライナとピストンとの焼付き、クランク軸、主軸受、連接棒等損傷

    原因
主機潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が十分でなかったばかりか、同油こし筒の取扱いが適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年7月17日15時00分
三陸東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大慶丸
総トン数 349トン
登録長 56.84メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,912キロワット(定格出力)
回転数 毎分560(定格回転数)
3 事実の経過
第一大慶丸(以下「大慶丸」という。)は、平成3年9月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを推進器とし、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社(以下「ヤンマー」という。)が製造した6N330-EN2型と称するディーゼル機関を備え、同機の燃料にはA重油を使用していた。
主機は、連続最大出力2,574キロワット同回転数毎分620(以下、回転数は毎分のものとする。)の機関に出力制限装置が付設され、定格出力1,912キロワット同回転数560として登録されたもので、各シリンダには船尾側から順番号が付され、左舷側クランク室上部にカム軸を納めたカムケースが設けられており、その上部のポンプ取付台に各シリンダ用の燃料噴射ポンプがそれぞれ装備されていた。
燃料噴射ポンプは、カム軸の燃料カムにより同ポンプ下部の駆動装置を介して駆動されるボッシュ式のポンプで、内部に組み込まれたプランジャとバレルで加圧した燃料油を、高圧管を経て各シリンダ燃料射弁に送るようになっており、加圧される際にプランジャとバレルの隙間から漏洩した燃料油は、油滴または霧状となって同ポンプ取付台上に落下し、漏油穴を通って機関外のドレン受けに流れ出るようになっていたが漏油量が増加したりすると、一部がポンプ取付台と駆動装置の隙間からカムケース内に侵入するおそれがあった。
主機の潤滑油系統は、主機下部のサンプタンクに7キロリットルほど溜められた潤滑油が、直結歯車式の潤滑油ポンプで吸引・加圧され、片方ずつ切り替えて使用可能な金網式の複式こし器、潤滑油冷却器及び調圧弁を経て入口主管に至り、同管から分岐して、各主軸受などのほか、一部がカムケース内の各カム軸受などに供給され、それぞれが油だめに落下したのちサンプタンクに戻って循環する一方、主機運転中も清浄機で側流清浄できるようになっていた。
また、潤滑油こし器のこし筒(以下「こし筒」という。)は、円筒形のこし網の上下に円盤形の底板とフラットバーと称する上部板材とをセンターボルトで固定したもので、潤滑油はこし網の内側から外側に流れるようになっており、同こし網内外の差圧が0.7キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)以上になると潤滑油こし器差圧警報装置が作動するようになっていた。
ところで、就航時に使用されていたこし筒(以下「旧型こし筒」という。)は、上部板材が強度不足で、同こし筒の目詰りが進行して差圧が1.3キロを超えると、同板材が変形して、こし筒内に堆積した異物が主機側に流出するおそれのあることが判明したため、その対策として、同6年4月主機製造者によって、同板材の強度を増加させた改良型に仕様変更されていた。
A受審人は、就航時に一等機関士として乗り組み、同年5月機関長に昇格して機関の運転管理に従事していたもので、以前に、主機がブローバイしてこし筒が目詰りし、上部板材が曲損した経験を有しており、同年7月主機製造業者から改良型のこし筒が支給されて交換を依頼された際、交換理由の説明を聞いて旧型こし筒を改良型こし筒に取り替えたが、依然、旧型こし筒を廃棄しないまま船内に残していた。
大慶丸は、毎年入渠して船体及び機関の整備を行い、就航当初は航海毎に潤滑油の性状分析を行っていたが、その都度分析結果に異常がなかったことから、そのうちほとんど同油の性状分析を行わなくなっていた。本船は、同年12月の合入渠時に主機の潤滑油を全量取り替えて出渠後、当初はほぼ2箇月間隔で潤滑油こし器の掃除を行いながら操業を繰り返していたところ、燃料噴射ポンプのプランジャとバレル間の隙間が経年摩耗により拡大し、燃料油漏洩量が徐々に増加するに伴って潤滑油中への燃料油の混入量が増加し、潤滑油が次第に希釈されるとともに粘性のスラッジを析出し始め、同油こし器の目詰り間隔が徐々に短くなり、ついには頻繁に差圧警報が作動する状況となっていた。
A受審人は、潤滑油こし器の差圧警報が鳴ったらこし筒を掃除するなどして潤滑油の性状管理に従事し、主機を月間500時間ほど運転しながら操業を繰り返していたところ、翌7年7月初め連日潤滑油こし器の差圧警報が作動するのを認めたが、3箇月後に定期検査が予定されていたことでもあり、こし筒の掃除を繰り返していれば主機の運転に支障を来すことはあるまいと思い、主機製造業者に問い合わせたり潤滑油業者に同油の性状分析を依頼して、同油の継続使用が可能かどうかを確認するなど、潤滑油の性状管理を十分に行うことなく、差圧警報が作動すればその都度こし筒を掃除するだけで、引き続き、燃料油の混入によって劣化した潤滑油を継続使用していた。
こうして、大慶丸は、A受審人ほか19人が乗り組み、かつお漁の目的で、同月11日17時宮城県石巻港を発し、三陸東方沖合の漁場に至ったのち、同海域で主機を運転しながら操業を繰り返しているうち、潤滑油の劣化が一段と進行して差圧警報が頻繁に作動するようになり、こし筒の掃除に追われるようになったので、船内に残っていた旧型こし筒を追加使用することとし、主機回転数590プロペラ翼角20度として魚群探索中、使用中の旧型こし筒が目詰りして上部板材が曲損し、こし網内に堆積していた異物が機関各部に侵入して、一番潤滑条件の厳しい4番主軸受メタルが焼損するとともに、3番シリンダのクランクピン軸受メタルが焼き付くなどし、同月17日15時00分北緯39度21分東経148度24分の地点において、主機が異音を発して回転数が変動し、煙突から白煙を噴出した。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、海上には波があった。
操舵室で魚群の探索に従事していたA受審人は、直ちに機関室に急行して主機を停止したのちクランク室を点検し、3番シリンダライナ下部から冷却水が漏洩しているのを認め、また、クランクピン軸受の焼損及びシリンダライナとピストンとの焼付きを発見し、同シリンダのピストン、シリンダライナ及びクランクピン軸受メタルを予備と交換のうえ運転を試みたものの、再度クランクピン軸受メタルが焼損したので修理を断念し、同シリンダを減筒して自力で石巻港に帰港した。
精査の結果、大慶丸は、クランク軸、主軸受及び連接棒等にも損傷が発見され、のち損傷部品をすべて新替えしたほか、全燃料噴射ポンプのプランジャとバレルを新替えするなどの修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、主機の運転管理にあたり、こし筒が粘性のスラッジで目詰りして連日差圧警報が作動するようになった際、潤滑油の性状管理が不十分で、燃料油の混入によって劣化した潤滑油が継続使用されたばかりか、同油の劣化が一段と進行して同こし筒の掃除に追われるようになった際、同こし筒の取扱いが不適切で、使用中の旧型こし筒が損傷し、同こし筒内に堆積していた異物が機関各部に侵入するまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理にあたり、こし筒が粘性のスラッジで目詰りして連日差圧警報が作動するようになったのを認めた場合、劣化した潤滑油を継続使用していると主機が損傷するおそれがあったから、主機製造業者に問い合わせたり潤滑油業者に性状分析を依頼して、同油の継続使用が可能かどうかを確認するなど、同油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、こし筒の掃除を繰り返していれば主機の運転に支障を来すことはあるまいと思い、同油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、同油を継続使用して劣化を進行させ、掃除回数の増加に対応して応急的に使用した旧型こし筒の損傷を招き、同こし筒内に堆積していた異物を機関各部に侵入させ、クランクピン軸受や主軸受を焼損させるなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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