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1999年(平成11年)

平成10年那審第60号
    件名
プレジャーボートイーグル機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:イーグル船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
左舷主機ドライブユニット内の割りピン脱落、クラッチ操作棒が脱落

    原因
主機の整備不十分(長期間未整備)

    主文
本件機関損傷は、主機の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月26日19時00分
鹿児島県奄美群島徳之島北方
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートイーグル
登録長 7.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 138キロワット
3 事実の経過
イーグルは、昭和60年5月に進水したFRP製プレジャーボートで、中央部にキャビンを設け、キャビンの右舷後部に下部操舵席を、キャビンの上部甲板に上部操舵席をそれぞれ備え、船尾甲板下に主機として、スウェーデン王国ボルボ・ペンタ社製AQAD30型船内外機2基の原動機部分を据え付け、トランサムの後方に、逆転減速機を内蔵するドライブユニットを備え、原動機の回転がユニバーサル継手を介してドライブユニットに伝えられるようになっており、主機の遠隔操舵装置が上部及び下部の各操舵席に装備されていた。
主機の前後進切替え装置は、上部及び下部の各操舵席にそれぞれ備えた前後進ハンドル、各操縦ハンドルとドライブユニット間を接続するボーデンケーブル、ドライブユニットに内蔵する天秤(てんびん)式のリンク、クラッチ操作棒、クラッチ、前進側カサ歯車、後進側カサ歯車等から構成されており、上部または下部の各操舵席のいずれかの前後進ハンドルを動かすと同ケーブルを介してリンクが回転運動をし、リンクの回転運動で同操作棒が上下に動いてクラッチを動かし、ユニバーサル継手に接続された入力軸の端に取り付けたカサ歯車と、前進側カサ歯車を噛み合わせてプロペラを前進側に回転させたり、噛み合いから離してプロペラの回転を停止したり、後進側カサ歯車を噛み合わせてプロペラを後進側へ回転させたりするようになっていた。
クラッチ操作棒は、直径約5ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約225ミリの鋼製捧の一端約25ミリをL字型に曲げたもので、短い部分を天秤式のリンクに開けた直径約5ミリの穴に差し込み、同棒がリンクから外れるのを防止するため、リンクから突き出た同棒に座金をはめ、同棒端部に直径約1.5ミリの割りピン穴を開け、割りピンが差し込まれていたが、長期間整備されていなかったことから、割りピンの摩耗が著しく進行した状態だった。
A受審人は、平成10年10月下旬、沖縄県平良市で遊漁等の業務に使用する目的で、新造後約13年間経た中古で、主機の整備記録が不明であったイーグルを購入し、鹿児島県奄美大島の名瀬港及び笠利湾で数日間、約10時間の試運転を行ったとき、前後進の切替えが、下部操舵席では可能であるものの、上部操舵席ではできないなど、主機の整備が十分でないことを認めたが、航行には支障ないと思い、主機の整備を行うことなく、予定どおり回航することにした。なお、船舶所有者の登記は沖縄県那覇市で行う予定であった。
こうして本船は、A受審人ほか1人が乗り組み、船首、船尾とも0.5メートルの等喫水で、同月26日15時00分鹿児島県喜瀬漁港を発し、中継地の同県徳之島の亀津漁港へ向け、両舷主機を回転数毎分1,000とし、対地速力5.0ノットの微速力で航行中、左舷主機ドライブユニット内の割りピンが脱落し、19時00分金見埼灯台から真方位044度6.1海里の地点において、クラッチ操作棒が天秤式のリンクから外れてクラッチが切れた。
当時、天候は雨で風力3の北東風が吹いていた。
A受審人は、左舷主機のクラッチ操作が不能となったことに驚き、右舷主機は異状がなかったものの、自力航行が危険であると判断して名瀬海上保安部へ電話で救助を要請し、イーグルは、来援した巡視艇によって鹿児島県徳之島の平土野港へ引き付けられ、割りピンを新替えするなどして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、長期間整備がなされていない主機を使用する際、整備が不十分で、航行中、左舷主機の前後進切替え装置のクラッチ操作棒がリンクから外れたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の整備記録が不明のイーグルを購入し、約10時間試運転を行って、主機の整備が十分でないことを認めた場合、業者に発注するなどして主機の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行には支障ないと思い、主機の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、航行中、左舷主機の前後進切替え装置のクラッチ操作棒がリンクから外れる事態を招き、クラッチ操作が不能となるに至らしめた。






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