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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月6日17時00分 響灘 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三松栄丸 総トン数
75トン 全長 34.25メートル 機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力 511キロワット 回転数
毎分780 3 事実の経過 第三松栄丸(以下「松栄丸」という。)は、平成元年4月に進水した、底引網漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社が製造した6DLM-22FS型と呼称するディーゼル機関1基を装備していた。 主機は、湿式油圧多板クラッチ付減速機を介して可変ピッチプロペラを、また同減速機に内蔵した増速歯車を介して容量120キロボルトアンペアの三相交流発電機をそれぞれ駆動していた。 主機過給機は、石川島播磨汎用機械製造株式会社が製造したVTR-201型と呼称する排気ガスタービン過給機で、ロータ軸の両端に軸受箱を配置してタービン側に単列玉軸受を、またブロワ側に複列玉軸受をそれぞれ装着し、各軸受箱にためられた約0.8リットルの潤滑油が軸端のポンプ円板で循環給油され、排気ガスがタービン軸受箱に流入しないようブロワからロータ軸のケーシング貫通部にシール空気が供給されるようになっていたうえ、ラビリンスブッシュが取り付けられていた。 過給機の潤滑油は、取扱説明書で運転時間500時間毎に取り替えるよう推奨され、また最大でも1,000時間以内に取り替えるよう記載されていた。 松栄丸は、主に対馬沖から五島列島付近にわたる海域を漁場とし、基地である下関漁港を出港して帰港するまで5、6日の操業を行い、主機が1箇月当たり420時間、年間では5,000時間ほど運転されており、2年ごとの検査入渠で主機の整備が行われ、その際に過給機が開放整備された。 ところで、主機は、出港から入港までの間、プロペラの翼角制御を行って連続運転し、漂泊するときにも交流発電機を駆動して軽負荷の運転時間が長かったので、過給機ブロワの空気圧力が低いときに排気ガスが軸受箱に少しずつ入り、潤滑油が短時間で汚れる状況にあった。 A受審人は、平成5年7月から一等機関士として、また同6年5月から機関長として乗船し、平成9年9月に過給機の潤滑油を取り替えた際に同油が異常に汚れていることに気付いたがその後油量が減少したときに補給しているので大丈夫と思い、潤滑油を適切な間隔で取り替えることなく、潤滑油が劣化して軸受の摩耗が進行していることに気付かないまま運転を続けた。 こうして、松栄丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、船首1.6メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成10年2月1日下関漁港を発し、対馬北東及び同南の漁場に至って操業を行ったのち、同月6日07時30分操業を終えて主機を回転数毎分750、翼角23.5度として同漁港に向かっていたところ、同日17時00分沖ノ島灯台から真方位144度12海里の地点で、主機過給機のタービン側軸受が異常摩耗して、タービン動翼とブロワインペラがケーシングに接触して異音と振動を生じ、煙突から黒煙を発した。 当時、天候は曇で風力3の西風が吹いていた。 A受審人は、機関室に降り、船橋の操作で既に中立に戻してあった翼角を前進及び後進にしてみると、過給機の音と振動がひどくなったので、過給機の損傷を認め、運転不能と船長に報告した。 松栄丸は、同航していた僚船に曳航されて下関漁港に帰港し、開放の結果、過給機タービン動翼及びブロワインペラが接触摩耗し、ロータ軸が曲損していることがわかり、のち過給機が取り替えられた。
(原因) 本件機関損傷は、主機過給機の潤滑油の取替え管理が不十分で、同油が長期間取り替えられず、タービン軸から侵入した排気ガスで潤滑油が汚れ、性状が劣化したまま運転が続けられ、軸受が異常摩耗したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、主機過給機の潤滑油の管理に当たる場合、前回の取替え時に同油が異常に汚れていることに気付いていたのであるから、軸受が異常摩耗しないよう、潤滑油を適切な間隔で取り替えるべき注意義務があった。しかし、同人は、潤滑油を補給していれば大丈夫と思い、潤滑油を適切な間隔で取り替えなかった職務上の過失により、過給機潤滑油が排気ガスで汚れで性状が劣化し、タービン側の軸受が異常摩耗する事態を招き、タービン動翼及びブロワインペラがケーシングと接触してロータ軸を曲損させるに至った。 |