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1999年(平成11年)

平成11年横審第97号
    件名
漁船第七十一大慶丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年12月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、猪俣貞稔、長浜義昭
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第七十一大慶丸一等機関士 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
主配電盤及び主機のスラスト軸受の焼損

    原因
排水管を取り外す際の防水処置不十分

    主文
本件火災は、排水管を取り外す際の防水処置が不十分で、主配電盤内部に海水が浸入したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月10日07時55分
宮城県金華山東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十一大慶丸
総トン数 348トン
全長 61.56メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,838キロワット
回転数 毎分310
3 事実の経過
第七十一大慶丸(以下「大慶丸」という。)は、昭和57年5月に進水した、大中型まき網漁業に従事する2層甲板の鋼製漁船で、船体前部の上甲板下部に機関室を、同室上部に船楼を設けて居住区及び船橋を配置し、機関室には下段に主機、定格容量450キロボルトアンペアの発電機3台などが、上段の第2甲板に冷凍機器、主配電盤などが据え付けられていた。
主配電盤は、第2甲板の前部右舷側に据え付けられており、高さ1.8メートル幅3.8メートル奥行き0.68メートルのデッドフロント型で、船首側から順に1号、2号、3号各発電機盤、交流440ボルト給電盤、交流220ボルト給電盤、交流100ボルト給電盤及び直流24ボルト充放電盤の7盤からなり、主配電盤の頂面と上甲板との間には約70センチメートル(以下「センチ」という。)の空間があり、真上の上甲板には船楼居住区の便所が位置していた。

ところで、便所の床洗浄水は、床の排水口から呼び径2インチの排水管を通り、逆止弁を経て船外に排出されるようになっていたが、排水口の位置が交流440ボルト給電盤の真上にあり、同排水管は、排水口から垂直に約30センチ下がって右舷側に曲がり、舷側近くを下降して主配電盤裏側の船体付き逆止弁に接続されていた。
A受審人は、平成6年3月一等機関士として乗船し、機関長、日本人機関部員2人及び外国人機関部員3人とともに機関部の当直や保守整備にあたっていた。
大慶丸は、同9年8月8日08時A受審人ほか19人が乗り組み、船首4.4メートル船尾4.8メートルの喫水で宮城県石巻港を発し、同県金華山東方沖の漁場に向かった。翌9日便所の床を海水で洗浄した際、海水が排出されなかったので翌10日04時漁場に着いたのち、機関部が排水管を取り外して閉塞(そく)部を掃除することとした。

同10日朝A受審人は、作業責任者として排水管取外し作業にあたり、外国人機関部員2人を指揮して同作業を始める際、同管を取り外したとき管内の海水が落ちて主配電盤に降りかかることが予想されたが、交流440ボルト給電盤頂面に約1メートル四方のビニールシートを敷いたので主配電盤内部に海水が入ることはないと思い、主配電盤内部に海水が浸入することのないよう、主配電盤全体をビニールシートで覆うなど十分に防水処置することなく、機関部員の1人が排水口の下約20センチにあるフランジボルトを、1人が逆止弁前のフランジボルトをそれぞれ緩め始めたとき、作業の指揮を続けずに運転中の発電機の点検に向かった。
こうして大慶丸は、主機回転数を毎分約280とし、速力約10ノットで魚群調査中、機関部員が排水管を取り外したところ、上甲板から同管内にかけてたまっていた海水が主配電盤に降りかかり、驚いた機関部員がA受審人を呼び戻そうとしたとき、海水が給電盤内部に浸入して交流440ボルトの電路が短絡し、「ボン」という大音と火花を発するとともに電線被覆や遮断器などの電具が炎上し、交流440ボルト給電盤表面中央付近から炎を吹き出し、炎は主配電盤上部からも電線束を伝って昇り、同10日07時55分北緯37度57分東経150度34分の地点において火災となった。

当時、天候は曇で風力3の南南西風が吹き、海上にはやや高いうねりがあった。
A受審人は、発電機の点検を終えて戻る途中主配電盤から炎が出て燃え広がるのを認め、機関長も機関室第2甲板の冷凍機前で冷凍機調整中、異音と主配電盤付近からの閃(せん)光に気付いて主配電盤に急行し、2人で機関室内に備え付けてあった消火器を取って消火作業にあたった。
大慶丸は、約10分間の消火作業で火災が鎮火したが、主配電盤の焼損で主機が運転不能となって救助を求め、僚船に曳(えい)航されて石巻港に引き付けられた。
火災の結果、主配電盤が焼損したほか、船内電源を失った状態で曳航中プロペラ軸を固定しなかったので、可変ピッチプロペラの遊転により主機のスラスト軸受が焼損したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件火災は、漁場で魚群調査中、主配電盤上部に配管された排水管の詰まりを修理する目的で同管を取り外す際、主配電盤の防水処置が不十分で、同管を取り外したとき管内の海水が落ちて主配電盤内部に浸入し、電路が短絡して火花を発し、電線被覆や遮断器などの電具が炎上したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、漁場で魚群調査中、主配電盤上部に配管された排水管の詰まりを修理する目的で同管を取り外す場合、同管を取り外したとき管内の海水が落ちて主配電盤に降りかかることが予想されていたのであるから、海水が主配電盤内部に浸入することのないよう、主配電盤全体をビニールシートで覆うなど十分に防水処置すべき注意義務があった。しかるに、同人は、排水口真下の交流440ボルト給電盤頂面に約1メートル四方のビニールシートを敷いたので主配電盤内部に海水が浸入することはないと思い、十分に防水処置しなかった職務上の過失により、火災を生じさせて主配電盤を焼損させ、運航不能とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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