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1999年(平成11年)

平成11年函審第46号
    件名
漁船第三十八昇陽丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年12月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、酒井直樹、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第三十八昇陽丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
機器室、居住区通路、賄室、食堂、後部船員室、左右コンパニオン及び漁労作業甲板が全焼、機関室の一部及び主機過給機が焼損

    原因
漁獲物処理場ファンの始動器盤内の点検不十分

    主文
本件火災は、漁獲物処理場ファンの始動器盤内の点検が不十分で、同盤内の主電路端子が緩んだ状態で同ファンが運転されたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月8日01時50分
北海道網走港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八昇陽丸
総トン数 124.96トン
登録長 32.19メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
回転数 毎分680
3 事実の経過
第三十八昇陽丸(以下「昇陽丸」という。)は、昭和54年6月に進水し、上甲板及びほぼ全通の船楼甲板を有する船首船橋船尾機関室型の鋼製漁船で、オッタートロール式沖合底びき網漁業に従事していた。
船楼甲板上は、船橋後方にトロールウインチが設置され、同ウインチの後方から船尾にかけてが漁労作業甲板で、同作業甲板中央付近の左右にコンパニオンが設けられていた。船楼甲板と上甲板との間は、船首側から順に甲板長倉庫、前部居住区、漁獲物処理場、機関室上方区画、後部居住区、操舵機室となっていた。そして、上甲板下は、船首側から順に空所、燃料油タンク、食糧庫、魚倉、機関室、清水タンク、燃料油タンクと続いていた。

機関室は、中央に主機が装備され、主機の両側にディーゼル機関駆動の225ボルト150キロボルトアンペアの三相交流主発電機が各1台設置され、左舷側主発電機の後方に主配電盤が設置されていた。また、機関室上方に位置する機関室上方区画は、船幅3分の1の左舷側寄りのところで鋼板製の壁で左右に区分けされ、右側が機器室で、左側が居住区通路になっていた。
機器室は、中央に開口部を有し、右舷側に燃料油及び潤滑油の各清浄機、溶接機などが備えられ、前部に燃料油のセットリング及びサービスの各タンク、潤滑油セットリングタンク、主機の冷却清水膨張タンクなどが設置され、左舷側に機関室への階段が設けられ、開口部から主機及び主発電機用ディーゼル機関の排気管が右舷側コンパニオンの煙突に導かれており、左舷側の壁には前後にドアが設けられていた。

また、居住区通路は、左舷側沿いに左舷側コンパニオンに通じる階段、寝台と機関監視盤を備えた機関長室、機関室送風機などが設けられ、後壁に後部居住区に通じるドアが取り付けられ、同区内の賄室、食堂及び後部船員室の出入口となっていて、前壁には漁獲物処理場に出入りする引戸が取り付けられていた。
ところで、漁獲物処理場の換気は、左舷側コンパニオン内に設置された三相交流220ボルト0.4キロワットの電動ファン(以下「漁獲物処理場ファン」という。)によって行われ、漁獲物処理場ファンの発停スイッチは、機器室後壁に取り付けられた同ファンの始動器盤に設けられているほか、漁獲物処理場左舷後部の引戸付近に発停押しボタンスイッチが、漁獲物処理場排水ポンプのものと並んで取り付けられていた。
A受審人は、昭和63年1月昇陽丸に一等機関士として乗り組み、平成4年1月機関長に昇進して機関の運転管理に当たり、漁獲物処理場ファンの取扱いに当たっては、夏場の暑いときのみ使用し、夏が近づくと同ファン本体の周囲をハンマーで叩いて錆落しをしたうえで試運転していたもので、平成8年も6月ごろ同ファンを錆落し後試運転したが、同ファン始動器盤内の主電路の端子取付けビスは、機関振動などの影響を受けて少し緩んだ状態となっていた。ところが、同受審人は、試運転して運転音などに格別異状ないことから電気系統に不具合箇所はあるまいと思い、同ファンの始動器盤内を点検しなかったので、同主電路の端子取付けビスが緩んだ状態となっていることに気付かなかった。

その後漁獲物処理場ファンは、平成8年夏の使用時期を終えて運転されないでいたが、前示の端子取付けビスの緩みが機関振動により更に進行するようになった。そして昇陽丸は、翌9年2月から休漁期に入り、3月上旬に中間検査を受検して同月中旬から操業を開始した。
こうして昇陽丸は、A受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、平成9年4月8日01時00分北海道網走港を発し、オホーツ海の漁場へ向け航行中、漁獲物処理場を見回った乗組員が、ビルジが溜っているのを認めて漁獲物処理場排水ポンプを運転するつもりで、誤って隣接している漁獲物処理場ファンの発停押しボタンスイッチを押したものか、同ファンが運転された。
このため、緩みの生じていた前示主電路の端子は、発熱により次第に蓄熱して温度が上昇し、やがて周囲の電線や絶縁物が加熱され発火して周囲に燃え移り、A受審人は、自室で機関日誌を記入していたところ、異臭に気が付いて機器室に入り、01時50分能取岬灯台から真方位031度3.0海里の地点において、同室内が煙で充満し、同室後壁から炎が出ているのを認めた。

当時、天候は曇で風力1の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、後部居住区へ行って乗組員を避難させ、昇橋して火災発生を急報するとともに通風機を一斉停止し、居住区通路へ引き返したものの熱気でどうすることもできず、危険を感じて左舷側コンパニオンから漁労作業甲板に脱出し、同コンパニオン入口から放水して消火作業を行っていたところ、中から吹き出す煙で同作業が不能となったためコンパニオン入口ドアなどを閉鎖したが、火災は、機器室の熱で、食堂及び後部船員室の板壁に延焼した。
昇陽丸は、反転して自力で帰航しようとしたものの、主機の過給機が火炎を吸い込んで煙突から炎が噴出するので船橋で主機を非常停止し、付近を航行中の僚船に救助を求め、来援した同船によって引航されて03時40分網走港新港岸壁に着岸し、待機していた消防車によって消火作業が行われ、同日05時30分鎮火した。

火災の結果、機器室、居住区通路、賄室、食堂、後部船員室、左右コンパニオン及び漁労作業甲板が全焼し、ほかに機関室の一部及び主機過給機が焼損しており、のち修理業者が焼損箇所を修理した。

(原因)
本件火災は、漁獲物処理場ファンの運転保守に当たり、同ファン始動器盤内の点検が不十分で、同盤内の主電路端子が緩んだ状態で同ファンが運転され、同端子が発熱して周囲の絶縁物などが燃え上がったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、漁獲物処理場ファンの運転保守に当たる場合、機関振動などにより始動器盤内の電路端子に緩みを生じていることがあるから、緩みの有無を発見できるよう、同ファン始動器盤内の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが同人は、試運転して運転音などに格別異状ないことから電気系統に不具合箇所はあるまいと思い、同ファン始動器盤内の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、始動器盤内の主電路端子が緩んだ状態で同ファンが運転される事態を招き、同端子の発熱により周囲の絶縁物が燃え上がって火災となり、機器室、居住区通路、賄室、食堂、後部船員室などを全焼させ、機関室の一部及び主機過給機を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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