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1999年(平成11年)

平成11年横審第70号
    件名
漁船第三十一共進丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年10月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、半間俊士、吉川進
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:第三十一共進丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
食堂、調理室、操舵機室、乗組員居住区通路なとが焼損

    原因
電気コンセントの整備不十分

    主文
本件火災は、電気コンセントの整備が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月15日12時55分(現地時間)
アメリカ合衆国ホノルル港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一共進丸
総トン数 386トン
全長 56.17メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分360
3 事実の経過
第三十一共進丸(以下「共進丸」という。)は、平成9年3月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事する鋼製漁船で、上甲板の中央部から後方に船尾楼を設け、船尾楼の上甲板には前方から冷凍室、冷凍機室、食堂、調理室及び操舵機室が、船尾楼甲板には乗組員室、機関室上段、索収納箱、船尾作業場などが、船橋甲板には船橋、無線室、船長室及びサロンが、それぞれ配置されていた。
食堂には、後壁に木製の食器戸棚があって、その台上が電気炊飯器、保温ジャー、大型及び小型電気ポット、電子レンジなどの置場となっていて、同壁面に差し込み口が1口の埋込型の電気コンセントが2個設置され、同コンセントに交流電圧110ボルトが供給されていた。

共進丸は、平成9年5月処女航海で静岡県清水港を発し、東太平洋のまぐろ漁場で操業ののち、翌10年8月20日08時(現地時間、以下同じ。)アメリカ合衆国ホノルル港に入港して処女航海を終え、北緯21度19分西経157度52.6分の地点の同港36番ふ頭に係留し、次の航海用の食料や餌(えさ)が積み込まれていたことから冷凍機や発電機を運転したまま、乗組員に休暇を取らせる目的で、同日A受審人を日本から呼び寄せて係船要員兼機関長として乗船させたうえ全乗組員を帰国させた。
A受審人は、乗船後から機関制御室で寝泊まりし、5ないし6時間ごとに機関室を見回って運転中の機器を点検し、燃料こし器を掃除したり、運転機器を切り替えたりして、1人で係船当番に当たった。その間、生活必要品などは係留地点から400ないし500メートルの距離にある売店まで買物に出かけ、食事は業者に弁当の配達を依頼し、業者が休みの土、日曜日は電気炊飯器などを使用して自炊するほか、電気ポットや電子レンジなどを適宜使用していた。

ところで、食堂の2個の電気コンセントのうち右舷側は、処女航海で使用されるうち、プラグの差し刃と同コンセントの刃受との接角不良による過熱で同コンセントのカバー表面が変色したまま放置されており、内部の配線被覆や絶縁樹脂も炭化によって微小漏電が生じる状況となっていた。
A受審人は、初めて右舷側の電気コンセントを使用するに当たり、同コンセントのカバー表面が焦げて変色しているのを認め、小型電気ポットのプラグを差し込んだところ差し込みが緩く、プラグが下に垂れる状態であったが、プラグの差し刃を広げると緩みが解消されたので過熱することはないだろうと思い、以後、同コンセントを取り替えるなど整備することなく、使用を続けた。
右舷側の電気コンセントは、微小漏電や過熱によって電路付近の絶縁樹脂の炭化が進行し、そのまま継続使用すると出火するおそれがある状況となっていたところ、9月15日船内で昼食を終えたA受審人は、それまでの経験から小型電気ポットに水を入れて30分間通電したままでも沸騰した湯が8割程度残ることが分かっていたので、帰ってからコーヒーを飲むつもりで小型電気ポットに水を入れ、12時30分ごろ同ポットのプラグを右舷側の電気コンセントに差し込んで通電状態として買物に出かけ、共進丸を無人とした。

こうして共進丸は、前示係留地点において係留中、小型電気ポットに通電中の電気コンセントから出火し、周囲の壁板や木製台に燃え広がって火災となり、12時55分帰船途中のA受審人が共進丸の調理室の換気口付近から黒煙が上がっているのを認めた。
当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、急ぎ共進丸に戻って食堂のドアを開けたところ、小型電気ポット付近に炎を認め、調理室の水をかけて消火しようとしたが果たせず、ふ頭に集まった人に消防車の手配を依頼してから海水ポンプでの消火に努めた。
共進丸は、到着した消防車、ポンプ車及び海上消火船の活動により消火された。
火災の結果、共進丸は、食堂、調理室、操舵機室、乗組員居住区通路などが焼損したが、のち修理された。


(原因)
本件火災は、ホノルル港において係留中、係船要員が電気器具を使用するに当たり、電気コンセントのカバー表面が焦げて変色し、プラグの差し込みが緩いのを認めた際、同コンセントの整備が不十分で、同コンセントの電路が過熱、漏電するまま使用され、炭化した配慮被覆や絶縁樹脂が発火し、周囲の木製壁などに燃え広がったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、ホノルル港において係留中の係船要員として電気器具を使用するに当たり、電気コンセントのカバー表面が焦げて変色し、プラグの差し込みが緩いのを認めた場合、同コンセントから出火することのないよう、接触不良の刃受、炭化した絶縁樹脂や配線を取り替えるなと十分に整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、プラグの差し刃を広げると緩みが解消されたので過熱することはないだろうと思い、同コンセントを十分に整備しなかった職務上の過失により、火災を生じさせ、食堂、調理室、操舵機室、乗組員居住区通路などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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