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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月28日04時50分 北海道紋別郡湧別漁港沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第十五ゆうべつ丸 総トン数 14トン 全長 21.36メートル 機関の種類
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 出力
478キロワット 回転数 毎分1,900 3 事実の経過 第十五ゆうべつ丸(以下「ゆうべつ丸」という。)は、平成7年12月に進水したほたて桁網漁に従事する一層甲板型軽合金製漁船で、甲板下の中央から船尾寄りにかけて機関室を有し、同室上部の甲板上には機関室囲いが設けられ、同囲い前寄りの上部に操舵室が設置されており、主機として、三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」という。)が製造したS6A3-MTK2型と呼称するディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側から順番号を付し、軸系にクラッチを備えていた。 主機の過給機は、三菱重工製のTD13型と呼称する輻(ふく)流型排気ガスタービン過給機で、ベアリングハウジングを中央として両測にコンプレッサカバー、タービンハウジングを取り付け、ロータ軸がベアリングハウジング内の両端に設けられた2個の軸受で支持されており、コンプレッサカバーを船首側、タービンハウジングを船尾側として主機の左舷側上部の中央に設置されていた。 また、主機の排気は、各シリンダの排気出口管から1本にまとめられた排気マニホルドを経てタービンハウジング外周下部に入り、タービンを駆動したのち同ハウジングの軸方向から排気管を通り上方の煙突に導かれていた。そして、タービンハウジング、排気管などの高熱部分にはアルミ箔、セラミックファイバ、ワイヤネットから成るラギングを巻き付け、周囲をワイヤで固縛していた。 過給機のロータ軸軸受の潤滑方式は、主機のシリンダブロック左舷側に工作されたメインギャラリのシステム油が、同ギャラリ中央付近から分岐した外径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)厚さ1ミリ長さ約565ミリの鋼製の過給機注油管(以下「注油管」という。)を経てベアリングハウジングの上部に入り、軸受を潤滑したのち出口管を通ってクランク室に戻るもので、注油管は、メインギャラリ側がユニオン継手で、ベアリングハウジング側がターミナル継手と称する継手でそれぞれ接続されていた。 ターミナル継手は、鋼製の直方体に縦穴と、この縦穴に通じる横穴とを設けたもので、横穴には注油管を挿し込んでろう付けしてあり、継手の上下に銅パッキンを挿入して縦穴に六角頭の押さえボルト(以下「継手ボルト」という。)を通してベアリングハウジングにねじ込んで止めるものであった。 継手ボルトは、頭部高さが6ミリ、円筒部とねじ部からなる軸部長さが32.5ミリの一般構造用圧延鋼材製品で、円筒部が2段になっていて、頭部寄りの円筒部が外径10ミリ長さ4ミリ、ねじ部寄りの円筒部が外径9ミリ長さ15ミリで、ねじ部が呼び径10ミリ、ピッチ1.25ミリ長さ11ミリであった。そして、軸部の中心にはねじ部先端から直径2ミリ長さ28ミリの縦の油穴が、ねじ部寄りの円筒部にはこの縦の油穴に直角に交わる直径3ミリ長さ9ミリの横の油穴が2個、それぞれ設けられていた。 ところで、主機は、ゆうべつ丸の就航以来、回転変動が大きく、特に前後進に切り替えたとき回転数の落ち込みが大きく、これに伴い主機駆動発電機の定周波安全装置が作動して航海計器類などの異状が度々生じ、また、排気色が黒いことから三菱重工では調速機及び排気マニホルドの改善に当たり、平成8年8月に排気マニホルドの新替え作業を札幌市内の機関販売店が行ったが、付帯作業として過給機ベアリングハウジングの注油管を取り外して復旧作業に当たった際、継手ボルトを締め過ぎたかして、同ボルト上側の横の油穴箇所に亀(き)裂が生じ、その後この亀裂が次第に進行していた。 C指定海難関係人は、ゆうべつ丸で使用している主機の調速機を、応答特性を改善するなど一部設計変更した新型の調速機の完成に伴い取り替えることになり、平成9年4月27日午後北海道紋別郡湧別町湧別漁港に係留中のゆうべつ丸において、同僚の技師Dと新型の調速機を取り付けたうえ、主機の負荷状態を計測するため各シリンダの排気出口管に温度検出端を取り付け、更に計測器を機関室内に設置して翌日の試運転に備えたが、4番シリンダ排気出口管の温度検出端を取り付けるに当たり、過給機とシリンダヘッドの間が狭く工具を入れにくかったことから、ラギング固縛用のワイヤを緩めてタービンハウジンクのラギングを少しずらしたため、高温の同ハウジングのベアリングハウジング取付け部がわずかに裸出する状態となった。 こうして、ゆうべつ丸は、新型調速機の性能試験を行う目的で、操業状態にて試運転をすることになり、A及びB両受審人ほか4人が乗り組み、C指定海難関係人及びD技師ほか2人が、同乗し、翌28日04時30分湧別漁港を発して同港沖合のほたて貝養殖漁場へ向かい、A受審人が操舵室にて操船に、B受審人が機関室囲い右舷側の甲板上にて操舵室と機関室の間の連絡にそれぞれ当たり、C指定海難関係人が機関室に時々入って計測器が採取するデータを点検していた。 04時45分C指定海難関係人は、主機を全速力の回転数毎分1,900に上げたころに機関室囲い右舷側の出入口から室内をのぞいた際、主機の周辺に薄く白煙が立ち昇っているのに気がつき、確認のため機関室に下りて船首側から左舷側に回ったところ、過給機ベアリングハウジング注油管のターミナル継手から微量の漏油を認め、これが同ハウジンクを伝わって白煙が出ているようであったので、漏油を止めるため継手ボルトを増し締めすることにした。ところが、同人は、操舵室に要請して主機を回転数毎分700の停止回転としたのみで、主機を停止して過給機などの排気系統が十分に冷えるのを待つことなく、柄の長さが180ミリのソケットレンチの中ほどを握って継手ボルトを締めようとして力を入れたが、手ごたえがほとんどないまま同ボルトが亀裂の進行していた箇所から折損して潤滑油が噴き出し、04時50分サロマ湖口灯台から真方位317度7.2海里の地点において、前記のタービンハウジング裸出箇所に付着した潤滑油が発火して火災となった。 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上は穏やかであった。 C指定海難関係人は、主機を停止しようとして停止ハンドルのある主機の右舷側に回ったものの炎と煙で停止できず、機関室出入口から甲板上に逃れた。間もなく主機が自然に停止するとともに天井に取り付けた液体火器が作動し、B受審人らが機関室内の炎に向かって持ち運び式消火器を作動させるなどの消火活動を行ったところ、同時53分ごろ鎮火し、ゆうべつ丸は、付近で操業中の僚船に無線で救助を求め、来援した僚船に曳(えい)航されて湧別漁港に入港した。 火災の結果、過給機及び周辺の配線などか焼損し、機関室内の配電盤、天井、側壁などに熱と煙による損傷を生じたが、のち修理され、C指定海難関係人及びD技師がそれぞれ顔面などに全治約1箇月の熱傷を負った。
(原因) 本件火災は、主機を全速運転中、機関メーカーの技師が、潤滑油漏れを生じていた過給機注油管の継手ボルトを増し締めするに当たり、高温の過給機に対する配慮が不十分で、主機を停止して過給機の冷却を待たず増し締めを行い、折損した同ボルトから潤滑油が噴出した際、同油がラギングをずらし一部裸出状態となっていた過給機のタービンハウジングに降りかかって発火したことによって発生したものである。
(受審人等の所為) C指定海難関係人が、主機を全速運転中、過給機注油管の継手ボルトから潤滑油が漏曳(えい)しているのを認め、同ボルトを増し締めする際、主機を停止して高温となっている過給機の冷却を十分待たなかったことは、本件発生の原因となる。 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |