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1999年(平成11年)

平成10年広審第87号
    件名
漁船第五十六浦郷丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年8月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:第五十六浦郷丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
機関室、船員室、炊事室兼食堂及び操舵室などが焼損、のち廃船

    原因
機関室のビルジの点検不十分、主配電盤の絶縁抵抗の低下についての配慮不十分

    主文
本件火災は、機関室のビルジの点検が不十分であったことと、主配電盤の絶縁抵抗の低下についての配慮が不十分であったこととによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月27日13時40分
島根県隠岐諸島北北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十六浦郷丸
総トン数 124トン
登録長 29.47メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
3 事実の経過
第五十六浦郷丸は、昭和51年9月に進水した、はえなわ漁業(べにずわいがに)に従事する中央船橋型鋼製漁船で、上甲板下が、船首から順に船首水槽、3個の魚倉、機関室及び船員室となっており、上甲板上には、船首から順に船首楼、ウインチ及びラインホーラなどを設けた前部甲板、凍結庫を改造した格納庫、機関室囲壁、炊事室兼食堂及び漁具置場の後部甲板がそれぞれ配置され、格納庫後部から機関室前部にかけての上方が操舵室で、同室に主機の回転計、潤滑油圧力計などの計器類及び警報装置を組み込んだ主機遠隔操縦装置が備えられていた。
機関室には、中央に主機として株式会社新潟鉄工所が製造した6MG25BX型と称するディーゼル機関を備え、その前部の動力取出軸に連結された増速機を介して駆動する甲板機械用油圧ポンプが、主機の右舷側に交流220ボルト容量130キロボルトアンペアの1号発電機を駆動する出力147キロワットの原動機(以下「1号補機」という。)、主機用潤滑油冷却器、燃料海沈殿槽などが、左舷側に交流200ボルト容量160キロボルトアンペアの2号発電機を駆動する出力147キロワットの原動機(以下「2号補機」という。)のほか、雑用水ポンプ、空気圧縮機、2号発電機の後部にビルジポンプ、続いて主機の周囲に敷かれた床板より約50センチメートル高くなった床板上に、後部隔壁の左舷側に沿って正面を船首方に向けた主配電盤が同室前部上段に燃料油サービスタンク及び蓄電池庫がそれぞれ設けられていた。
主配電盤は、高さ1.5メートル幅2.0メートル奥行き0.6メートルの鋼板製デッドフロント型のもので、左舷側に両発電機の気中遮断器、電圧計、電流計、電力計、同期検定灯などを設けた発電機盤、中央に雑用水ポンプ、空気圧縮機、ビルジポンプ、機関室送風機などの遠隔発停スイッチ及び18個の遮断器を組み込んだ交流220ボルトの動力系給電盤、右舷側に船内照明灯、航海灯、充電器などの交流110ボルト及び直流24ボルトの照明系給電盤で構成されており、それぞれの前面に横開きできるパネル扉を備えていた。
ところで、機関室のビルジは、主機の逆転減速機後部の下方にあるビルジだめから単式ビルジこし器、呼び径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)のビルジ吸入管及び吸入逆止弁を経てビルジポンプにより吸引され、左舷側外板に設けた船外吐出弁から船外に排出されるようになっていたほか、同だめに呼び径80ミリの同吸入管が配管され、雑用水ポンプでもビルジを排出することができるようになっていた。
両補機の冷却海水系統は、それぞれ独立しており、主機右舷側床板下方の海水吸入箱に1号補機の海水吸入弁が、反対側の同箱に2号補機の同吸入弁が取り付けられており、同吸入弁から単式海水こし器及び呼び径40ミリの海水吸入管を経て、それぞれの直結冷却海水ポンプにより吸引加圧された海水が、シリンダジャケット、シリンダヘッド、潤滑油冷却器及び過給機などを冷却したのち、右舷側又は左舷側外板にある船外吐出弁から排出されるようになっていた。
A受審人は、現船舶所有者が本船を購入した平成9年7月から機関長として乗り組み、同月に実施した中間検査工事で船体及び機関を整備したのち、機関員2人を指揮、監督して機関の運転と保守管理にあたっており、機関当直については、基地である鳥取県境港と隠岐諸島北方沖合の漁場との往復時は単独4時間交替の3直制とし、操業時は機関員2人が甲板作業に従事することから、同受審人が1人で同当直に就き、機関監視及び機関室のビルジ処理などを行っていた。
本船は、A受審人ほか8人が乗り組み、べにずわいがにかご漁の目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同10年1月26日09時10分境港を発し、主機を回転数毎分530の全速力前進にかけ、2号補機を運転して隠岐諸島北北東方沖合の漁場に至り、翌27日05時30分ごろから数日前に投入したかにかごの第1回目の揚収作業を開始し、09時20分ごろこれを終えて再びかにかごを投入したのち、操舵室で主機を遠隔操作して南東方の漁場に移動し、主機を毎分270の停止回転として甲板機械用油圧ポンプを駆動しながら、10時30分ごろから第2回目の揚収作業に取り掛かった。
機関当直に就いていたA受審人は、第1回目の揚収作業を終えたころ機関室に赴き、主機及び2号補機などを点検し、その後同室を無人としたが、それまでビルジが余り増加していなかったので大丈夫と思い、定期的に同室の巡視を行うなどして、同室のビルジの点検を十分行うことなく、甲板に出て操業の手伝いなどをしていたので、いつしか2号補機の海水こし器出口側海水吸入管に亀裂(きれつ)破孔を生じて海水が同室に流入するままとなり、ビルジが著しく増加する状況となっていることに気付いていなかった。
第2回目の揚収作業を行っていた本船は、運転中の2号補機の海水吸入管に生じた亀裂破孔が次第に拡大して海水の漏洩量が増加し、やがて主機のフライホイールがビルジを巻き上げて機関室の天井などで跳ね返り、その一部が主配電盤に降り掛かった。
13時30分ごろ前部甲板にいたA受審人は、後部甲板で作業していた甲板員から主機の作動音や煙色の異常を知らされ、炊事室兼食堂の前部左舷側にある出入口から機関室に赴いたところ、鼻を刺すような異臭を感じ、主機のフライホイールがビルジを激しく巻き上げているのを認めて機側で主機の停止操作を行っているうち、発電機盤の2号発電機の気中遮断器がトリップして船内電源が喪失したので、急ぎ同遮断器を再度投入して同電源を回復させた。
このとき、A受審人は、動力系及び照明系の両給電盤の表面に水滴が付着し、動力系給電盤にある雑用水ポンプ、機関室送風機などの遮断器3個が少し変色して給電が断たれた状態であったうえ、ビルジポンプの遠隔発停スイッチを操作しても同ポンプが回転しないことなどを認めたが、主配電盤の絶縁抵抗の低下について十分に配慮することなく、発電機を停止しないで船内各所に給電を続けた。
A受審人は、ビルジポンプが使用不能となったことから、炊事室兼食堂のコンセントから交流電源をとって魚倉用水中ポンプでビルジの排出を開始するとともに、床板を取り外すなどして浸水箇所を調査したところ、2号補機の海水吸入管の亀裂破孔部から海水が吹き出しているのを見付けて1号補機に切り替え、2号補機の海水吸入弁を閉弁して海水の流入を止めた。
こうして、本船は、水中ポンプでビルジの排出作業を続けていたところ、13時40分北緯37度16分東経133度45分の地点において、絶縁抵抗の低下により短絡気味となっていた照明系給電盤の電路及び遮断器などが加熱し、電路の絶縁被覆が着火して火災となった。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、海上にはやや波があった。
食堂で休憩していたA受審人は、甲板員から火災発生の連絡を受けて機関室に赴いたところ、黒煙が立ち込め、照明系給電盤上方から出ている電線束が燃え上がっているのを認め、持ち運び式消火器を同給電盤に向けて放射するも効なく、そのうち船内電源が喪失し、ますます火災が拡大するうえ息苦しくなって同室にいることができなくなり、1号補機を停止して同室を脱出した。
操舵室にいた船長は、機関室に黒煙が充満し、火勢が次第に強くなる旨の報告を部下から聞いて消火器などによる消火を断念し、同室の各出入口扉及び天窓などの開口部を閉鎖するよう指示したが、しばらくして炊事室兼食堂及び操舵室にも煙が充満するようになったので、居住区の各風雨密戸などの開口部を密閉し、僚船に無線で救助を求めた。
A受審人ほか乗組員全員は、何らの消火活動もできないまま風上の前部甲板に避難し、14時30分救命筏を投下して救助を待っていたところ、15時40分僚船が到着したので乗り移り、そのころ本船は、上甲板上の炊事室兼食堂、操舵室及び漁具置場の後部甲板にも延焼しており、21時ごろ巡視船が来援して放水消火にあたり、翌28日16時ぐろようやく鎮火し、巡視船などにより境港に曳航(えいこう)された。
火災の結果、本船は、機関室、船員室、炊事室兼食堂及び操舵室などが焼損し、のち廃船とされた。

(原因)
本件火災は、隠岐諸島北北東方沖合において操業中、機関室のビルジの点検不十分で、2号補機の海水吸入管に亀裂破孔を生じて海水が無人の同室に流入するままとなり、主機のフライホイールにより巻き上げられたビルジが主配電盤に降り掛かったことと、同盤の絶縁抵抗の低下についての配慮が不十分で、発電機が停止されず、同盤の照明系給電盤の電路及び遮断器などが短絡過熱し、電路の絶縁被覆が着火したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、操業中、機関当直に就いて機関室の管理にあたる場合、冷却海水系統の異常を早期に検知して直ちに対処できるよう、定期的に巡視を行うなどして、同室のビルジの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、それまでビルジが余り増加していなかったので大丈夫と思い、定期的に巡視を行うなどして、同室のビルジの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、2号補機の海水吸入管に亀裂破孔を生じて海水が同室に流入していることに気付かず、主機のフライホイールにより巻き上げられたビルジが主配電盤に降り掛かり、同盤の絶縁抵抗が低下して出火を招き、機関室、船員室、炊事室兼食堂及び操舵室などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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