日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年長審第79号
    件名
押船第七信生丸被押バージNo.451火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年5月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、保田稔
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第七信生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
右舷側居住区全体焼損

    原因
防火対策不十分(電気溶接作業時)

    主文
本件火災は、甲板上での溶接作業時における防火対策が不十分で、甲板下の可燃物が燃え広がったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月28日09時30分ごろ
長崎県島原港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 押船第七信生丸 バージNo.451
総トン数 19トン
登録長 11.98メートル 46.00メートル
幅 3.48メートル 10.50メートル
深さ 2.76メートル 3.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
3 事実の経過
第七信生丸(以下「信生丸」という。)は、昭和59年6月に竣工し、航行区域を限定沿海区域とする鋼製の引船兼押船で、海砂約300立方メートルを積んで船首2.6メートル船尾2.8メートルの喫水となったバージNo.451(以下「バージ」という。)の船尾に船体の大部分を嵌合(かんごう)させ、竣工当時から船長として乗り組んでいるA受審人と平成8年3月から甲板員となったB指定海難関係人のほか、甲板員と機関員が1人ずつ乗り組み、船首3.0メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同10年7月28日07時20分熊本県天草郡大矢野町大潟地区を発し、三角瀬戸経由で長崎県南高来郡国見町多比良港へ向かった。
ところで、バージは、昭和59年12月に製造され、船体中央部に両舷側を浮力室で囲んだ底開き式の船倉1個を有する鋼製一層甲板型非自航の凌渫船で、船尾端からの長さ15.0メートル上甲板上の高さ2.1メートルの船尾甲板を備えていたが、船尾に押船を嵌合させるため、同甲板の船首尾線沿いに船尾端からの長さ10.2メートル幅6.1メートルの開口を設け、船倉の後方から同甲板の前部中央下方にかけて発電機、配電盤、ポンプ類、電気溶接機等を備えたポンプ室を配置し、同甲板の両舷側下が天井と壁を厚さ約3ミリメートル(以下「ミリ」という。)のベニヤ板で内張りした居住区となっていて、右舷側居住区の前部を押船の船長室と定め、同室に机、椅子、本棚、ベッド、布団、書類等の多量の可燃物を収納し、ポンプ室の出入口扉は上甲板上の同室前壁に、居住区各室の出入口扉はポンプ室上部両舷側にそれぞれ設けてあった。
また、船尾甲板は、厚さ約6ミリの鋼坂製で、前端両舷側に上甲板への階段を取り付け、前部中央に船倉の底開き装置操作スタンド、ウィンチ、キャプスタン等を、両舷側にビット、ボラード等をそれぞれ備え、手摺(てすり)として、直径約50ミリの鋼管を高さ約0.9メートル長さ約1.2メートルの間隔で外周に溶接付けしてあったが、経年により、手摺の脚部が著しく腐食していた。
発航後A受審人は、B指定海難関係人に船尾甲板上の手摺を新替えさせることにしたが、同人は工業高等学校の機械科出身で、溶接作業に慣れているから任せておいて支障あるまいと思い、同人に対し、火傷防止のために保護具を着用するようにと告げただけで、同甲板下の可燃物を片付けさせたり、付近に消火器を用意させたりするなどの火災予防指導を十分に行うことなく、朝食を済ませたあと、機関員を信生丸の船橋当直に、他の甲板員をB指定海難関係人の作業補助者に就け、自らは海砂の積込みで汚れた左舷側船尾甲板上の清掃にあたった。
一方、B指定海難関係人は、朝食を済ませたあと、他の甲板員とともに、08時40分ごろ船尾甲板前部右舷側の手摺新替えのための電気溶接作業を開始したが、過去の溶接作業時には何ら支障を生じなかったこともあって、船尾甲板下のことを全く気にしないで、同甲板員を居住区内の監視にあたらせるなどの火災予防措置をとらないまま、同作業開始後しばらくして、ついうっかりして甲板の手摺の付け根にアークによる穴を開けてしまった際にも、「甲板に穴が開いた。」とA受審人に報告しただけで同作業を続けた。なお、B指定海難関係人から船尾甲板に穴が開いたことを知らされたA受審人も、左舷側船尾甲板上の清掃作業に気をとられていたものか、B指定海難関係人に対して「穴をふさいでおけ。」と告げただけで同作業を続けた。
こうしてバージは、信生丸に押されながら三角瀬戸を抜けて島原湾を北上中、前示穴が開いて落下した火の玉がベニヤ板に燃え移って延焼するようになり、A受審人がふと同穴は自室の上にあたると気付き、急いで上甲板へ降りてポンプ室に入り、09時30分ごろ島原灯台から029度2.2海里ばかりの地点において、自室の出入口扉を開けたとたんに火煙が吹き出したので、自室が火災になったことを認めた。
当時、天候は晴で風がほとんどなく、海上は隠やかであった。
A受審人は、直ちに自室の出入口扉を閉め、ポンプ室から出て乗組員全員に火災発生の旨を知らせ、船尾甲板上に海水をまきながら海上保安部に救助を求め、やがて来援した消防艇からの放水を受け、13時ごろ鎮火して多比良港に入ったのち、焼損した右舷側居住区全体の修理を行った。

(原因)
本件火災は、船尾甲板上で電気溶接作業を行うにあたり、同甲板下の防火対策が不十分で、同作業によって生じた火の玉が、同甲板下居住区天井のベニヤ板に着火して燃え広がったことによって発生したものである。
防火対策が不十分であったのは、船長の溶接作業を行う甲板員に対する火災予防指導が不十分であったことと、同甲板員の火災予防措置が不十分であったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、甲板員に船尾甲板の手摺新替えのための電気溶接作業を行わせる場合、同甲板下は居住区となっていて多量の可燃物を内蔵していたのであるから、これらの可燃物が同作業により着火して燃え広がることのないよう、同甲板下の可燃物を片付けさせたり、付近に消火器を用意させたりするなどの火災予防指導を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、甲板員ば溶接作業に慣れているから任せておいても支障あるまいと思い、火傷防止のために保護具を着用するようにと告げただけで、火災予防指導を十分に行わなかった職務上の過失により、同人が何ら火災予防措置をとらない事態を招き、居住区に火災を発生させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、船尾甲板の手摺新替えのための電気溶接作業を行うにあたり、作業補助者を同甲板下居住区内の監視にあたらせるなどの火災予防措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、同人の乗船履歴と、A受審人の火災予防指導が十分でなかったこととに徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION