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1999年(平成11年)

平成10年横審第33号
    件名
油送船日宝丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年1月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、川原田豊、河本和夫)
参審員(川橋貫一、田畠泰幸
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:日宝丸機関長 海技免状:二級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
主機過給機ケーシング、6番シリンダの給排気弁、配電盤などが焼損

    原因
主機燃料油入口温度センサー取り付け部からの漏油の有無点検不十分

    主文
本件火災は、主機燃料油入口温度センサー取り付け部からの漏油の有無点検が不十分で、同取付け部から噴出した燃料油が過給機に降りかかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月24日03時00分
茨城県日立港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船日宝丸
総トン数 999トン
全長 79.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分235
3 事実の経過
日宝丸は、平成6年2月に進水した、沿海区域を航行区域とする鋼製油送船で、主機として、阪神内燃機工業株式会社が製造したLH36L型と称するディーゼル機関を装備し、船橋に火災探知装置制卸盤、主機の遠隔操縦装置などを、機関室に固定式炭酸ガス消火装置をそれぞれ備えていた。
本船は、京浜港から東北または北海道方面への石油製品の輸送に月間7ないし8航海従事しおり、機関部乗組員が機関長及び一等機関士の2人で、航海中の機関室当直は両人による6時間の2直制で行われていた。
主機燃料は、停泊中及びスタンバイ中はA重油が、航海中はC重油が使用され、C重油使用時は燃料供給ポンプで約2.2キログラム毎平方センチメートルに加圧され、さらに摂氏約110度に加熱されて燃料噴射ポンプに供給されていた。
主機燃料油入口の温度は、温度センサーによって電気信号に変換されて機関制御室で表示されるが、同センサーは、アダプタ付単筒保護管形の白金測温抵抗体で、その取り付けは、燃料油管に溶接付けされた鋼製座金にステンレス製のアダプタをねじ込み、抵抗素子が内蔵されたつば付き保護管をアダプタに挿入し、そのつば部を、ねじの呼びがG3/4で表示される管用平行ねじが切られたステンレス製の金具(以下「取り付け金具」という。)を約10ミリメートルねじ込んで押さえるようになっていて、座金とアダプタ及びアダプタと保護管つばとの各当たり面にアスベストシートパッキンが挿入されて燃料油の漏れを防いでいた。
主機燃料油入口温度センサーは、主機左舷側後部の、下段通路から高さ約2メートル、上段通路の下方約14センチメートルに配管された呼び径32ミリメートルの燃料油管上部に取り付けられていたが、主機運転中燃料油管は相当の振動を受け、同センサーの取り付けが緩んで漏油が生じるおそれがあり、上段通路に縦22センチメートル横20センチメートルの点検穴があって同センサーの取り付け状況が点検できるようになっていた。また、上段通路の左舷側には機関室送風機の吹き出し口があって、主機右舷側後部の過給機に向かって吹き出しているので、同温度センサーが抜け出て燃料油が噴出すると、送風に流されて粒状になって過給機に降りかかることとなり、通常航海中の過給機入口温度が摂氏約470度に達し、過給機排気側ケーシング中央部の断熱材のない部分に接触すると火災になるおそれがあった。
ところで、本船は、機関室で溶接作業をすると同室に設置のイオン式煙検知器が作動して火災警報が作動することから、同作業時は火災探知警報装置制御盤の火災警報ブザー停止スイッチでブザーが作動しないようにしたままで、平成8年4月中間検査後同年8月16日A受審人が機関長として乗船したときにも同スイッチがリセットされず、ブザーが作動しないままとなっていた。
A受審人は、乗船後機関室当直中約2時間ごとに機関室の見回りを行い、主機燃料油管には運転中相当の振動があることを認めていたが、燃料油入口温度センサーの取り付け金具が緩むことはないものと思い、同センサー取り付け部からの漏油の有無を点検することなく、いつしか取り付け金具か緩み、漏れた油が配管を伝って主機後部のすき間から2重底のタンクトップに落ちていたこと、また、火災探知装置制御盤の警報ブザー停止スイッチがリセットされないままとなっていたことにいずれも気付かなかった。
こうして、本船は、同月23日13時10分A受審人ほか7人が乗り組み、ガソリン830キロリットル及び軽油1,370キロリットルを積載し、船首3.90メートル船尾5.20メートルの喫水で千葉港を発し、主機回転数毎分約215の全速力前進として塩釜港に向かい、主機燃料油入口温度センサー取り付け金具が緩んだまま進行するうち、23時30分A受審人から機関室当直を引き継いだ一等機関士が、翌24日02時45分ごろから機関室を巡検し、機関室を出てサロンにて休憩を取っていたところ、同センサーが抜け出して燃料油が噴出し、過給機に降りかかった同油が着火したが火災警報ブザーが作動せず、03時00分日立港東防波堤灯台から真方位74度15海里の地点において、機関室のドアーを開けた一等機関士が同室に充満する黒煙とそのなかに炎を認め、火災が確認された。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
自室で休んでいたA受審人は、一等機関士から機関室火災の連絡を受けて機関室に向かったが黒煙が噴き出すので機関室に入ることができず、船長の指示で炭酸ガスを放出することとし、本船船首を風上に向けたのち主機を停止した。
03時20分船長は、機関室が無人であることを確認して炭酸ガスを放出した。
A受審人は、50分経過後換気ののち機関室に入って鎮火を確認し、各部を点検して主機燃料油入口温度センサーが抜け出ているのを認めた。
火災の結果、本船は主機過給機ケーシング、6番シリンダの給排気弁、配電盤などが焼損したが、主機の再指導に成功し、自力で塩釜港に入港したのち焼損部が修理され、点検穴にはカバーを取り付け、主機燃料油入口温度センサーを、取り付け金具が緩んでセンサーが抜け出しても燃料油が漏れない2重保護管形に変更、また、アダプタの緩み防止対策として座金とアダプタとの間のパッキンを銅に変更したうえ回り止め舌付き座金を取り付けるなどの対策がとられた。

(原因)
本件火災は、主機燃料油入口温度センサー取り付け部からの漏油の有無点検が不十分で、燃料油配管の振動で緩んでいた同センサー取り付け金具が締め付けられず、同センサーが抜け出して噴出した燃料油が過給機に降りかかり、同油が発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関室当直にあたり、同室内の見回りを行う場合、主機運転中燃料油管には相当の振動があり、主機燃料油入口温度センサーの取り付け金具が緩んで漏油が生じるおそれがあったから、同センサー取り付け部からの漏油の有無を十分点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同センサーの取り付け金具が緩むことはないものと思い、同センサー取り付け部からの漏油の有無を点検しなかった職務上の過失により、機関室火災を生じさせ、主機過給機ケーシング、6番シリンダ給排気弁、配電盤などを焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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