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1999年(平成11年)

平成10年横審第78号
    件名
漁船第八林丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年7月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、長浜義昭、吉川進
    理事官
井上卓

    受審人
A 職名:第八林丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関室囲壁、配電盤、電気配線などが焼損、機関室内の機器にぬれ損

    原因
蓄電池用充電抵抗器の取付け部木製壁板の防熱処置不十分

    主文
本件火災は、蓄電池用充電抵抗器の取付け部木製壁板の防熱処置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事牛発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月4日05時40分
千葉県飯岡漁港沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八林丸
総トン数 19.92トン
全長 22.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,350
3 事実の経過
第八林丸は、昭和53年6月に進水した、まき網漁業付属のFRP製一層甲板型の運搬船で、船体中央部に機関室があり、甲板上の両舷に同室出入口扉を備え、同室に主機、主機駆動直流発電機、蓄電池、配電盤などを装備し、同室囲壁の内側には木製の板が張られていた。
本船は、専ら茨城県鹿島港から千葉県九十九里浜にかけての沿岸で周年いわし、あじ漁に従事し、月平均20日出漁しており、主機は早朝出港して同日の夕刻水揚げを終えるまで連続運転されていた。
本船の船内電源は、容量7.5キロワットの主機駆動直流発電機から供給される直流105ボルト系統及び容量190アンペア時の蓄電池2個の直列組から供給される直流24ボルト系統の2系統からなり、直流105ボルト系統は各ポンプの電動機や照明などに、直流24ボルト系統は航海計器や照明などに給電されていた。さらに、両系統は、遮断器と充電抵抗器とを通して接続され、直流105ボルト系統から直流24ボルト系統への給電及び蓄電池の充電が行われており、主機運転中常時同遮断器が投入されていた。
ところで、充電抵抗器は、ニクロム線を円筒形の絶縁体にコイル状に巻いたもので、その実測抵抗値が6.1オームで、直流105ボルトから直流24ボルトに降圧する際、計算上最大13.3アンペアの電流が流れて約1.1キロワットの電力を消費し、高熱を発するものであった。しかし、同器は機関室内の右舷側出入口扉近くの木製壁板に取り付けられており、ニクロム線と壁板とは約11センチメートルしか離れていなかったので、壁板が高熱を受けて時間経過とともに炭化し、炭化が進行して蓄熱量が増大したところに風が吹き込んだりすると酸素が多量に供給されて発火するおそれがあった。
A受審人は、昭和60年から船長として乗船し、機関部の責任者も兼ねており、乗船当初から充電抵抗器のカバーが瞬間的にしか触れられないほど高温となるのを認めていたが、それまで何事もなかったので大丈夫と思い、同器取付け部の壁板に防熱処置を施さなかったばかりか、壁板の状態を一度も点検しないまま、壁板が炭化していることに気付かなかった。
こうして本船は、平成8年12月4日A受審人が1人で乗り組み、05時15分主機を始動して充電抵抗器の遮断器を投入し、同時30分船首0.6メートル船尾2.6メートルの喫水で千葉県飯岡漁港を発し、同県山武郡蓮沼沿岸の漁場に向かい、主機回転数を毎分約1,100とし、速力約9.5ノットで航行中、前示壁板の炭化がさらに進行して蓄熱量が増大していたところに開放中の機関室左舷側の出入口から吹き込んだ風を受けて多量の酸素が供給され、壁板が発火して周囲に燃え広がり、同時40分飯岡灯台から真方位235度1.2海里の地点において、機関室が火災となった。
当時、天候は晴で秒速約4メートルの北西風が吹き、海上は穏やかであった。
操舵室で操船中のA受審人は、突然照明が消えたので機関室に向かったところ、同室内に煙が充満し、充電抵抗器付近に炎を認め、僚船に救助を求めた。本船は、僚船からの放水で消火したものの航行不能となり、飯岡漁港に引き付けられた。
火災の結果、本船は、機関室囲壁、配電盤、電気配線などが焼損したほか、消火水で機関室内の機器にぬれ損を生じたが、修理された。

(原因)
本件火災は、主機運転中常時通電される蓄電池用充電抵抗器のカバーが瞬間的にしか触れられないほど高温となるのを認めた際、同器取付け部木製壁板の防熱処置が不十分で、壁板が炭化した状態で同器への通電が続けられ、炭化が進行して蓄熱量が増大していたところに開放中の機関室出入口から吹き込んだ風を受けて多量の酸素が供給され、壁板が発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機運転中常時通電される蓄電池用充電抵抗器のカバーが瞬間的にしか触れられないほど高温となるのを認めた場合、同器取付け部の木製壁板が高熱を受けて発火することのないよう、防熱処置を十分に施すべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで何事もなかったので大丈夫と思い、防熱処置を施さなかった職務上の過失により、壁板が炭化した状態で同器への通電を続けて機関室火災を生じさせ、機関室囲壁、配電盤などを焼損させ、機関室内の機器にぬれ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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