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1999年(平成11年)

平成10年門審第90号
    件名
押船大希丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年7月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、清水正男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:大希丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機遠隔操縦装置、主機計器盤及び敷板などの木艤装品が焼損及び濡損

    原因
火気取扱不良(暖房用電気ストーブの電源スイッチの状態確認)

    主文
本件火災は、操舵室暖房用電気ストーブの電源スイッチの状態確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月15日05時00分
関門港新門司区沖合
2 船舶の要目
船種船名 押船大希丸
総トン数 19トン
全長 13.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 764キロワット
3 事実の経過
大希丸は、平成5年3月に進水した、登録長11.97メートル幅5.04メートル深さ1.79メートルの、2基2軸の推進器を備えた鋼製引船兼押船で、N-102と称する長さ47.00メートル幅17.00メートル深さ3.70メートルの非自航式鋼製はしけ(以下「はしけ」という。)を押航して建設残土などの運搬に従事していた。
ところで、大希丸の操舵室は、海面から約5.6メートルの高さの櫓状構造物の上にあり、長さ2.2メートル幅2.6メートル及び高さ2.2メートルで、両舷側にアルミ合金製引き戸が設けられており、同室内前部には右舷側から順にレーダー、主機遠隔操縦装置、磁気コンパス、操舵スタンド、主機計器盤及び電気ボックスが装備され、後部には畳敷きの台があり、その間は幅約80センチメートル(以下「センチ」という。)の板敷きの通路となっていて、その上に化学繊維製のカーペットが敷かれていた。
A受審人は、平成8年6月から大希丸の船長として乗船しており、冬季の暖房用として操舵室内において左舷側引き戸の内側通路のカーペット上に前面を右舷方に向けて電熱管式の電気ストーブを置き、はしけの交流100ボルト系統の電源から電気コードを延ばして使用していた。
電気ストーブは、横幅約70センチ奥行き約23センチ高さ約50センチで600ワツトと1,200ワットに切替えられる電源スイッチが付いており、持ち上げたり転倒したりすると自動的に通電が停止する安全装置が付いていた。
大希丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、はしけの船尾凹部に大希丸の船首を嵌合し、はしけの船尾部両舷に装備されたウインチで4本の係船索を巻き締めて、はしけを連結した押船列として平成9年12月13日09時00分広島港を発し、操舵室暖房のため電気ストーブの電源を入れ1,200ワットに設定し、その後同ストーブを使用したまま、翌14日17時00分関門港新門司区沖合に至り、揚げ荷役の時間調整のために新門司防波堤灯台から真方位062度2.7海里の地点にはしけの右舷錨を投じて錨泊した。
A受審人は、17時15分錨泊作業を終了して操舵室を離れることとしたが、機関室で主機を停止することに気を取られ、電気ストーブの電源スイッチの状態を十分に確認することなく、すぐに機関室に行って主機を停止し、同時30分同スイッチが切られていないことに気付かないまま、はしけに移乗して食事をとったのち、はしけの船員室で就寝した。
こうして、大希丸は、操舵室の電気ストーブがつけられたまま錨泊中、翌15日04時57分、付近を航行する船舶の航走波を受けて船体が大きく動揺したことにより、同ストーブが前面を床面に接触させる形で転倒し直後に安全装置が作動したものの、過熱した電熱管により化学繊維製のカーペットが過熱されて発火した。05時00分前示錨泊地点において、同カーペットの火が燃え広がり、付近の木艤装品などに延焼し、操舵室が火災となった。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹いていた。
就寝中のA受審人は、大きな動揺で目覚めて船員室から出たところ、大希丸の操舵室が火災となっていることに気付き、現場に急行してバケツ、消火ホースなとで消化作業に当り、火災は間もなく鎮火した。
火災の結果、主機遠隔操縦装置、主機計器盤及び敷板などの木艤装品が焼損及び濡損し、のちいずれも修理された。

(原因)
本件火災は、夜間、関門港新門司区沖合において、操舵室を電気ストーフで暖房したのち同室を離れる際、電気ストーブの電源スイッチの状態確認が不十分で、電源スイッチが入ったままの同ストーブが船体の動揺で転倒し、床面の化学繊維製カーペットが過熱して発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、関門港新門司区沖合において、錨泊作業を終了し、電気ストーブで暖房していた操舵室を離れる場合、火災を発生させることのないよう、同ストーブの電源スイッチの状態を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、機関室で主機を停止することに気を取られ、電源スイッチの状態を十分に確認しなかった職務上の過失により、同スイッチが切られていないことに気付かないままはしけに移乗して就寝中、付近を航行する船舶の航走波を受けて船体が動揺して同ストーブが転倒し、床面の化学繊維製カーペットが過熱して発火したことによって火災の発生を招き、主機遠隔操縦装置、主機計器盤及び敷板などの木艤装品を焼損及び濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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