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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月28日19時10分 広島県柿浦漁港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートキュウエイ 総トン数 14トン 登録長 11.24メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 470キロワット 3 事実の経過 キュウエイは、平成元年2月に進水したFRP製プレジャーボートで、甲板下には、船首方から順にベッド、トイレ、シャワー、キッチンなどを備えた船首キャビン、船体のほぼ中央部に機関室、次いでベッド、シャワーなどを備えた船尾キャビンがそれぞれ設けられ、機関室の上部がサロンを兼ねた操舵室となっていた。 機関室には、右舷側及び左舷側にキャタピラー三菱株式会社製の回転数毎分2,600の右舷主機と左舷主機、右舷主機の前部に防音カバーで覆われた電圧100ボルト容量8キロボルトアンペアの交流発電機駆動用4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関(以下「補機」という。)、両主機の間に直流12ボルトの蓄電池4個、両舷の船体寄りに容量約1,000リットルの軽油を格納する燃料油タンクがそれぞれ据え付けられていた。 また、船内の交流電路は、交流発電機から操舵室に至り、右舷側前部壁面に設けられた交流電源主スイッチ及び交流配電盤の各スイッチを経て船内の照明灯、コンセント、テレビ、冷蔵庫、電子レンジ及び冷暖房機などのほか、直流12ボルト変換用コンバーターを経て機関室の蓄電池にも配線されていた。 一方、操舵室は、幅約3.1メートル、長さ約2.8メートル、天井の高さ約2.0メートルで、周囲の壁面に化粧合板が内張りされており、前部壁面右舷側に両舷主機の発停スイッチ、操縦レバー、回転計及び潤滑油圧力計などを組み込んだ主機操縦台と舵輪、同操縦台の左舷側に船首キャビンヘの出入口、左舷側に幅約35センチメートル(以下「センチ」という。)、長さ約2.0メートル、高さ約86センチのL字形木製戸棚、同操縦台の後方にテーブル、次いで右舷側壁面から後部壁面右舷側に沿ってL字形ソファー、その左舷側に船尾甲板に通じる幅約63センチの操舵室出入口と船尾キャビン出入口がそれぞれ設けられ、前部及び両舷の各壁面の上部にはガラス窓及び布製カーテンが取り付けられていた。 ところで、操舵室の床上には、主機操縦台後部の右舷側前部船体中心線寄りに幅約60センチ、長さ約50センチのさぶた式機関室出入口が設けられ、遮音のために厚さ約2ミリメートル(以下「ミリ」という。)、幅約2.0メートル、長さ約1.5メートルのビニール製シートをかけ、その上から右舷側、中央部及び左舷側に3分割された厚さ約10ミリのカーペットを敷き詰め、更にカーペットが汚れないよう操舵室出入口から船首キャビン出入口近くまで幅1メートルの紙製シートが敷かれており、機関室に入る際には、同室出入口のさぶたを覆っている中央部のカーペットやビニール製シートなどを右舷側前部から左舷側後方にめくり上げなければならなかった。 キュウエイは、同7年5月に株式会社R(以下「R社」という。)が購入し、広島県柿浦漁港沖に錨泊した幅13.5メートル、長さ40メートルの台船に設置された浮桟橋に係留されており、主に7月から9月までの3箇月間会社関係者などを乗せて魚釣りや海水浴などの目的で使用されていた。 A受審人は、R社の下請業者である有限会社Sの専務として港湾土木の業務に従事しており、R社の代表取締役社長と親戚関係にあったこと、かつて係留していたキュウエイの機関室に多量の海水が浸入する事故が生じたことなどからR社から運航と保守管理を依頼され、同8年5月から船長として同管理に携わり、終業後や休日を利用するなどして定期的にキュウエイに赴き、船体掃除、機関室ビルジ処理、蓄電池の充電作業などを行っていたところ、翌9年9月下旬の冷却清水ポンプ及び充電機駆動用Vベルトが損傷しているのを発見し、これを船具店に発注して入手次第取り替えることとしていた。 同年11月上旬A受審人は、操舵室にある冷暖房機の暖房の効きが悪かったので、自宅にあった中古の高さ約30センチ、長さ約45センチ、厚さ約15センチのスチーム発生装置付2段切替え式1,200ワットの電気ストーブを同室に持ち込み、船尾キャビン出入口近くの床上に正面を右舷方に向けて置き、電気コードのプラグを戸棚の左舷後部端にあるコンセントに差し込み、交流電源主スイッチ及び交流配電盤のコンセントなどの各スイッチを入れたまま使用していた。 翌12月28日17時15分ごろA受審人は、発注していた補機のVベルトを入手したところから、船首を南に向けて浮桟橋に右舷着け係留していたキュウエイに1人で交通沿を運転して赴き、すぐにVベルトを取り替える予定であったものの、辺りが暗くなるまで少し時間があったので、船首側甲板をキュウエイの直流12ボルト駆動の海水ポンプで、船尾側甲板を交通船の同ポンプでそれぞれ洗浄したのち、18時ごろ操舵室に入り、同室天井にある直流用照明灯を点灯しないまま機関室出入口を覆っていた中央部のカーペット、次いでビニール製シートをそれぞれ右舷側前部から左舷側後方に大きくめくって同出入口のさぶたを開放し、直流用機関室照明灯のスイッチを投入して同室へ下りたあと、補機の防音カバーを取り外してVベルトの取替え作業に取り掛かった。 18時40分ごろVベルトの取替え作業を終えたA受審人は、機関室の照明が徐々に暗くなってきたので、補機の点検を兼ねて蓄電池の充電をしようと補機を始動し、操舵室天井の交流用照明灯が点灯して頭上が明るくなったのを認め、使用した道具類の後片付けを始めた。しかしながら、同人は、補機が停止すると交流電源が消失するので大丈夫と思い、使用後に電気ストーブ付スイッチを切るなどして、操舵室の火災防止措置を十分に講じることなく、平素から同スイッチを1,200ワットに入れたまま同ストーブを放置していたので、補機の運転を開始した際、同ストーブに交流100ボルトが給電され、同室床上にめくれで浮き上がった紙製シート、カーペットなどが過熱されて着火するおそれがあることに気付かなかった。 こうして、キュウエイは、補機を運転して発電中、1,200ワットの電気ストーブ付スイッチを入れたままとなっていた同ストーブに給電され、電熱管2本が点灯、発熱しているうち、その付近にめくれて浮き上がっていた紙製シート、カーペットが過熱して着火し、19時10分柿浦港沖中防波堤西灯台から真方位004度1,570メートルの係留地点において、火災となった。 当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、日没時刻は17時09分であった。 A受審人は、機関室で補機を点検しながら使用した道具類の後片付けをしているうち、頭上の操舵室内が急に明るくなり、「パチパチ」という異音に気付いて機関室出入口から顔を出したところ、電気ストーブ周囲のカーペット、壁面、カーテンなどが勢いよく燃え上がっているのを認め、船首キャビン出入口近くにあった持運び式消火器を放射する間もなく、受け取ったばかりの給与袋、携帯電話などを入れたかばんをテーブル上に放置したまま身の危険を感じて直ちに操舵室から飛び出し、乗って来た交通船のバケツで海水をかけたものの効なく、火勢は衰えず、台船の海水ポンプを運転して放水消火をしているうち、陸岸から火災を見つけた柿浦漁港の住人からの通報を受けた消防署及び海上保安部の巡視艇などの放水消火活動により、21時07分キュウエイは、鎮火して沈没した。 火災の結果、キュウエイは、引き揚げられたが、船体の一部を残すだけとなり、のち廃船とされた。
(原因) 本件火災は、操舵室で電気ストープを使用するにあたり、火災防止措置が不十分で、電気コードのプラグがコンセントに差し込まれたままであったうえ同ストーブ付スイッチが入ったまま同ストーブが放置され、発電機駆動用ディーゼル機関を運転して船内に給電中、点灯、発熱した同ストーブの電熱管により同室床上にめくれて浮き上がっていた紙製シート、カーペットなどが過熱して着火したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、操舵室で電気ストーブを使用する場合、交流電源主スイッチ及び配電盤の各スイッチを入れたままとしていたのであるから、発電機駆動用ディーゼル機関を運転した際に同ストープが点灯、発熱することのないよう、使用後に同ストーブ付スイッチを切るなどして、火災防止措置を十分に講じるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ディーゼル機関を停止すると交流電源が消失するので大丈夫と思い、使用後に同ストーブ付スイッチを切るなどして、火災防止措置を十分に講じなかった職務上の過失により、同ストーブに給電して同室床上にめくれで浮き上がった紙製シート、カーペットなどの過熱により火災を招き、キュウエイをほぼ全焼させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |