|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月6日12時30分 沖縄県宮古列島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一栄龍丸 総トン数 19.91トン 登録長 14.95メートル 幅
3.70メートル 深さ 1.47メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
130 3 事実の経過 第一栄龍丸は、昭和57年2月に進水したまぐろ延縄(はえなわ)漁業に従事する船首楼付き一層甲板型のFRP製漁船で、上甲板の船首楼内を船首倉庫とし、中央部から後方へ船橋、機関室囲壁及び漁具置場を設け、船首倉庫の甲板下を容量約4キロリットルの船首燃料油タンクとし、その後方に魚倉、機関室、船員室、賄室及び船尾燃料油タンクをそれぞれ備えていた。船首倉庫と船橋との間の作業甲板は上甲板上高さ約20センチメートル(以下「センチ」という。)に板を敷いたものであった。 船首倉庫は、幅の中央部約2メートルが高さ約1メートル、その両舷側約50センチが高さ約50セチで、長さが船首形状に沿って最大約2メートルの弧状となっており、床、壁及び天井の全てがFRP製で、作業甲板側の中央部に高さ約80センチ幅約60センチのアルミ合金製の引き戸式の出入口が備えてあり、荒天時以外、同引き戸を全開放して換気されていた。 また、船首倉庫は、船首燃料油タンクの燃料油塔載、空気抜き、燃料油取出し場所にもなっており、同倉庫床には、出入口の約30センチ右舷側前部に高さ約30センチで内径約4センチのパイプにねじ込み蓋(ふた)を備えた燃料油搭載口が、出入口の約1.8メートル前方に高さ約30センチで内径約4センチのグースネック型パイプの空気抜き管が、出入口の約30センチ左舷側前部に床面からの高さ約30センチで内径約2センチのビニルパイプにかぶせ蓋を備えた燃料油取出し口がそれぞれ設けられていた。 ところで、船内電源は、交流220ボルト系統、交流110ボルト系統及び直流24ボルト系統があって、発電機として、主機動力取出し軸に掛けたベルトにより駆動する容量40キロボルトアンペアの主発電機及びディーゼル補機駆動の容量40キロボルトアンペアの補助発電機を装備し、出漁中は主発電機を常時運転していた。主発電機で発電した電源は、自動電圧調整器で220ボルトに調整され、更に船員室に設置された定周波装置で60ヘルツに調整され、同装置に内蔵する変圧器で一部が110ボルトに変圧され、220ボルト電源が機関室の配電盤に備えられ不足電圧継電器を経て同配電盤の主発電機系統220ボルト母線に送られ、負荷電路ごとに設けたナイフスイッチを経て各部に給電され、110ボルト電源が同配電盤の110ボルト母線に送られ、負荷電路ごとに設けたナイフスイッチを経て各部に給電されるようになっていた。また、定周波装置は過電流継電器を内蔵しており、220ボルト系統または110ボルト系統が短絡するなどして過電流が流れると同継電器が作動するようになっており、送電を再開するには、作動原因を排除したのち、同装置のリセットボタンを押すと、110ボルト系統は復帰するが、220ボルト系統を復帰させるには、更に配電盤の不足電圧継電器を入れ直す必要があった。 船首倉庫内の電気設備は、機関室の配電盤から220ボルト、110ボルト両電源が同倉庫左舷後下部の床近くに設けられた内径約15センチの塩化ビニル製電線管を通したあじろ外装ケーブルにより、給電され、同倉庫後壁の左舷側上部に設けたスイッチ付き防水形の220ボルト用レセプタクル4個、スイッチ付き防水形の110ボルトレセプタクル6個に接続され、220ボルト用レセプタクルには燃料油移送用持運び式ポンプ、魚倉掃除用持運び式ポンプ、簡易湯沸かし器及びキャプスタンの各コードの防水形プラグが差し込まれ、110ボルト用レセプタクルには、マストに備えた投光器、持運び式の投光器2個等の各コードの防水形プラグが差し込まれていた。 2台の持運び式ポンプ、2個の投光器などは、動揺により移動しないよう同倉庫床に固定され、簡易湯沸かし器は作業甲板に置いたバケツに入れられていた。同倉庫には、船首燃料油タンク関係設備、電気設備のほかに、ワイヤロープ製の長さ約3メートルの係船索2本があった。 船首倉庫の電路は、海水が同倉庫の開放された引き戸から打ち込んで倉庫内にたまったり、また、燃料油搭載時などに、空気抜き管からA重油が噴出して電路や電線管にかかったり、係船索が荒天時に電路に衝突するなどし、いつしか、あじろ外装が電線管出口付近の数箇所ではがれ、更に内部の絶縁被覆の劣化が進行する状況となった。 B受審人は、竣工以来機関長として乗り組み、機関の運転整備、燃料抽の搭載等に携わっていたところ、平成10年7月2日沖縄県糸満漁港入港ころまでには、電路の電線管出口付近でのあじろ外装のはがれや絶縁被覆の劣化を認めていたが、電気器具の使用に支障がないので大丈夫だろうと思い、業者に発注するなどして、電路の整備を行うことなく、使用を続けた。 こうして、第一栄龍丸は、A、B両受審人のほか、甲板員1人が乗り組み、船首燃料油タンクにA重油約1キロリットルを搭載し、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、翌々4日06時00分糸満漁港を発し、宮古列島東方沖合の漁場に至り、20時ごろから1回目の操業を開始してきはだまぐろ約300キログラムを漁獲し、越えて6日06時30分2回目の操業を開始し、09時45分投縄作業を終了した。 そして、第一栄龍丸は、14時00分揚縄開始の予定で漂泊し、船橋後部の寝台で受審人が仮眠し、船員室でB受審人がカセットデッキで音楽を聴き、甲板員が寝台で仮眠していたところ、船首倉庫内の220ボルト電路が、絶縁被覆の著しく劣化した電線管出口付近で短絡し、短絡電流が流れて同被覆などが瞬時に過熱発火するとともに、電線管内等に付着していたA重油及び付近のFRP製構造物に燃え移り、12時30分平安名埼灯台から真方位129度37海里の地点において、火災となった。 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、海上はやや波があった。 カセットデッキで音楽を聴いていたB受審人は、同デッキが止まったことに気付き、直ぐに機関室を点検したが主発電機等に異状を認めなかったので、後部上甲板に出たところ、船首方から黒煙が上がっているのを見て船首に急ぎ、船首倉庫内の火災に気付いた。 B受審人は、直ちにA受審人を起こし、船員室に急ぎ戻り、甲板員を起こし、同室にある消火器を持って船首倉庫に駆けつけ、消火活動に当たったが、A受審人の無線機が使えない旨の声を聞き、船員室に再び戻って定周波装置のリセットボタンを押して110ボルト電源だけ確保し、また船首倉庫前に引き返して消火に当たり、A受審人は無線電話機を使用して僚船に救援を要請した。 しかしながら、消火活動のかいもなく、船首燃料油タンクに火が入って火勢が一段と激しくなったことから、消火できないと判断したA受審人は、降下した救命いかだにB受審人及び甲板員とともに移乗して漂流中、駆けつけた僚船に救助された。 火災の結果、第一栄龍丸は沈没した。
(原因に対する考察) 本件は、総トン数19.91トンのFRP製漁船が、投縄を終えて揚縄までの間漂泊し、乗組員全員が各自の寝台で仮眠ないし休息中、船首倉庫から出火し、下部の船首燃料抽タンク内のA重油に燃え移り、さらに船全体に延焼して沈没したものである。 以下、その原因について考察する。 1 火源 船首倉庫内の220ボルト電路の短絡が火源となったことは、次ぎの供述記載及び供述によって認定した。 (1) 「同倉庫には移送ポンプ、簡易湯沸かし器、照明器具等の電気設備があったが、本件時いずれも使用していなかった。」(両受審人に対する各質問調書) (2) 船首倉庫内の電路の状況 (3) 「主発電機で発電した電源を、定周波装置を経て110ボルト、220ボルトを倉庫内の各レセプタクルに給電していた。110ボルトの停電は聴いていたカセットデッキが止まったので分かった。定周波装置のブレーカーが落ちていた。ブレーカーが落ちると110ボルト、220ボルトのいずれも給電されない。」(B受審人の当廷における供述) (4) 「火災に気付いて消火をしていると船長が無線が使えないと叫んだので定周波装置をリセットしたら、110ボルト系統が復帰して無線が使えた。220ボルトは同装置をリセットするだけではなく、配電盤でリセットしなければ復帰できないが、当時は同装置のリセットだけにして船首倉庫に戻った。」(B受審人の当廷における供述) 2 A受審人の所為 船首倉庫の状況から、固定されていなかったワイヤロープ製の係船索が、荒天時などに電路に衝突して電路の一部を傷める可能性があり、他の収納物についても倉庫出し入れの際などに電路に接触して、電路の一部を傷めた可能性もある。しかしながら、このことは、同人の収納物の管理が不十分であったことによるものとするまでもなく、したがって同人の所為は原因とならない。 3 B受審人の所為 同人は7月2日糸満漁港入港ころまでには、倉庫内電路の劣化を認めており、本件までに業者に電路の整備を発注する機会はあったと考えられる。本件発生まで、同電路の整備を全く行わなかったことは、本件発生の原因となる。
(原因) 本件火災は、船首倉庫に敷設された電路の絶縁被覆の劣化が明らかになった際、電路の整備が不十分で、絶縁被覆の著しく劣化した交流220ボルトの電路が短絡し、電線被覆などが瞬時に過熱発火するとともに電線管内等に付着したA重油、付近のFRP製構造物に燃え移ったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、船首倉庫に敷設された電路のあじろ外装が電線管出口付近ではがれ、更に絶縁被覆の劣化が進行していることを認めた場合、業者に発注して電路を新替えするなど、電路の整備を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、電気器具の使用に支障がないので大丈夫だろうと思い、電路の整備を行わなかった職務上の過失により、絶縁被覆の著しく劣化した交流220ボルト電路が電線管出口付近で短絡し、短絡電流が流れて電線被覆などが瞬時に過熱発火するとともに電線管内等に付着したA重油、付近のFRP製構造物に燃え移り、船首燃料油タンクから船全体に燃え広がるという事態を招き、沈没に至らしめた。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |