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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月1日16時ごろ 千葉県銚子港岸壁 2 船舶の要目 船種船名
漁船七福丸 総トン数 9.96トン 登録長 13.70メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 29キロワット 3 事実の経過 七福丸は、昭和57年8月に進水した、底びき網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか一人が乗り組み、平成10年5月1日千葉県銚子港を出港し、犬吠埼東方沖合漁場での操業を天候悪化のため中止して帰航中、同日15時20分犬吠埼灯台から真方位049度2.2海里の地点で油送船と衝突し、船首部破口より船体前半部分甲板下の魚倉区画が浸水し、同区画後部隔壁に設けられた径約5センチメートルの電路敷設用塩化ビニール管(以下「エスロンパイプ」という。)を通り、船尾側機関室にも浸水するようになった。 機関室は、引戸の付いた出入口が、操舵室後部機関室囲いの右舷側と賄い室を通る左舷側に備えられ、通常は短いはしごで甲板に上り降りする右舷側から出入りし、ビルジポンプなどの補機がすべて電動で、主機に前駆動される直流と交流各発電機により、24ボルト直流電源が右舷側入口下の床に置かれた蓄電池4個を経て各補機に、100ボルト交流電源が甲板作業灯にそれぞれ供給され、その電路や充電及び操縦装置への各配線を蓄電池上部にまとめて、一部がエスロンパイプを通って敷設され、また容量600リットルの鋼製A重油燃料タンクを、同室船首側と両舷側に設置し、船首側燃料タンクを常用していた。 衝突後自力航行して帰途についた本船は、A受審人らがポータブルポンプなどを使用して浸水により増加した機関室ビルジを連続排出し、船体前部がやや沈下した状態で僚船数隻に付き添われながら、計画出力29キロワット同回転数毎分1,150の主機を、連続定格出力相当の同回転数毎分約2,000、排気温度摂氏400度以上の最大出力で運転し、同15時45分ごろ銚子港に帰港し、同港西防波堤灯台から真方位164度470メートルの第2埠頭魚市場前の岸壁に係留した。 係留後もA受審人らは、引き続きポータブルポンプなとで機関室の床付近に達したビルジ排出のため、主機を毎分800回転のアイドル運転のままとし、さらにビルジに燃料油の浮遊を認め、満タンにしていた左舷側燃料タンクが、衝撃で破損した油面計取り付けの下側バルブ本体からの流出であったため、破損部に漏油止め措置を施し、僚船乗組員などの応援を受け、修理回航までの船体保全措置に当たることとした。 このようにして本船は、A受審人が他の乗組員と僚船乗組員の3人で排水などの作業中、排出ホースをホースバンドで取り付けた大容量の水中ポンプが岸壁より搬入され、機関室にロープで降ろされた際、同受審人が排出ホースの取り付け緩みの有無を十分確認しないまま、同ポンプをビルジに入れると同時にそれが始動し、ホースバンドの緩んでいた排出ホースが外れ、吸い揚げられたビルジ表面の燃料油が周囲に噴出飛散し、高温の主機各シリンダ排気出口枝管の露出部などに降りかかって着火し、同5月1日16時ごろ前示係留地点において機関室が火災となった。 当時、天候は晴で風力4の南南東風が吹き、海上はやや波があった。 本船は、機関室にいたA受審人らが甲板に逃れ、岸壁にいた者とともに持ち運び式消火器などで消火に当たる一方、消防車が来援して消火活動の結果、同日16時15分ごろ火災は鎮火し、その後造船所に回航され、焼損した機関室内壁などの補修や消火の際に浸水した主機の開放整備など修理されたが、火災発生のとき右舷出入口付近で機関室を覗(のぞ)き込んでいた僚船乗組員2人と、A受審人ら3人が同出入口から逃げるとき燃え上がる炎で火傷を負った。
(原因) 本件火災は、ビルジ排出のため機関室に搬入された水中ポンプ使用の際、排出ホースの取り付け状態の確認が不十分で、それが始動すると同時に排出ホースが外れ、ビルジに浮遊していた燃料油が周囲に噴出飛散し、同油が主機高温部に降りかかり着火したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、ビルジ排出のため機関室に搬入された水中ポンプを使用する場合、排出ホースが外れることのないよう、その取り付け状態を十分に確認しなかったことは原因となる。しかし以上のA受審人の所為は、当時の作業状況に徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |