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1999年(平成11年)

平成10年那審第41号
    件名
交通船はるか火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年6月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:はるか船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船体沈没

    原因
原因不明

    主文
本件火災は、機関室から発火したことによって発生したものであるが、発火原因を明らかにすることができない。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月1日10時35分
鹿児島県加計呂麻島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 交通船はるか
登録長 10.6メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 169キロワット
3 事実の経過
はるかは、B所有者とその親戒が専らレジャーの目的で使用していた一層甲板型FRP製遊漁兼交通船で、上甲板上には、船体中央部に操舵室が位置し、その後方に船員室が、また、上甲板下中央部から後方には機関室を設け、さらに船尾側に容量が60ないし70リットルのFRP製燃料油タンクを両舷にそれぞれ設置していた。
操舵室は、操舵輪、主機遠隔操縦装置、主機計器盤及び配電盤等を右舷側に装備し、GPS及びレーダーをそれぞれ中央及び左舷側に配置し、また、右舷側床に設けられたハッチ(以下「機関室ハッチ」という。)から機関室への出入りができるようになっていた。
機関室は、ほぼ中央部に主機が据え付けられ、後部隔壁に接して、左舷側に主機始動用蓄電池、右舷側に船内電源用蓄電池がそれぞれ高さが約5センチメートルの木枠で固定され、同隔壁中央部に燃料油こし器、同室右舷前部にビルジポンプを備え、通風装置として、前部隔壁の左舷下方に排気ファン、同室天井の右舷側に換気扇が設置され、照明設備として、前後部隔壁にそって室内灯がそれぞれ1個設置されていた。また、同室天井には断熱材が取り付けられていた。
主機は、B所有者が購入する以前の平成7年5月に、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6CH-UT型と称する定格回転数毎分2,500の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関に換装され、A重油燃料油として使用し、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、前部右舷側に、ベルト駆動される充電用発電機を装備し、機関中央の上部に過給機が配置され、排気管は断熱材で覆われて化粧煙突内に導かれていた。
A受審人は、平成9年11月1日、納骨のため、同人が所有する墓地のある鹿児島県請島に行くことになり、親戚であるB所有者からはるかを借り受けることとした。ところで、A受審人は、平成9年9月初旬にB所有者から初めてはるかを借り受け、以後5ないし6回ばかり操船した経験があったものの、はるかの整備については、実弟で、B所有者の義理の息子にあたるCが行っていたので、機関の詳細な来歴などについては調べていなかった。
A受審人は、出航に先立ち、発航前点検を行い、機関室ハッチを開けて同室を一瞥(いちべつ)して異状がなかったので、09時55分、操舵室から主機を始動するとともに、計器盤上で機関室の換気扇のスイッチを投入し、主機冷却水が船外排出されているのを確認して、出航に備えた。
こうして、はるかは、A受審人ほか3人が同乗し、10時00分、鹿児島県古仁屋港を発し、同県諸島港請阿室地区に向かい、主機を全速力前進にかけて航行中、時化(しけ)模様で、右舷側から強い風波を受け、船体が大きく動揺を繰り返していたところ、10時30分ごろから主機が異音を発するようになり、10時35分皆通埼灯台から真方位233度5.6海里の地点において、機関室ハッチをあけたところ、黒煙が吹き出し、機関室が火災となった。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹いていた。
A受審人は、主機を停止し、機関室ハッチから消火を試みようとしたものの、黒煙の勢いが強く、同ハッチを閉鎖し、携帯電話を使用して救助を要請し、10時50分、付近を航行中の瀬渡船に同乗者とともに移乗した。
火災の結果、はるかは燃え続け、その後沈没した。

(原因に対する考察)
本件火災は、機関室内から発火して火災が発生したものであり、発火源となるものについて検討し、原因を考察する。
1 主機
A受審人は、本件発生の直前に、機関の運転音に異状を認めたことから、機関の異状から火災が発生した可能性が考えられるが、異音だけでは、機関の異状と火災発生の因果関係を認めるに足る十分な証拠を得ることができない。
2 燃科油系統
機関室外にある燃料油タンクからこし器を経て噴射ポンプで吸引加圧され、燃料噴射弁に至る系統において、A受審人は、発航前点検では燃料油の臭気に気付いていないこと及び平成9年7月中旬に主機1番シリンダの燃料高圧管から燃料油が漏洩(ろうえい)したことがあったものの、その後、燃料油の臭気を認めなかったことなどを考え合わせると、同油系統からの油の噴出による火災発生を認めるに足る十分な証拠を得ることができない。
また、Cに対する質問調書から、前示漏油は、1リットルを越える量であったと推定されるが、周囲に飛散したほか、一部は、機関室ビルジにも混入したものの、機関室後方にある蓄電池にまで飛散していたことを認めるに足る十分な証拠を得ることができない。
3 蓄電池
Cは月に1回程度、蓄電池の端子の緩みの点検を実施しており、これまで端子が緩んで増締めを行ったことはなかったことから、同端子が緩んで火花が発生したと認めるに足る十分な証拠を得ることができない。
4 電気機器及び配線
機関室内の電気機器には、同室内照明灯、排気ファン、換気扇、ビルジポンプ、充電用発電機及び主機始動用セルモータ等があり、本件発生時、主機が運転中であることから、同セルモータは停止中と考えられ、A受審人に対する質問調書中、機関室の換気扇だけ運転した旨の供述記載から、照明灯、排気ファン、ビルジポンプなどについても、使用していなかったものと認められ、発火源となる可能性はないと考察される。一方、換気扇及び充電用発電機については、これらに通常値を超える電流が流れ、電線の被覆や電動機あるいは発電機が発熱したり、充電用の整流または定電圧回路等に発熱を生じる可能性を否定できないものの、いずれも、その運転状況を明らかにすることができず、発火に結びつくような確証を得ることができない。
以上、発火源について検討したが、いずれも発火に結びつくような確証はなく、これを特定することができず、本件火災の原因は不明である。

(原因)
本件火災は、鹿児島県請島港請阿室地区に向けて航行中、機関室から発火したことによって発生したが、発火原因を明らかにすることができない。

(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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