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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年2月25日09時00分(現地時刻、以下同じ。) アルゼンチン共和国沖合 2 船珀の要目 船種船名
漁船第五三島丸 総トン数 314トン 全長 66.05メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,176キロワット 3 事実の経過 第五三島丸は、昭和62年11月に進水した、遠洋いか一本釣り漁業に従事する全通二層甲板中央船橋型の鋼製漁船で、上甲板上の船体中央から船尾寄りにかけて二層からなる船楼があり、上層を操舵室や無線室などとし、下層が乗組員の居住区となっていた。また、船首から順に、上甲板下には、船首倉庫、作業室、冷凍庫、機関室上段及び魚倉が、第2甲板下には、フォアピークタンク、バウスラスタ室、魚倉、機関室下段、清水タンク及び燃料油タンクが、船底には1番ないし5番燃料油タンクなどがそれぞれ配置されていた。 機関室には、下段中央に主機を、その両舷に発電機用補助機関(以下「補機」という。)をそれぞれ据え付け、補機前方に、主補機関警報盤及び集合始動器盤があり、上段には前方に冷凍機室、その後方右舷側に工作室のほか燃料油及び潤滑油の小出しタンクが、同左舷側に監視盤及び主配電盤などを備えた監視室がそれぞれ設置されていたほか、上段中央には乗組員居住区に通じる出入口を設け、同室上方には2台の電動通風機が備えられていた。 補機は、株式会社新潟鉄工所が製造した6NSD-G型と称する、定格出力441キロワット同回転数毎分1,200の過給機付ディーゼル機関で、左舷側の2号補機は発電機を船尾側に置き、各シリンダに船尾側から1番ないし6番までの番号を付し、同機左舷側に各シリンダごとの燃料噴射ポンプが取り付けられ、過給機がシリンダヘッド列よりやや上方の右舷側中央部に設置されていた。 補機の燃料油系統は、サービスタンクを出たA重油が直結の供給ポンプを経て燃料噴射ポンプに至り、同ポンプを出た高圧燃料油が、各シリンダヘッドに左舷側から水平方向に挿入された燃料弁ユニオン(以下「ユニオン管」という。)と呼ばれる接続管を経て燃料噴射弁(以下「燃料弁」という。)ホルダに送られるようになっていたが、サービスタンクの補機用取出し弁には遠隔遮断弁が設けられていなかった。 また、ユニオン管は、入口端に燃料噴射ポンプからの高圧管が袋ナットで接続され、円錐形状の出口端をすり鉢状をなした燃料弁入口穴と合わせたうえ、強く圧着して燃料漏れを防止する構造で、ユニオン管の入口端付近に設けられた球面状つばが菱形フランジで押さえられ、直径6.5ミリメートル、ねじの呼び8ミリメートルの植込みボルト2本に押さえナットをかけて締め付けられており、シリンダヘッドのユニオン管挿入口には、同管に方向ずれが生じないように案内ブッシュが挿入されていた。 本船は、主に南米海域において操業しており、毎年上半期にはアルゼンチン共和国プンタキージャ港を基地とし、下半期になるとペルー共和国カヤホ港へ基地を移してそれぞれの沖合漁場へ出漁し、1航海が約2箇月の操業を行ったのち水揚げと補給のため基地に戻ることを繰り返していたもので、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、平成7年2月3日23時00分、プンタキージャ港を発してアルゼンチン共和国沖合の漁場に向かい、同月5日から操業を開始した。 A受審人は、同4年12月末から本船に機関長として乗り組み、機関の運転管理に当たっており、補機の燃料弁については、水揚げと補給で入港するたびに約800運転時間の間隔で取外し整備を行っていたが、整備後の運転中、振動や熱膨張の影響で燃料弁とユニオン管との接触部から燃料が漏洩(ろうえい)することがときどきあった。 ところで、A受審人は、前任機関長からユニオン管と燃料弁との接触部が荒れると燃料漏れの原因となることから、燃料が漏れ始めた場合には、同部を点検して早めに同管を交換するほか、使用時間の経過した植込みボルトを取り替えてきた旨の引継ぎを受けていた。しかしながら、同人は、運転中に同箇所からの燃料漏れを認めたとき、漏れが止まるまで押さえナットを締め込んでおけば大丈夫と思い、燃料弁及びユニオン管を取り外し、接触部を点検するなどの措置を講ずることなく、同ナットを増締めして運転を続けていたので、いつしか2号補機5番シリンダの船尾側植込みボルトが過剰に増締めされ、過大な引っ張り応力が作用して微小亀裂(きれつ)が生じていることに気付かなかった。 こうして本船は、操業を続けるうち、2号補機5番シリンダの船尾側植込みボルトに生じていた亀裂が機関振動によって進行し、主機を毎分約340回転にかけて漁場を移動中、同ボルトが植込み部の付け根部分で折損して高圧燃料油が噴出し、平成7年2月25日09時00分南緯49度23分、西経63度23分の地点で、同油がユニオン管のつばや菱形フランジなどに当たって飛散し、反対舷にある高温の過給機や排気管付近に霧状となって降りかかり、機関室が火災となった。 当時、天候は霧で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、作業甲板での整備作業の合間に定期見回りをすべく機関室に入ったところ、下段の2号補機の付近で黒煙が発生しているのに気付き、直ちに主機を停止し、監視室に入って配電盤上の2号発電機気中遮断機を切ったものの、煙がひどくなったために2号補機の停止やサービスタンク取出し弁の閉鎖ができないまま機関室を逃れ、火災に気付いた他の乗組員とともに同室を密閉して火勢の衰えを待った。 その後、本船は、サービスタンクの燃料油がなくなってようやく補機が自停し、やがて来援した僚船の放水によって同日12時25分ごろ鎮火し、僚船に曳航(えいこう)されて翌朝プンタキージャ港に引きつけられた。 火災の結果、本船は2号補機上部の主電路に敷設された電線、主補機関警報盤、集合始動器盤及び内装等が焼損したが、のち焼損箇所がすべて修理されたほか、2号補機のユニオン管取付け用の全植込みボルトが取り替えられた。
(原因) 本件火災は、補機燃料弁とユニオン管との接触部から燃料漏れを認めた際、漏洩防止の措置が不適切で、ユニオン管押さえ用の植込みボルトが亀裂を生じて折損し、高圧燃料油が噴出して高温の過給機や排気管付近へ霧状に降りかかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関の運転管理に当たり、補機燃料弁とユニオン管との接触部からの燃料漏れを認めた場合、同漏れを止めるために同管押さえナットを過剰に増締めすると、植込みボルトが折損して燃料油を噴出させるおそれがあったから、増締めに頼らず、同接触面を点検して要すれば新替えするなどの適切な燃料漏洩防止の措置を講ずべき注意義務があった。ところが、同人は、燃料漏れが止まるまで同ナットを締め込んでおけば大丈夫と思い、適切な燃料漏洩防止の措置を講じなかった職務上の過失により、過剰に増締めされて生じた亀裂が進行し、同ボルトが折損したことから、高圧燃料油が噴出して機関室火災を招き、同室下段付近を焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |