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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年2月20日01時45分(アルゼンチン共和国標準時、以下同じ。) アルゼンチン共和国沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十八有漁丸 総トン数 349トン 全長 69.69メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,323キロワット 3 事実の経過 第五十八有漁丸は、平成元年6月に進水した、遠洋いか一本釣り漁業に従事する全通二層甲板中央船橋型の鋼製漁船で、上甲板上の船体中央から船尾寄りにかけて二層からなる船楼を有し、上層に操舵室や無線室などがあり、下層が乗組員の居住区となっていた。また、船首から順に、上甲板下には、船首倉庫、作業室、冷凍庫、機関屋上段及び魚倉が第2甲板下には、フォアピークタンク、1番燃料油タンク、魚倉、機関室下段、清水タンク及び6、7番燃料油タンクなどが、船底には2番ないし5番燃料油タンクがそれぞれ配置されていた。 機関室には、下段中央に主機を、その右舷側に1号の、左舷側に2号の発電機用原動機(以下「補機」という。)をそれぞれ据え付け、上段には前方に4台の冷凍機が、その後方右舷側に工作スペースのほか燃料油及び潤滑油の小出しタンクが、同左舷側に監視盤及び主配電盤などを備えた監視室がそれぞれ設置されていたほか、上段中央に乗組員居住区に通じる出入口を設け、同室上方には2台の電動通風機が備えられていた。 補機は、株式会社新潟鉄工所が製造した6NSD-G型と称する、定格出力441キロワット同回転数毎分1,200の過給機付きディーゼル磯関で、各シリンダに駆動軸側から1番から6番までの番号を付し、端子電圧225ボルト容量500キロボルトアンペアの交流発電機が共通台板上で連結されていた。また、1号補機は、本体が船首側に位置し、左舷側にカム軸及び集合型燃料噴射ポンプ、右舷側止部の排気集合管中央部の4番シリンダ付近に過給機があり、同機のタービン囲いから排気出口管の立上り部膨張継手にかけて石綿巻きのラギングが施されていた。 補機の燃料油系統は、サービスタンクを出たA重油が直結の供給ポンプで加圧のうえ、燃料油こし器を経て燃料噴射ポンプに送られるようになっていたが、サービスタンクの補機用取出し口には遠隔遮断弁が設けられていなかった。 燃料油こし器は、複式のノッチワイヤ型で、高さが約250ミリメートル(以下「ミリ」という。)で、各円筒形ケース肩部に、軸心から35度傾斜した向きに口金を溶接し、同口金には空気抜き弁として、呼び径4ミリ、ねじの呼びがPT1/8のくい込ねじ込アングル弁がねじ込まれており、同弁の排出口に外径8ミリ長さ約130ミリの空気抜き管が取り付けられ、同こし器本体下の油受け皿に導かれていた。 ところで、補機の燃料油こし器は、燃料噴射ポンプ船尾側の同ポンプより高い位置にあり、2番シリンダヘッドとほぼ同じ高さに取り付けられているため、空気抜き弁がねじ込み部で脱落した場合、噴出した燃料油が補機上部に降りかかるおそれがあるので、同箇所からの燃料油漏れを見落とすことのないよう十分に点検する必要があった。 A受審人は、第1種従業制限を有する漁船の乗組み基準により、乙種二等機関士の旧資格で、平成5年12月機関長として乗り組み、機関の運転管理に従事しており、操業中の機関当直について、機関部も甲板上での作業に加わることから、4時間ごとに30分程度日誌記入のための機関室見回りと計測を行うほか、2時間間隔で冷凍機の点検を兼ねて機関室見回りを10分間行うこととし、00時30分から17時00分を同人が、残りの時間帯を操機長がそれぞれ担当することにしていた。 本船は、平成7年12月末にA受審人ほか12人が乗り組み、青森県八戸港を発し、ニュージーランドを経由して南大西洋に向かい、翌8年2月5日アルゼンチン共和国サンアントニオ港に入港して食糧等の補給を行い、漁業許可書を受け取ったのち、フィリピン人作業員8人を加えた合計21人が乗り組んで、同月11日04時30分同港を発して同国沖合の漁場に向かった。 A受審人は、補機の運転に当たって、常用機を20日ごとに切り替えて使用することとし、夜間操業中の集魚灯点灯時や冷凍機を3基以上運転する際には補機を並列運転とすることから、翌12日午後に操業開始に備えて1号補機の燃料油及び潤滑油等のこし器類を開放掃除した。 ところが、A受審人は、燃料油こし器復旧後の試運転の際やその後の運転中においても、同こし器を一べつして漏れはないと思い、十分に点検しなかったため、経年による機関振動などにより、同こし器の船首側ケース付き空気抜き弁のねじ込み部のねじ山の谷部にいつしか亀裂が発生し、燃料油がにじみ出る状況になっていることに気付かないまま、同機の運転を続けた。 こうして本船は、同12日深夜から、パラシュート形シーアンカーを投入して操業を続けるうち、運転中の1号補機燃料油こし器の船首側空気抜き弁の前示亀裂が更に進行して、ねじ山付け根の2山を残して同弁が折損し、破孔から噴出した燃料油が燃料噴射ポンプや反対舷の過給機付近に降りかかり、平成8年2月20日01時45分南緯49度12分、西経62度07分の地点で、高温の同機排気出口管から出火し、燃料噴射ポンプに燃え移って機関室が火災となった。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、海上は隠やかであった。 機関室見回りを終えて甲板作業を手伝っていたA受審人は、火災に気付いた漁労長の連絡で機関室入口に急行し、ウエスを口に当てて同室中段に駆け下りたところで、1号補機の燃料噴射ポンプ付近に火炎を認めたので、監視室に入って1号発電機の気中遮断器を引きはずしたが、火炎に包まれて機側で同機を停止できなかったため、サービスタンクの取出し弁を閉弁していったん機関室外に逃れ、呼吸具を装着のうえ炭酸ガス消火器を持って再び機関室に入り、1号補機付近の消火に当たって、同日02時20分ごろ鎮火させた。 火災の結果、本船は1号補機上の天井と電線の一部、同機燃料噴射ポンプなどが燃損したが、同ポンプ及び電線は予備品と取り替え、折損した空気抜き弁の口金には盲栓を取り付けるなどの応急修理を行って翌21日夜半から操業を再開し、後日現地の港で予備品の支給を受けて操業を続け、同年11月八戸港帰港後に焼損箇所の本修理が行われた。
(原因) 本件火災は、補機燃料油こし器の点検が不十分で、経年による機関振動なとで同こし器の空気抜き弁のねじ込み部に亀裂が生じたまま運転が続けられ、亀裂が進行してねじ山の谷部で折損し、噴出した燃料油が高温の過袷機や排気管付近に降りかかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、補機の運転管理に当たる場合、燃料油こし器の空気抜き弁が脱落すると、噴出した燃料油が同機上部に降りかかるおそれがあったから、経年による機関振動などで同弁のねじ込み部に亀裂が生じ、燃料油が漏れていることを見落とすことのないよう、開放掃除の際や運転中に同こし器を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、同こし器を一べつして漏れはないと思い、開放掃除の際や運転中に同こし器を十分に点検しなかった職務上の過失により、同弁ねじ込み部に生じた亀裂に気付かないまま運転を続け、亀裂が進行して同弁が折損したことから、燃料油が噴出して機関室火災を沼き、補機及び同室下段付近を焼損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |