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1999年(平成11年)

平成10年広審第109号
    件名
プレジャーボート原丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:原丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全損

    原因
火災防止措置不十分

    主文
本件火災は、火災防止措置が不十分であったことによりて発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月1日08時55分
岡山県岡山港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート原丸
総トン数 1トン
全長 6.6メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 66キロワット
3 事実の経過
原丸は、最大搭載人員5人のFRP製プレジャーボートで、甲板上が、船首端から1.4メートル後方まで船首甲板、続いて長さ2.6メートルのキャビン及び船尾甲板となっており、船体中央部からやや船首寄りのキャビン天井部上方に風防ガラスと同甲板から高さ約1.4メートルのハードトップで囲まれた内側のキャビン後部外壁右舷側に船外機回転計、速度計などの計器盤及び操舵輪を備えた操縦席、その左舷側に幅64センチメートル(以下「センチ」という。)高さ80センチのキャビン出入口、操縦席の右舷側外板に船外機操縦レバーなどを備えていた。
船尾甲板上には、キャビン出入口の後方にコーミングの高さ30センチ幅40センチ長さ60センチのいけす、船尾寄りの右舷側及び左舷側にコーミングの高さ30センチ幅43センチ長さ60センチで、ハッチカバーをそれぞれ備えた蓄電池庫及び燃料車が配置され、前部及び後部の両舷端に排水口が設けられていた。
ところで、本船のビルジ系統は、船尾甲板下の二重底内にビルジだめが設けられており、キャビン内に浸入した海水や雨水がキャビン後部隔壁下部の両舷端にある幅約10センチ高さ約8センチのほぼ三角形をした開口部から同だめに流入するようになっていたが、同だめにはビルジポンプなどの排水装置が設けられていなかったことから、滞留するビルジの増加及び船体動揺などによりキャビン内にビルジが逆流した際には、ちり取りなどを利用して船外に排出しなければならなかった。
一方、燃料庫内には、油面計、取出口及び呼び径32ミリメートルの給油口を備えた容量53リットルのステンレス鋼製ガソリンタンクが格納され、船尾中央部に装備した船外機にガソリンを供給できるよう配管されていたほか、同庫内部に浸入した海水や雨水などを船尾甲板下のビルジだめに導くよう、同庫後部壁の下部に底部から高さ約10センチの開口部が設けられていた。
A受審人は、ヤマハ発動株式会社が製造した本船を昭和52年4月に購入し、土曜日及び休日を利用して友人などを乗せ、日帰りの魚釣り及び潜水などのレジャーに使用しており、長期間の使用の間に船外機及び亀裂(きれつ)を生じた容量20リットルのFRP製ガソリンタンクの換装、それまで換気装置が設けられていなかったキャビンの船首側天井に直径約4センチの換気孔1個の増設などを行い、日本小型船舶検査機構の検査を定期的に受けていた。
また、A受審人は、燃料油の管理について、1回の航海で30ないし40リットルのガソリンを消費していたところから、乗船時にガソリンを入れた容量20リットルの合成樹脂製ガソリン容器(以下「ポリ容器」という。)2個を持ち込み、出港する前にこれを給油し、ガソリンタンクを満杯として出港するようにしていた。
平成10年2月1日08時30分A受審人は、友人1人を伴って本船に赴き、出港に先立ち、船尾甲板上に氷が薄く張るなど外気温度が著しく低下していたので、キャビン出入口のさし板を取り外し、キャビン後部右舷側に据え付けた容量10キログラムのプロパンガスボンベに長さ約1.5メートルのゴムホースを接続した、一辺30センチ四方の自動点火式ガスこんろを同出入口後部の船尾甲板上に置いて点火し、火力を最大にしてしばらく暖をとったのち、容量20リットルのポリ容器2個に入れたガソリンをガソリンタンクに給油することとし、これを友人に依頼した。
依頼を受けた友人は、燃料庫のハッチカバーを開け、同カバー横の同庫頂面にポリ容器を置き、ガソリンタンク給油口のキャップを取り外し、同容器の取出口に家庭用の合成棚着製手動式給油ポンプ2本の各吸入管を、同タンク給油口に同ポンプの各吐出ホースをそれぞれ挿入して給油を開始し、しばらくして同容器が空となったので2個目の同容器に入れたガソリンも同様にして給油を続け、同容器からガソリンがひとりでに流れ出て同給油口に流入するので同タンクから目を離しているうち、同タンクが満杯となって同給油口からガソリンがあふれ出たものの、このことに気付かず、出港準備に取り掛かっていたA受審人が、これを見付けて08時40分ごろ給油を中止した。
A受審人は、ガソリンタンクの給油口からあふれ出たガソリンが格納車後部壁の開口部から二重底内のビルジだめに流入したのを認め、キャビン出入口からもガソリンの異臭を強く感じた。しかしながら、同人は、燃料庫のハッチカバーやキャビン出入口を開放したまま放置すれば大丈夫と思い、直ちにガスこんろを消火して、火災防止措置をとることなく、同こんろを点火したまま出港準備を終えた。
こうして、本船は、A受審人か操舵操船に就き、友人1人がいけすに腰を掛け、魚釣りの目的で、船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって、08時50分岡山県岡山港の港管理事務所東側の船だまりを発し、船外機の回転数を徐々に上げ、同県牛窓方面の磯場に向けて航行を開始したところ、08時55分児島湾大橋橋梁灯(R2灯)橋梁標(R2標)から真方位045度1,000メートルの地点において、ビルジだめからキャビン後部隔壁下部の開口部を経てキャビン内に侵入したガソリン蒸気にガスこんろの火が引火して火災となった。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、港内ば穏やかであった。
A受審人は、キャビン内が炎上し、ハッチカバーを開放していた燃料庫の開口部からも火炎が吹き上がるのを認め、直ちに船外機の回転数を減じてクラッチを中立とし、そばにあったバケツで海水をすくい上げてキャビンや燃料庫にふりかけるもますます火勢が強くなり、船体各部に延焼することから危険を感じ、クラッチを中立とした直後に海に飛び込んだ友人に続き、海に飛び込んだ。
火災の結果、A受審人及び友人は、いずれも救助されたが、本船は、付近に係留していた船舶の放水消火活動も及ばず、船底部だけを残すだけとなり、のち廃船とされた。

(原因)
本件火災は、出港前に燃料庫内のガソリンタンクにガソリンを給油中、同タンク給油口からガソリンがあふれ出て二重底内のビルジだめに流入した際、火災防止措置が不十分で、暖房用に点火していたガスこんろが消化されないまま使用され、出港直後、キャビン内に侵入したガソリン蒸気に同こんろの火が引火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、出港前に燃料庫内のガソリンタンクにガソリンを給油中、同タンク給油口からガソリンがあふれ出て二重底内のビルジだめに流入し、キャビン出入口からもガソリンの異臭を強く感じるのを認めた場合、気化したガソリン蒸気に引火するおそれがあったから、直ちに暖房用に点火していたガスこんろを消火して、火災防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、燃料庫のハッチカバーやキャビン出入口を開放したまま放置すれば大丈夫と思い、直ちに同こんろを消火して、火災防止措置をとらなかった職務上の過失により、キャビン内に侵入した同蒸気に同こんろの火が引火して火災を招き、原丸をほぼ全焼させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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