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1999年(平成11年)

平成10年広審第3号
    件名
漁船久栄丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年1月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、織戸孝治
    理事官
弓田邦雄

    受審人
    指定海難関係人

    損害
機関室、操舵室及び船体前部がほぼ全焼し、のち廃船

    原因
電気溶接作業後の火気の有無についての点検不十分

    主文
本件火災は、修理業者が、電気溶接作業後の火気の有無についての点検が不十分であったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月17日11時38分
広島県安芸津港
2 船舶の要目
船種船名 漁船久栄丸
総トン数 4.20トン
登録長 10.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 44キロワット
3 事実の経過
久栄丸は、昭和59年4月に進水した、底びき網漁業に従事する幅2.60メートル深さ0.95メートルの一層甲板型木製漁船で、甲板下には、船首方から順に生け間4個、船体中央部から船尾方にかけて長さ約2.5メートルの機関室、次いで燃料油タンク庫及び漁具格納庫がそれぞれ配置され、機関室前部の上方に操舵室が設けられていた。
機関室は、船幅一杯となっていて、主機として三菱重工業株式会社が製造したS3M3D-M15と称する4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関が据え付けられ、同機の動力取出軸により駆動されるネットホーラ用油圧ポンプ及び雑用海水ポンプのほか、前部右舷側に蓄電池2個及び後部中央のビルジだめに水中ポンプなどがそれぞれ設置され、操舵室囲壁の両舷側とブルワーク間の甲板上に約60センチメートル(以下「センチ」という。)四方の機関室出入口各1個及び同室囲壁の天井に幅約1.4メートル長さ約1.5メートルの開口部が設けられていた。
また、機関室には、後部船底の船首尾線から高さ約30センチのところに幅20ないし25センチの木製床板が敷かれていたが、各床板間には約1センチほどのすき間があった。
一方、燃料油タンク庫は、機関室と木製仕切壁で仕切られており、同室床面と同じ高さのところに設けられた木製床板上に容量400リットルの同タンクが同仕切壁にほぼ接し、外板から50センチ離して左右対称に1個ずつ据え付けられていて、同床板下方には仕切壁が設けられておらず、同庫内のビルジだめが同室内のビルジだめと共通になっていた。
主機の排気ガスは、同機の左舷側にある排気マニホルドから機関室及び燃料油タンク庫の左舷御外板に沿って船尾方に延びた呼び径100ミリメートルのステンレス鋼製排気管を通り、漁具格納庫内で耐熱、ゴムホースにより同排気管と接続する同径の耐熱塩化ビニール管、次いで同ビニール管に続く消音器を経て、船尾端左舷側にある排気孔から同排気管に注水された冷却海水とともに船外に排出されるようになっていた。
ところで、主機の排気マニホルドに接続する排気管は、角形フランジ及び呼び圧力5Kフランジ(以下「丸形フランジ」という。)の各継手、90度のベンド管4個などからなる長さ約1.5メートルのもので、冷却海水注水管として呼び径25ミリメートノのステンレス鋼管が取り付けられており、同マニホルドから約15センチ立ち上がって左舷方に、更に機関室の床板上から約30センチ、左舷側外板より約20センチ離して船尾方に延び、同室の後部左舷側で燃料油タンク庫の仕切壁を貫通する排気管と丸形フランジで接続されていた。
本船は、B船長とその妻の2人が乗り組み、広島県大芝島沖合でえび漁を行ったのち、平成9年5月17日05時ごろ同県安芸津港に帰港し、船首0.20メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、安芸津港防波堤灯台から真方位020度150メートルの桟橋に船首を北北東に向け、船尾着けで係留し、同船長が、主機を停止のうえ主直流電源スイッチを切り、各燃料油タンクに軽油約200リットルをそれぞれ入れた状態で、06時ごろ船内を無人として離船した。
帰宅したB船長は、機関室で主機を停止したとき、排気管の冷却海水注水管取付部辺りから冷却海水が漏洩(ろうえい)しているのを認めたので、以前排気管の修理を依頼したことのあるR有限会社に、08時ごろ電話で修理を依頼した。
A指定海難関係人は、内燃機関及び船体の販売、修理などのほか、配管工事を業務とするR有限会社の取締役専務兼作業責任者で、従業員2人を指揮、監督して作業に当たっていた者で、同日朝出社したところ、B船長から排気管の修理依頼があった旨の連絡を受けたので、09時ごろ無人となっていた本船に赴いて冷却海水の漏洩状況を調べようとしたものの、機関室の照明が消灯していてこれができなかったので、同室出入口2個及び同室囲壁天井の開口部の各蓋(ふた)を開放したうえで排気管の防熱材を取り外したところ、冷却海水注入管取付部辺りに数箇所の破孔を認め、腐食により排気管の肉厚が衰耗しているものと判断し、同注水管取付部の少し主機寄りの直管部から丸形フランジ間までを電気溶接(以下「溶接」という。)による切継ぎ修理を行うこととし、09時30分ごろフランジの締付けボルト及びナットを緩めて排気管を取り外し、車両で本船から3分ばかりの距離にある自社の工揚に搬入した。
しかし、A指定海難関係人は、工場に丸形フランジの在庫がなく、排気管がベンド管4個を使用した複雑な形状であったので、直管3個の作製及びベンド管などの加工を工場で行ったのち、直管、ベンド管及び丸形フランジをそれぞれ点付け溶接による現場合わせを行ったうえで、本格的な溶接を工場で行うこととして排気管の切継ぎ修理に取り掛かった。
11時00分A指定海難関係人は、車両に原動機付発電機、電気溶接機などの溶接機材を積み込み、再度本船に単独で赴き、同溶接機からキャブタイヤコードを機関室に引き込み、同発電機を始動し、同室後部左舷側の床板上に防火用石綿布などを敷かないまま溶接作業を始め、丸形フランジと直管とを点付け溶接し、次いでベンド管の同溶接を終えたとき、これに続く直管を工場に忘れてきたのに気付いて取りに帰ることとした。しかしながら、同人は、同作業を開始する際、同室内に強い油類の臭気が感じられず、排気管の周囲にウエスなどの可燃物も散在していなかったことから、床板を取り外すなどして、同作業後の火気の有無についての点検を行わず、飛び散った溶接火花が床板のすき間から船底に落下して、油分を含んだスラッジなどの可燃物に着火するおそれのある状態となっていることに気付かないまま、11時25分離船した。
こうして、本船は、無人のまま、落下した溶接火花により船底部にあった可燃物が燃えあがり、11時38分前示の係留地点において、機関室及び操舵室などが火災となった。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹いていた。
11時40分過ぎ本船に戻ったA指定海難関係人は、機関室及び操舵室が激しく炎上し、生け間辺りの船体にも延焼しているのを認め、本船の左舷側に係留していた漁船に燃え移る状況であったので、これを移動させているうち、付近の住人の通報により到着した消防車の放水消火によって12時ごろ鎮火した。
火災の結果、本船は、機関室、操舵室及び船体前部がほぼ全焼し、のち廃船とされた。

(原因)
本件火災は、修理業者が主機排気管を修理するため機関室床板上で電気溶接作業を行ったのち、本船を無人として離船する際、同作業後の火気の有無についての点検が不十分で、溶接火花が船底に落下し、油分を含んだスラッジなどの可燃物に着火したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、主機排気管を修理するため機関室床板上て電気溶接作業を行ったのち、本船を無人として離船する際、同作業後の火気の有無についての点検を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、その後、消火器の準備、監視員の配置、防火用石綿布の使用及び電気溶接作業後の火気の有無についての点検などを行って、火災防止に努めていることに徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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