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1999年(平成11年)

平成10年広審第27号
    件名
油送船三泉丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年6月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、中谷啓二
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:三泉丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:三泉丸一等機関士 海技免状:四級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)
    指定海難関係人

    損害
機関室上段左舷側、浴室、洗濯室及び空調室などのほか、機関室上段から操舵室に至る電気配線の一部が焼損

    原因
火災防止措置不十分(電気溶接の火花)

    主文
本件火災は、機関室の火災防止措置が不十分で、電気溶接の火花により倉庫内の可燃物が着火したことによって発生したものである。
受審人Bの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月27日14時10分
島根県高島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船三泉丸
総トン数 1,556トン
全長 84.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,765キロワット
3 事実の経過
三泉丸は、昭和60年9月に進水した、主に軽油及びガソリンなどの国内輸送に従事する船尾船橋型油送船で、上甲板下には、船首方から順に船首タンク、錨鎖庫、サイドスラスタ室及び同室の左右舷側にバラストタンク、1番から5番までの貨物槽、貨物ポンプ室、機関室、続いて右舷側前部に炭酸ガス庫を設けた操舵機室がそれぞれ配置され、機関室の上部に船尾楼が設けられていた。
船尾楼上の船橋構造物は、上からコンパス甲板、航海船橋甲板、ボート甲板及び船尾楼甲板と呼ばれており、航海船橋甲板には、操舵室、その船尾方に左右舷の機関室送風機各1台、次いで煙突が、ボート甲板には、船首側に船長室、機関長室などの船員室、通路を隔てて右舷側に一等航海士室、中央に空調室、左舷側に便所及び一等機関士室などが、船尾楼甲板には、船首側に一等航海士室ほか船員室3室、通路を隔てて右舷側に食堂及び炊事室、中央に浴室及び洗濯室、左舷側に便所及び船員室がそれぞれ設けられ、浴室、洗濯室及び空調室の船尾側壁が機関室の船首側囲壁となっていた。
機関室は、下段及び上段の2層に区分され、下段には、ほぼ中央に可変ピッチプロペラ軸を連結した主機、同機の船首側に増速機を介して駆動する容量437キロボルトアンペアの主機駆動発電機(以下「軸発電機」という。)及び貨物ポンプ室船尾側隔壁を貫通する同ポンプ駆動軸2本、右舷側に主機の冷却海水ポンプ、冷却清水冷却器及び潤滑油冷却器など、左舷側に燃料移送ポンプ、燃料供給ポンプ及び可変ピッチプロペラ油圧装置などがそれぞれ据え付けられ、上段には、主機上方の開口部の周囲に機関室をほぼ一巡できる通路、船首側の右舷方から左舷方にかけて主空気槽、主空気圧縮機、燃料油清浄機、C重油澄タンク、C重油常用タンク、汚水タンク及び汚水排水ポンプ、右舷側に潤滑油貯藏タンク、容量187キロボルトアンペアの主発電機及び廃油焼却炉など、左舷側の船首方から順に機関室工作場(以下「工作場」という。)、倉庫及び機関監視室がそれぞれ配置され、船首側の中央寄りに船尾楼甲板の食堂前通路に通ずる昇降階段が設けられていた。
また、機関室の上段左舷側天井には、船員室、空調室及び操舵室などに給電する電気配線束が、機関監視室の主配電盤から倉庫及び工作場の天井を経て、船首側中央から船尾楼甲板方に立ち上がっていた。
ところで、工作場は、汚水タンク、左舷側外板及び倉庫の間にある幅約1.6メートル奥行約3.3メートルの空所で、倉庫側の仕切壁に沿って幅約0.8メートル長さ約1.5メートル高さ約0.9メートルの作業台、その左舷側の外板近くに電気溶接機、通路寄りにグラインダ及び卓上ボール盤が備えられていた。
一方、倉庫は、上段左舷側通路に面した仕切壁中央に開き戸があって、左舷側外板、工作場及び機関監視室の両仕切壁面に上下2段の棚を設け、予備品や消耗品などを収めたダンボール箱及び鉄製箱のほか、木板及びウエスなどを格納しており、工作場との仕切壁には、床上から高さ約0.9メートルの鉄板とその上方に天井部まで金網が張られていた。
また、機関室の消火設備は、同室に火災検知装置が設けられていなかったものの、下段にある消防兼ビルジポンプ及びビルジ兼雑用水ポンプによる放水消火装置、持ち運び式及び45リットル移動式の各泡消火器のほか、下段に6箇所及び上段に4箇所の炭酸ガス消火装置用噴出ノズルがそれぞれ設けられられており、本船では、月1回の消火訓練が行われていた。
A受審人は、昭和60年10月本船竣工時から機関長として乗り組み、2ないし3箇月間乗船したのち3週間前後休暇の就労形態で乗下船を繰り返し、機関当直を単独4時間交替の3直制とし、自らは、08時から12時までの同当直に就いて機関の運転監視を行い、航行中における機関室内での火気作業については、これを何ら制限していなかったので、工作場で同当直中の一等機関士や機関員が電気溶接などによる同作業をときどき行っており、その際、事前に部下から同作業についての報告がなかったものの、工作場の使用状況などによりこのことを知っていた。しかしながら、同人は、部下が同作業を行うときには、前もって水を張ったバケツなどを用意していたので大丈夫と思い、同作業後、火気の有無についての点倹を十分に行うよう指示することなく、部下を同当直に就かせていた。
B受審人は、平成9年2月から本船に一等機関士兼機関部の安全担当者として乗り組み、A受審人の指揮、監督のもと、00時から04時までの機関当直に就いて機関の運転監視のほか、荷役時の主機運転操作などに当たり、消火訓練時には、機関室の総指揮者であるA受審人の補佐に就いていた。
本船は、A、B両受審人のほか9人が乗り組み、軽油2,290キロリットル及びガソリン770キロリットルを積載し、船首4.70メートル船尾5.70メートルの喫水をもって、同年11月26日15時50分岡山県水島港を発し、主機の回転数を毎分246可変ピッチプロペラの翼角を14度とし、軸発電機を運転して石川県金沢港に向かった。
ところで、上甲板にある左右舷の荷役取入管は、呼び径300ミリメートル(以下「ミリ」という。)のもので、製油所などのローディングアームが呼び径200ミリのフランジを使用していたところから、レデューサーを介して同アームと接続するようになっており、航行時などにレデューサーから漏油することのないよう呼び径200ミリ厚さ約20ミリの盲フランジが取り付けられていた。
翌27日11時45分B受審人は、機関当直に就くため機関室に赴き、同室内を一巡して機関の運転状態を点検し、機関監視室でA受審人と同当直を交代したのち、甲板員から備付けの盲フランジが重くて取扱いにくいことを聞いていたので、以前より盲フランジを薄い鉄板で作ってやろうと思っていたものの、荷役待ちなどの錨泊時間が少ないこともあってこれをできずにいたところ、金沢港に向かう航行中に厚さ5ミリの鉄板で盲フランジ2枚の作製を思い立ち、同当直の引継を終えてすぐ同監視室からボート甲板の機関室囲壁右舷側の暴露甲板上にあるボンベ置場に赴き、酸素及びアセチレンの各ボンベに圧力調整器及びゴムホースを取り付け、同ホースを工作場に引き込んだのち、前回の同当直時に用意しておいた1辺の長さ約1メートル四方で厚さ5ミリの鉄板を、水を張った容量20リットルの缶2個の上に置き、備付けの厚さ約20ミリの盲フランジを参考にして、12時10分ごろからガス切断により盲フランジの作製を始めた。
13時00分過ぎガス切断作業を終えたB受審人は、作製した両盲フランジの中央に前もって用意していた台付きの取手2個を電気溶接で取り付けることとし、電気溶接機の電流を約180アンペアに設定し、直径4ミリの溶接捧をホルダに取り付け、工作台の左舷側端にある、アースの効く万力の上に盲フランジを置いたり、挟んだりしながら電気溶接を行い、これを同時40分ごろ終えたのち、工作場に引き込んだゴムホースを片付け、使用した圧力調整器やモンキレンチなどを持って工作場に戻ったとき、同溶接機の上方辺りから焦げ臭い異臭がするのを認めた。しかしながら、同人は、溶接作業時に発生したガスが残留しているものと思い、同作業後の火気の有無を十分に確認することなく、機関屋を無人のまま、すぐにコーヒーを飲みに操舵室に赴いたので、倉庫の船首側仕切壁の金網を通して飛び込んだ電気溶接の火花が倉庫内にあった可燃物に着火したものの、このことに気付かなかった。
こうして、本船は、主機を全速力前進にかけ、軸発電機を運転して航行中、倉庫内の可燃物が燃え上がり、付近のダンボール箱、ウエス、天井の電気配線束などに燃え移り、14時10分高島灯台から真方位340度8.6海里の地点において、コーヒーを飲み終えて船橋当直中の甲板長と雑談していたB受審人が、ゴムの燃えるような異臭を感じて食堂前の機関室出入口の昇降階段から機関室に下りたところ、上段左舷側周辺に黒煙が立ち込め、工作場の左舷側外板に掛けていた電気溶接用キャブタイヤコード束が燃えており、倉庫の工作場側仕切壁上方にも火炎を認めた。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、海上は隠やかであった。
B受審人は、ガス切断時に使用した缶の水を火炎めがけてふりかけたが、効なく、気が動転していて近くにあった持ち運び式泡消火器の安全ピンが抜けず、これを放射できないまま船尾楼甲板に駆け登って水をくんでいるうち、機関室の異常を知り、同消火器を持って駆け付けた乗組員が食堂前の同室出入口に集まったまま、黒煙が充満し始めた同室に入室できずにいるのを認めた。
また、自室で休息していたA受審人は、異臭に気付いて空調室などを点検したのち、機関室出入口の昇降階段を下りたところ、黒煙が立ち込め、工作場及び倉庫内が燃え上がっているのを認め、甲板長から火災発生の報告を受けて操舵室にいた船長に火災状況を報告した。
船長は、黒煙が増し、火勢がますます強くなる旨の報告を聞いて消火器などによる消火を断念し、炭酸ガスの注入を決め、機関室の各開口部、同室送風機ダンパの閉鎖及び同送風機の停止を指示し、乗組員全員の所在を確認したのち、14時20分同ガスを同室に注入し、同時25分ごろ電気配線が焼損したかして、船内電源が喪失して操舵不能となり、操舵室から主機を非常停止し、15時00分浜田海上保安部に火災発生の連絡をするとともに救助を要請した。
そののち、本船は、機関室から立ち上がっている電気配線束を通して火災が居住区に拡大し、次第に煙が充満してきたため、15時20分居住区を密閉して上甲板に乗組員全員が避難し、16時00分ごろ巡視船が来援したので船長、機関長なと職員を残して乗組員7人が乗り移り、間もなく同船の放水により船体を冷却する措置がとられ、しばらくして鎮火した。
火災の結果、本船は、機関室上段左舷側、浴室、洗濯室及び空調室などのほか、機関室上段から操舵室に至る電気配線の一部が焼損して航行不能となり、引船により最寄りの島根県浜田港に引き付けられ、のち焼損部が修理された。

(原因)
本件火災は、機関室の火災防止措置が不十分で、機関当直者が行った電気溶接の火花が隣接する倉庫の仕切壁金網を通して飛び込み、倉庫内の可燃物に着火したことによって発生したものである。
機関室の火災防止措置が不十分であったのは、機関長が、部下に対し、電気溶接などの火気作業後、火気の有無についての点検を行うよう指示していなかったことと、単独で機関当直中の一等機関士が、同作業後の火気の有無を確認しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
B受審人は、電気溶接作業後に工作場の電気溶接機の上方辺りから焦げ臭い異臭がするのを認めた場合、同作業時の火花か隣接する倉庫の仕切壁金網を通して飛び込み、倉庫内の可燃物に着火しているおそれがあったから、同作業後の火気の有無を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同作業時に発生したガスが残留しているものと思い、火気の有無を十分に確認しなかった職務上の過失により、倉庫内の可燃物に着火していることに気付かず、機関室の火災を招き、同室上段左舷側、居住区の浴室、洗濯室、空調室及び機関室上段から操舵室に至る電気配線の一部などを焼損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、機関当直中の部下が工作場で電気溶接などの火気作業を行っているのを認めた場合、隣接する倉庫内に可燃物が格納されていたのであるから、部下に対し、同作業後、火気の有無についての点検を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前もって水を張ったバケツなどを用意していたので大丈夫と思い、部下に対し、同作業後、火気の有無についての点検を十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、機関室の火災を招き、前示の焼損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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