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1999年(平成11年)

平成10年長審第58号
    件名
貨物船第五富福丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年5月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第五富福丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
主機、機関室内配線、居住区等焼損

    原因
主機始動後の点検不十分

    主文
本件火災は、主機始動後の点検が不十分で、燃料噴射管からの漏油が放置されていたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月8日09時20分ごろ
熊本県八代港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五富福丸
総トン数 199.54トン
登録長 35.11メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分400
3 事実の経過
第五富福丸は、昭和44年12月に竣工した船尾楼付一層甲板型の鋼製貨物船で、船尾楼の前部に操舵室と居住区からなる2階建の船楼を、同楼の後方に煙突や天窓を付設した機関室囲壁をそれぞれ配置し、機関室の中央に逆転機付きの主機を据え付け、航行区域を限定沿海区域と定めていたところ、平成6年3月航行区域を平水区域に変更し、以後、島原湾及び八代海における砂利採取運搬業務を行うようになり、同8年5月有限会社Rの所有となった。
ところで、主機は、マツエディーゼル株式会社が昭和44年11月に製造したHS6MZ-28型と称するディーゼル機関で、始動と停止を除き、操舵室での遠隔操作が可能となっていて、A重油を燃料とし、船首側から順にシリンダ番号を付け、上部右舷側沿いに上下2段に分かれた排気管を、各シリンダの左舷側中央部にボッシュ式の燃料噴射ポンプをそれぞれ配置し、各シリンダヘッドに燃料噴射弁、吸・排気弁等を備え、排気管を全体的に断熱材で覆ってあったものの、同ヘッドにはカバーを付けてなく、同ヘッド出口の排気温度計取付部や、3番シリンダと4番シリンダとの間にある上下の排気管の重ね合わせ箇所の一部が曝露(ばくろ)していた。
また、主機の燃料噴射弁は、噴射圧力が280ないし300キログラム毎平方センチメートルで、シリンダヘッドの中央部に垂直に挿入され、右舷側を向いて取り付けられた燃料入口金具に、外径10ミリメートル内径4ミリメートルの高圧配管用炭素鋼製燃料噴射管の半紡錘形状に加工された先端部を嵌(は)め合わせ、ねじの呼び径18ミリメートル、ピッチ1.5の袋ナットで締め付けてあり、同弁からシリンダヘッド上に漏れたA重油や、吸・排気弁から飛散した潤滑油は、同ヘッドからシリンダブロックの側壁沿いに滴り落ちるようになっていた。
一方、A受審人は、平成8年5月機関長として本船に乗り組み、船長と2人で運航にあたり、主機の発停は自らが機関室で行い、航海中は2時間おきに機関室に入って、主機吸・排気弁の手差し注油や主機の上方に設置された燃料サービスタンクヘの送油などを行いながら、同年11月修理業者に依頼して主機シリンダヘッドの開放整備を行ったものの、その後、燃料噴射管の袋ナットを増締めしたり、同ナットの接続部を注意深く点検したりすることがなかったので、4番シリンダの燃料噴射弁と燃料噴射管との嵌合(かんごう)面に、微細な異物噛み込みによる漏油を生ずるようになったことに気付かないまま、運航に従事していた。
越えて平成9年9月8日A受審人は、熊本県三角港において、海砂約150立方メートルを積んで船首2.50メートル船尾3.45メートルの喫水となった本船に、船長と2人で乗り組んで発航準備にかかり、07時40分ごろ機関室にて主機を始動して中立運転としたがいつものように船首船尾の係留索を早く解こうと思い、吸・排気弁の頭部と燃料噴射ポンプのラック機構に手差し注油をしただけで、主機の運転状態を十分に点検することなく、4番シリンダの燃料噴射管の燃料噴射弁を締め付けている袋ナットの部分からA重油が漏れていることに気付かないで、同時45分ごろ機関室を離れ、船首船尾の係留索を解き放った。
こうして本船は、08時00分三角港を発し、熊本県田浦港へ向けて主機の回転数を毎分約350として航行中、僚船の押船と非自航運搬船からなる押船列と行き会い、A受審人がいったん機関室に戻って燃料サービスタンクヘの送油を済ませ、居住区でお茶を入れて昇橋し、船長と2人でお茶を飲み始めて間もなく、主機4番シリンダの前示袋ナットの部分からA重油が排気管の方へ噴出するようになり、排気管の曝露部分に降りかかったA重油が発火して燃え広がり、09時20分ごろ雨竜埼灯台から真方位080度2.4海里ばかりの地点において、機関室火災となった。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、海上ば隠やかであった。
A受審人は、開放中の機関室天窓から黒煙が出てきたのに気付き、船長に機関室火災の旨を知らせて主機を中立運転としてもらい、降橋して機関室に入ろうとしたが煙が充満していて入れず、主機を停止できないまま、船長の指示を受けながら同室の密閉に努めた。
船長は、先刻行き会った僚船に救助を求めて09時30分投錨したものの、火勢がひどくなって爆発の危険を感じたので、運搬船を切り離してほどなく来援した押船にA受審人とともに移乗し、海上保安部に通報したところ、曳航して熊本県八代港に入るように指示され、抜錨して本船を押船に引かせ、12時20分同港に着き、岸壁上で待機していた消防車からの放水を受けて、同時50分ごろ鎮火させ、後日、焼損した主機、機関室内配線、居住区等の修理を行った。

(原因)
本件火災は、熊本県三角港を発航するにあたり、主機始動後の点検が不十分で、燃料噴射弁と燃料噴射管との嵌合面に生じていた異物噛み込み傷からの漏油が放置され、航行中、同嵌合面からA重油が噴出して主機排気管の曝露部分に降りかかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、熊本県三角港を発航するにあたって主機を始動した場合、水漏れや油漏れなどの異状を生じたまま主機を運転することのないよう、主機の運転状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつものように船首船尾の係留索を早く解こうと思い、主機の運転状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、燃料噴射管を燃料噴射弁に締め付けている袋ナットからのA重油噴出を招き、機関室火災を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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