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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月14日21時00分ごろ 長崎県相浦港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船香神丸 総トン数 449トン 登録長 46.19メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 478キロワット 3 事実の経過 香神丸は、平成元年8月に進水し、航行区域を沿海区域と定め、砂、石材等のばら積輸送に従事する全通二層甲板船尾船橋機関室型の鋼製貨物船で、船尾甲板上の中央部に配置した機関室囲壁を取り巻くようにして居住区を設け、居住区の前部のみ三層に分かれて船員室と操舵室となっており、機関室囲壁の右舷側に食堂及び賄室を、同囲壁の左舷側に便所、浴室等をそれぞれ船縦に配置してあった。 ところで、食堂は、長さ3.6メートル幅2.2メートルで、床の中央部に長さ1.5メートル幅0.6メートルの木製の食卓を鋼管製の2本の支柱でもって固定し、その両側に椅子を並べたほか、食卓の下方前後2箇所に800ワットの食堂暖房用電気ヒーター(以下「電気ヒーター」という。)を、右舷側前方の隅に電気冷蔵庫を、右舷側後方の隅にテレビジョンを載せた戸棚を、食卓の前後両支柱に電気ヒーター専用の二口コンセントを、電気冷蔵庫の前方の前壁面に同冷蔵庫専用の一口コンセントを、テレビジョンの後方の後壁面にテレビジョン専用の一口コンセントをそれぞれ設置し、これら電気器具の使用電圧を単相交流100ボルトと定め、壁面と天井面にはベニヤ板を内張りし、テレビジョンの下には木製の化粧板が敷いてあった。なお、肌寒いときには、食堂内に人がいようがいまいが、慣習として電気ヒーターのスイッチが入れられたままであった。 一方、A受審人は、本船に艤装時から機関長として乗り組んで運航に従事していたところ、食卓の後部支柱に設置された電気ヒーター専用のコンセントが破損したので、一端がプラグ、他端が二口コンセントとなった長さ約1.5メートルの中古の家庭用電気コードをテレビジョン専用のコンセントに接続して仮配線とし、同コードの容量や来歴が不明なまま、同コードのコンセントにテレビジョンと食卓の後部下方に設置された電気ヒーターの各プラグを差し込んで使用していたが、仮配線のままで支障はあるまいと思い、同コードを束ねてテレビジョンの裏のすき間に押し込んだきりで、同コードを点検することなく、同コードのコンセントの電気ヒーターのプラグ差込み部が発熱によっていつしか変色し、同差込み部の絶縁が劣化してきたことに気付かないでいた。 こうして本船は、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま船首1.1メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成10年5月9日13時25分長崎県西彼杵郡西海町にある太田和港を発し、14時20分同県佐世保市にある母港の相浦港に着き、ディーゼル機関駆動の発電機を運転したまま、乗組員が船体整備などを行いながら、岸壁に船尾付けとして積荷待機中、同月14日の昼食後、積荷のため、翌早朝五島列島の若松島へ向けて出港することになり、14時30分ごろA受審人以外の乗組員はそれぞれの自宅に帰った。 独り船に残ったA受審人は、食堂で夕食をとり、たばこを吸いながらテレビジョンを見たのち、就寝することとし、いったん甲板上に出てたばこの吸い殻を海中に捨てるとともに小用を済ませ、灰皿を食卓の上に戻してテレビジョンや電灯のスイッチは切ったものの、いつものとおり電気ヒーターのスイッチは入れたまま、20時ごろ食堂を出て操舵室直下の自室に退いた。 食堂が無人となった本船は、A受審人が自室で個人用のテレビジョンを見ながらうとうとしていたところ、前示電気コードのコンセントの電気ヒーターのプラグ差込み部分が絶縁破壊して発火し、生じた火炎が周囲に燃え広がり、21時ごろ佐世保市愛宕山259メートル頂から真方位218度1,250メートルばかりの地点において、A受審人が異音に気付いて自室の扉を開け、多量の黒煙が下方から立ち昇ってくるのを認めた。 当時、天候は曇で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 A受審人は、食堂と賄室とが火災となっているのを確かめ、消火用ポンプを運転して両室の屋根に海水を掛けたり、居住区の密閉に努めたりしたのち、近くのパチンコ店へ行って消防署への通報を依頼し、ほどなく来援した消防車によって鎮火させ、後日、焼損した食堂、賄室、船員室等の修理を行った。
原因) 本件火災は、食堂暖房用電気ヒーターへの給電用として仮配線中の家庭用電気コードに対する点検が不十分で、同コードのコンセントが絶縁劣化したまま放置されていたばかりか、同ヒーターの取扱いが不適切で、同ヒーターのスイッチが入ったままであったため、夜間、長崎県相浦港において、食堂を無人として停泊中、同コードのコンセントが発火し、火炎が周囲に燃え広がったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、食堂暖房用電気ヒーター専用のコンセントが破損したため、テレビジョン専用のコンセントに家庭用電気コードを仮配線し、同コードのコンセントからテレビジョンと同ヒーターに給電していた場合、同コードは中古品であったうえ、容量や来歴が不明であったから、同コードに異状を生じたままテレビジョンや同ヒーターを使用することのないよう、適時、同コードを十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、仮配線のままで支障あるまいと思い、同コードを束ねてテレビジョンの裏のすき間に押し込んだきり十分に点検しなかった職務上の過失により、いつしか同コードのコンセントが絶縁劣化してきたことに気付かないまま、同コードの使用を続け、夜間、長崎県相浦港において、食堂暖房用電気ヒーターのスイッチを入れたまま、食堂を無人として自室で休息中、同コードのコンセントからの発火を招き、火炎が周囲に燃え広がって食堂、賄室、船員室等に火災を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |