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1999年(平成11年)

平成11年神審第20号
    件名
押船第1三国丸運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成11年12月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、米原健一、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第1三国丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
右舷主機の潤滑油圧力検出器の前示導管取付け用袋ナットが緩み、潤滑油の漏出、操舵機が使用不能

    原因
潤滑油系統の点検不十分

    主文
本件運航阻害は、主機の潤滑油圧力低下警報装置が作動した際、潤滑油系統の点検が不十分で、操舵機油圧ポンプを駆動する同機が停止されたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月22日12時10分
石川県安宅漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 押船第1三国丸
総トン数 19トン
全長 13.45メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,059キロワット
3 事実の経過
第1三国丸(以下「三国丸」という。)は、平成6年2月に進水した2基2軸の鋼製押船で、主機として、三菱重工業株式会社が製造した出力529.5キロワットのS6R2−MTK型ディーゼル機関を2基備え、両舷主機船首側の動力取出軸には、右舷主機に操舵機油圧ポンプ及び台船結合用シリンダ油圧ポンプが、左舷主機に発電機及びビルジ兼雑用水ポンプがそれぞれベルト駆動方式で連結されていた。
三国丸は、専ら、全長55.0メートル幅20.0メートル深さ3.0メートルの非自航式クレーン付台船第2三国丸(以下「台船」という。)の押航に従事しているもので、船橋の上方で上甲板上約7メートルの高さを床面とする位置に上部船橋(以下「操作室」という。)を設け、同室内には主機の操縦装置、回転計及び警報装置が備えられ、船橋内には主機の発停スイッチを含む操縦装置のほか、回転計及び潤滑油圧力計などを組み込んだ運転監視盤と警報盤が備えられており、独航時には船橋で、押航時には操作室でそれぞれ操船するようになっていた。

主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめから、直結潤滑油ポンプによって吸引された潤滑油が、5.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に加圧され、油こし器及び油冷却器を順に経て入口主管に至り、同管から分岐して各部に注油されて油だめに戻る経路となっており、油圧が1.5キロに低下すると、操作室では機関異常警報ランプが点灯して警報音が鳴り、船橋では潤骨油圧力低下警報ランプが点灯して警報音が鳴るようになっていた。
また、潤滑油圧力検出器は、各主機の右舷側上部に装備され、同検出器の下部に呼び径6ミリメートルの導管が袋ナットにより取り付けられており、右舷主機の右舷側上部には機関室右舷囲壁が近接し、その間隔は約20センチメートルであったが、右舷側下段部と右舷外板との間には十分な隙間があり、身体が楽に入る余裕があった。

A受審人は、三国丸の新造時から乗船し、台船と押船列を構成してその指揮を執るとともに、操船の傍ら機関の運転管理にも当たり、福井県福井港を基地としてほぼ日帰り行程で海洋工事に従事しており、押航中は主機が高負荷になることから、ときどき船橋に降りて排気温度の点検は行っていたが、潤滑油圧力計や冷却水温度計の示度を見ることはほとんどなく、警報に頼る傾向があった。
ところで、三国丸は、押船列を構成して航行する際、台船の船尾中央部に設けられた凹部に本船全体をはめ込み、左舷側船首部及び右舷側船尾部の2箇所に設置された各油圧シリンダのピストンロッドを押し出し、同ロッド先端部のゴム板を凹部に押し付けるとともに、その反力でそれぞれ対称位置に取り付けられたゴム板も凹部に押し付け、合計4枚のゴム板の摩擦力で台船を結合させる仕組みとなっており、プロペラ水流が台船凹部の干渉を受けて本船の船底船尾部に強く当たることから、就航以来、船体振動が大きい頃向にあった。

こうして、三国丸は、A受審人が単独で乗り組み、捨て石1,200トンを積載し作業員5人を乗せた台船を押し、同10年7月22日08時30分福井港三国区を発し、石川県安宅漁港沖合300メートルの工事現場に向け、両舷主機を回転数毎分1,250にかけて押航中、右舷主機の潤滑油圧力検出器の前示導管取付け用袋ナットが振動によって緩み始め、潤滑油が外部に漏れ出る状況となり、同油圧力は正常値を保っていたものの、同検出器の検知圧力が低下し、12時10分安宅港口灯台から真方位253度2.5海里の地点において、潤滑油圧力低下警報装置が作動した。
操作室で操船していたA受審人は、警報音が発せられたので、直ちに両舷主機を中立運転とし、船橋に駆け下りて右舷主機の潤滑油圧力低下警報ランプが点灯しているのを認めたが、同油圧力計の示度を確かめることなく同機を停止し、次いで機関室に入ったものの、右舷主機の外回りを一べつしただけ潤滑油の漏洩箇所はないものと思い、同機の右舷側に回り込むなどして潤滑油系統の点検を十分に行わなかったことから、前示検出器の導管取付け用袋ナットが緩んでいることに気付かないまま調査を終え、依然同警報が作動したままであったので右舷主機の運転を断念した。

当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は穏やかであった。
そして、A受審人は、救援及び修理の手配を行ったうえ、目的地まで残りわずかだったことから航行を続けることとし、操舵機が使用不能となったので、台船に搭載していた作業艇を引船とし、自船は左舷主機を使用して船団を工事現場に到着させ、捨て石の投下作業を行った。
三国丸は、作業終了後、来援した引船によって台船とともに福井港に引き付けられ、同港で特機していた機関修理業者により右舷主機の調査が行われた結果、前示漏油箇所が発見され、のち袋ナットを締め直して修理された。


(原因)
本件運航阻害は、クレーン付台船を押航中、主機の潤滑油圧力低下警報装置が作動した際、潤滑油系統の点検が不十分で、緩みを生じて漏油していた同油圧力低下検出器の導管取付け用袋ナットが締め直されず、同警報装置が作動したまま、操舵機油圧ポンプを駆動する同機が停止されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、クレーン付台船を押航中、主機の潤骨油圧力低下警報装置が作動した場合、同油圧力が正常に保たれていても、警報装置の不具合で警報が作動することがあるから、同油圧力を確認したうえ、潤滑油系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同油圧力を確認しなかったばかりか、同機の外回りを一べつしただけで潤滑油の漏曳箇所はないものと思い、潤滑油系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同油圧力低下検出器の導管取付け用袋ナットが緩んでいることに気付かないまま、操舵機油圧ポンプを駆動する主機を停止し、自力航行が不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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