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1999年(平成11年)

平成10年神審第74号
    件名
引船第二十三きさ丸引船列運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成11年4月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第二十三きさ丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
操舵機作動油の性状確認不十分

    主文
本件運航阻害は、操舵機作動油の性状確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月8日16時30分
静岡県石廊埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船第二十三きさ丸 台船(K)2002号
総トン数 97.03トン
全長 25.10メートル 60.00メートル
幅 20.00メートル
深さ 3.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第二十三きさ丸は、昭和54年11月に進水した、低船首楼付一層甲板型鋼製引船で、操舵装置として北川工業株式会社が同年に製造したKEM-KW200EM型と称する、電動油圧2シリンダパラレルリンク式操舵機を備え、操舵室に舵輪ユニット及び遠隔操作スイッチを組み込んだ操舵スタンドが、操舵機室にポンプユニット、応急操舵ポンプ、舵機シリンダなどが、それぞれ設置されており、通常操舵のほか、レバー操舵及び応急操舵が行えるようになっていた。
操舵機の油圧系統は、容量10リットルの作動油タンク内の作動油が、同タンクの中央部に内蔵されたノッチワイヤ式の吸入フィルタ(以下「フィルタ」という。)を経て、電動油圧ポンプによって吸引加圧され、電磁切換弁、応急操舵ポンプ及びティラーバルブを経て油圧シリンダに至るようになっており、円筒形状の同タンクの上部に注油口、下部にドレンプラグ、サイドカバーにオイルゲージがそれぞれ取り付けられていた。
また、電磁切換弁は、スプール、スプリング及びプッシュロッドなどが組み込まれた本体の両端に、それぞれ1組のソレノイドが取り付けられた4ポート3位置切換え式で、作動油タンクの上部に設置されており、操舵スタンドからの電気信号により、いずれかのソレノイドが励磁されるとプッシュロッドが押され、スプールがスプリングに抗して所定のストローク移動して各ポート間の流路を切り換え、ソレノイドが消磁されるとスプリングの力によりスプールが中立位置に戻る機構になっていた。
一方、操舵機の作動油は、運転時間の経過によって劣化するほか、油圧回路構成機器から破損片あるいは摩耗による金属粉などの異物が混入して汚損されると、同機の故障や作動不良の原因となることから、操舵機メーカーでは、作動油を1年ごとに交換し、作動油タンクの点検及びフィルタ掃除を6箇月ごとに行うよう、取扱説明書に記載して機器取扱者に注意を促していた。
A受審人は、平成4年有限会社Rに入社し、僚船の第十八きさ丸に機関長として約3年間乗船したのち、同7年4月に同社が第二十三きさ丸を買い取ったのを機に、同船の機関長として乗り組むこととなり、1人で機関の運転管理に当たり、主として大阪湾内での台船曳航に従事し、2箇月に1度程度京浜地区までの航海を行っていた。
ところで、A受審人は、操舵機にっいて、前船においては2年ごとの検査工事の際に作動油の交換及び作動油タンクの掃除を行っていたが、第二十三きさ丸の前任機関長からは操舵機に関して特に引継ぎを受けていなかった。このため、同人は、作動油タンクのオイルゲージだけを見て、作動油がまだ汚れていないので同油量を保持しておけば大丈夫と思い、同年10月の定期検査工事の際やそれ以降も同タンクの内部を点検するなどして同油の性状確認を行わなかったので、同油が7ないし8年間にわたって交換されずに使用され、同タンク内部の汚損劣化が激しくなっていることに気付かないまま、操舵機の運転を続けていた。
こうして、第二十三きさ丸は、船長B及びA受審人ほか1人が乗り組み、長さ50メート直径1.5メートルの鋼管を2段積みで満載した、無人の台船(K)2002号を長さ約300メートルの曳航索で引き、船首から台船の後端までの距離が約382メートルとなる引船列を構成し、同8年2月5日23時00分岡山県笠岡港を発し、京浜港川崎区に向かった。
越えて同月8日、本船は、静岡県石廊埼沖を東行中、折から西寄りの強風で船体の動揺が大きくなり、船長が手動操舵として航海当直に当たっていたところ、操舵機の作動油タンクの底部に滞っていた微小な異物が、フィルタを通過して油圧ポンプで吸引されて電磁切換弁に送られ、スプールが異物をかみ込んで左舵の位置で固着し、同日16時30分石廊埼灯台から真方位075度2海里の地点において、舵角が左舵一杯の35度となったまま操舵不能となった。
操舵不能に気付いた船長は、主機のクラッチを切ったところ、船体が風圧によって風下の浅礁に向かって流され始めたため、本社及び最寄りの海上保安部に連絡して救援を求めた。
当時、天候は晴で風力5の西風が吹き、海上は波が高かった。
A受審人は、船長から操舵不能となった旨を知らされて操舵機室へ急行し、応急操舵へ切り換えるため、応急操舵ポンプの三方切換弁を操作したところ、応急操舵用の油タンクに油圧シリンダから作動油が逆流して噴き出したため、電磁切換弁が中立になっていないと応急操舵はできないものと思い、その旨を船長に報告し、電動油圧系統の原因調査に取り掛かった。
その後1時間余り経過したところで、A受審人は、油圧ポンプや電気信号系統の異状ではなく、スプールが固着して電磁切換弁が片側一杯に突っ込んでいることを認め、来援の19トン型の引船及び巡視艇が本船に到着して間もない同日18時20分、ドライバーをソレノイドに入れてハンマーで叩き、同弁スプールをリリースして操舵を可能とした。
その後、本船は、18時30分低速で自力航行を再開し、最寄りの静岡県下田港外に錨泊したのち、翌朝同港に着岸後、来船した操舵機メーカーの手によって、作動油タンク及びフィルタの掃除並びに作動油の交換が行われた。

(原因)
本件運航阻害は、台船を曳航中、操舵機作動油の性状確認が不十分で、同油が汚損劣化したまま使用され、電磁切換弁に異物をかみ込み、同弁が固着して操柁不能となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、操舵機の管理に当たる場合、同機の作動油が汚損劣化したまま使用され、電磁切換弁が固着して操舵不能になることのないよう、作動油タンクの内部を点検するなどして同油の性状確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが同人は、同タンクのオイルゲージだけを見て、作動油がまだ汚れていないので同油量さえ保持しておけば大丈夫と思い、同油の性状確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同油中の異物によって電磁切換弁を固着させて、操舵不能を発生させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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