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1999年(平成11年)

平成10年門審第80号
    件名
旅客船さんふらわあ2運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成11年1月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

吉川進、伊藤實、西山烝一
    理事官
内山欽郎

    受審人
A 職名:さんふらわあ2機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
電気設備の取扱い不十分(電力節減の措置)

    主文
本件運航阻害は、ガバナ異状等で主発電機1台による給電を余儀なくされた際、自力航行するための電力節減の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月13日08時42分
伊予灘西部
2 船舶の要目
船種船名 旅客船さんふらわあ2
総トン数 12,111.86トン
全長 185.0メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 19,181キロワット
回転数 毎分400
3 事実の経過
さんふらわあ2は、昭和47年1月に進水した、大阪港及び神戸港と大分県別府港との間を定期運航する旅客船兼自動車渡船で、4基の主機と2軸の可変ピッチプロペラ装置を備え、主機を機関室右舷側前部に2基、左舷側後部に2基配置し、各舷とも主機が2基ずつ空気圧クラッチを介して減速装置に入力していた。
発電機として、ディーゼル機関駆動で定格出力880キロワット(標準力率0.8、以下同じ。)の主発電機(以下「主発」という。)2基出力1,100キロワットのガスタービン発電機(以下「ガス発」という。)1基、4号主機の船首側に置かれ増速歯車を介して駆動される出力1,320キロワットの軸発電機(以下「軸発」という。)及びディーゼル機関駆動で出力132キロワットの非常発電機を備えていた主電源系統は、機関室動力、船内照明等に配電する第一母線と、主冷却海水ポンプ、通風機空調機等に配電する第二母線、そして航海計器、操舵機、消防設備等に配電する第三母線からなり、通常は全ての母線が共通に接続されて主発が単独又は2台並列で電圧440ボルト周波数60ヘルツの三相交流電力を給電し、そのバックアップとしてガス発が給電できるもので、主機を運転中には、軸発が第一母線から分割された第二母線の負荷とバウスラスターに給電し、第一母線の停電時には、非常発電機が自動始動して第三母線に専用に給電するようになっていた。
主発及びガス発は、並列運転中、ガバナモータを配電盤のガバナスイッチで遠隔操作してガバナ調整軸を動かし、各機を増減速して負荷配分を手動操作できたが、通常は配電盤に内蔵する自動負荷分担装置の信号で同調整軸を自動調整し、均等に負荷が配分されていた。
ところで、出入港時及び航海中には、主機関連ポンプ、甲板機械等の電力需要が多く、主発2台の並列運転による給電を常としていたが、負荷の重要度を考慮して電力を節減すれば主発1台による給電も可能であり、緊急の際には主機を各舷1基ずつの運転として主機関連のポンプ動力を節減し、甲板機械への給電を賄うことができた。
A受審人は、一等機関士としてさんふらわあ2に約3年間乗船し、平成8年10月に機関長に昇格後は社船の機関長として乗船し、同9年に入ってから休暇で一時下船するさんふらわあ2の機関長と交替して6日間の乗船を勤めたのち、6月12日に2回目の交替動務で乗船した。
こうして、さんふらわあ2は、A受審人ほか38人が乗り組み、平成9年6月12日至8時40分大阪港を発し、神戸港に寄港したのち、旅客258人及び車両123台を塔載し、船首5.7メートル船尾6.9メートルの喫水をもって、大分県別府港に向かい、翌13日早朝来島海峡を通過後、主機をいずれも回転数毎分360(以下回転数は、毎分のものとする。)にかけ、プロペラを翼角26度として速力18.0ノットで航行し、主発2台が各々約340キロワット、軸発が約200キロワットで運転していたところ、06時50分ごろ国東半島臼石鼻東方沖合で、自動負荷分担装置の1号主発の基板が分担増加の信号を出し始めて1号主発が負荷を増し取り、それに呼応して2号主発側も負荷配分を取り戻すよう増速信号を出し続け、母線の周波数が異状に上昇した。
当直機関士は、機関制御室の配電盤内でガバナモータ用リレーが頻繁に「入」と「切」を繰り返していることに気付き、異状に高くなった周波数を見て自動負荷分担装置をいったん手動に切り替え、両主発のガバナスイッチを減速操作して局波数を下方修正し、同装置の作動を再確認しようと自動に戻したところ、再び両機とも速度が上昇し始めたので、バックアップに備えてガス発の始動スイッチを押し、その回転数上昇を確認しながら待ったが、同装置が自動のままで両主発は増速を続け、06時57分1号主発が、ほどなく2号主発がともに過回転防止装置が作動して非常停止し、全母線がブラックアウトして主機が停止した。
A受審人は、食堂でブラックアウトに気付き、直ちに機関制御室に赴いて当直機関士に異状の経過を聞いたのち、07時00分ごろ運転回転数に達していたガス発の気中遮断器を投入させ、給電を開始したが、ガス発は、負荷の急増に応答して燃料供給量を増加するうち燃料調節弁の作動不良で過速度となり、まもなく保護装置が作動して非常停止した。
A受審人は、非常発電機が給電する第三母線を除いて、船内が再びブラックアウト状態になったなかで、ガス発担当機関士にガス発の点検を指示し、他の機関士や機関部員に両主発の再始動を急がせたが、両主発ともガバナ調整軸が最大位置を超えたまま正常動作範囲に戻らず、正常に運転できないとの報告を受けた。
A受審人は、主発の再始動が手間取るうち、ようやく07時10分ごろ機関部員が1号主発を手で燃料の量を抑制しながら運転し、同機の気中遮断器が投入されてひとまず各母線への給電が開始されたので、同時25分ごろ船橋に上がっていずれの発電機も確実に運転できる状態ではないことを船長に報告した。船長は、同人の報告を受けて会社に連絡して引船の応援を依頼し、更に海上保安部にその事態を通報した。
2号主発は、その間、ガバナ調整軸が操作可能な状態に下げ戻され、正常に運転できるようになっていたので、07時30分ごろ1号主発に替わって気中遮断器が投入されたが、過負荷予防のための選択遮断回路が誤作動し、通風機等の配線用遮断器が自動的に引き外された。
A受審人は、設定値より少ない電流で作動した選択遮断回路を点検して再び誤作動しないよう対策を行い、前示の配線用遮断器を再投入して電力計で430キロワットほどであることを認め、自航するために主発1台で主機関連ポンプ類の運転がどのように行えるか十分に検討しないまま、ガス発の過速度の原因が不明であったもののリセットできたので再始動させ、08時10分ガス発を主母線に並列投入させた。
その後、さんふらわあ2は、主機関連のポンプを全て運転のうえ主機4台を始動し、08時23分両舷主軸を前進にかけて別府港に向けて航行を再開し、同時40分ごろ引船と巡視艇が本船付近に到着して警戒しながら伴走していたところ、ガス発が再び燃料調節弁の不調で非常停止し、2号主発の単独給電となった。
A受審人は、主発1台では電流値が定格容量に近いので主機関連ポンプの運転を続けるのは無理だと思い、自力航行をするための電力節減の措置をとることなく、08時42分臼石鼻灯台から真方位173度3.8海里の地点で、主機4台と関連ポンプを全て停止させた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく海上は穏やかであった。
さんふらわあ2は、来援していた引船2隻に曳航され、10時40分別府港防波堤に至り、着岸後、1号主発原動機のガバナ調整軸が下げ戻され、のちに自動負荷分担装置及び選択遮断装置の制御回路基板が取り替えられ、ガス発の燃料調節弁が修理された。

(原因)
本件運航阻害は、伊予灘西部を航行中、並列運転していた2台の主発電機が過回転となって非常停止した後、1台のガバナ調整軸の異状とバックアップしたガスタービン発電機の不調で主発電機1台での給電を余儀なくされた際、自力航行するための電力節減の措置が不十分で、主機関連ポンプと主機の運転可能な台数が確かめられないまま主機が全て停止されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、並列運転していた2台の主発電機が、過回転となって非常停止した後、1台のガバナ調整軸の異状とバックアップしたガスタービン発電機の不調のために主発電機1台での給電を余儀なくされた場合、主機運転による自力航行ができるよう、負荷の重要度を考慮して電力節減の措置をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、主発電機1台では電流値が定格容量に近いので主機関連ポンプの運転を続けるのは無理だと思い、電力節減の措置をとらなかった職務上の過失により、主機関連ポンプと主機の運転可能な台数を確かめないまま主機を全て停止して運航阻害を招き、来援した引船に曳航されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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