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1999年(平成11年)

平成9年神審第54号
    件名
交通船六甲丸運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成11年5月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、米原健一、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:六甲丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
燃料油系統の水抜きフィルタの点検不十分

    主文
本件運航阻害は、燃料油系統の水抜きフィルタの点検が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月23日09時30分
淡路島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 交通船六甲丸
全長 11.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 139キロワット
3 事実の経過
六甲丸は、昭和59年10月に建造された船尾船橋型のFRP製交通船で、平成3年4月に主機を換装し、新たにいすゞ自動車株式会社が製造したUM6BDITC型逆転減速機付きのディーゼル機関を装備していた。
主機の燃料油系統は、機関室両舷の船底近くにそれぞれ設けられた容量約300リットルの船体付き燃料油タンクの各取出し弁から、ゴムホースで配管され三又金具で合流のうえ、水分除去を兼ねた一次こし器を出て、主機付きの水抜きフィルタ、燃料供給ポンプ、二次こし器を経て集合型の燃料噴射ポンプに送られるようになっていた。また、これらの燃料油タンクは、長さ2.30メートル幅0.57メートル側面高0.45メートルの同形で、空気抜き管が機関室内に開口し、取出し弁はタンク底部から3センチメートルの高さに位置していたが、ドレン弁は設けられていなかった。
一方、水抜きフィルタは、主機の右舷前部に装着されており、内部の赤色のフロートが見えるよう透明ケースになっており、フロートが燃料油から分離した水分量を示す仕組みで、水分か燃料噴射ポンプに吸い込まれることのないよう、フロートがケース外周に赤色で刻まれた水抜きレベル線まで浮き上がった場合には、必ず水抜きを行うことと主機取扱説明書に記載されていた。
六甲丸は、主機換装後、半年余り稼働したのち、前船主の事情で神戸港第2区の通称生田川尻岸壁の定係地に係船していたところ、A受審人が趣味としての魚釣りの目的で購入することとなり、本船を管理していたR株式会社(以下「R社」という。)によって、船体の塗装及びプロペラの新替えが引渡し前に施行されたが、機関関係については、運転時間が少なかったことから、現状のままで整備は行われなかった。
A受審人は、同9年4月10日本船の引渡しに当たり、R社から操舵室内の計器類、機関の操作方法などの説明を受けたのち、定係地を離れて10分間ばかりの試運転に立ち会い、その後、仲間2人とともに、神戸港内で1時間程度主機を回転数毎分2,000まで上げて、習熟運転を行って発航地に帰着した。
ところで、本船は、両舷の燃料油タンクにそれぞれ約半量の軽油が入ったままの状態で約5年間係船されていたため、その間に同タンク内の空気中の水分が結露してタンク底部にドレンとして滞留する状態となっており、試運転及び習熟運転の間に、燃料油中に混入していた水分が水抜きフィルタで分離され、同フィルタ内のフロートが水抜きレベル線近くまで浮き上がる状況となっていた。
A受審人は、同月23日に友人と淡路島沖での魚釣りを計画し、本船購入後2回目の航海に出ることとなり、前日に取引先の給油所に依頼して残油に追加して軽油を補給し、両舷燃料油タンクを満タンとしておいた。ところが、同人は、23日06時30分ごろに本船に到着したあと、主機の始動に当たり、前回の試運転及び習熟運転が良好だったので大丈夫と思い、燃料油系統の水抜きフィルタを点検しなかったので、同フィルタに多量の水分が滞留していることに気付かないまま、同時35分主機を始動した。
六甲丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、友人3家族を含む9人の同乗者を乗せ、淡路島仮屋漁港沖合において魚釣りをする目的で、同日07時05分定係地を発し、神戸港第1航路を出て、和田岬から主機を回転数毎分2,200の全速力にかけて航行中、水抜きフィルタ内の水分が水抜きレベル線を越えて増え続けるようになったものの、燃料噴射ポンプに吸い込まれるまでに至らず、08時30分同島津田ノ鼻沖に投錨して魚釣りを始めた。
その後、A受審人は、同所での釣果が思わしくなく、北寄りの風が強くなってきたこともあって、神戸市の須磨海釣り公園付近に移動することとしたが、依然として水抜きフィルタの状況に気付かないまま主機を始動した。
こうして、本船は、09時25分前示投錨地点を発進し、主機を回転数毎分2,000に上げて、釣り場を移動中、水抜きフィルタ内の水分が満杯となって燃料噴射ポンプに吸い込まれ、09時30分仮屋港南防波堤灯台から真方位167度350メートルばかりの地点において主機が自停した。
当時、天候は晴で風力4の北北西風が吹き、海上には白波が立っていた。
A受審人は、燃料油タンクを一杯にしておいたのに、なぜ主機が停止したか分からず、数回再始動を試みたものの果たせず、本船が風下に流される状況になったことから、10時ごろ携帯電話で警察に電話し、海上保安部に救助を依頼してくれるよう頼んだ。
自力航行が不能となった本船は、連絡の取れた神戸海上保安部に漂流地点を通報し、同保安部の指示で10時20分に錨泊したのち、付近を通りかかった漁船に曳航され、11時00淡路島釜口漁港に引き付けられた。
A受審人は、主機メーカーを介して地元の業者に修理を依頼し、同漁港で燃料油配管系統の排水措置を行うとともに、同業者から水抜きフィルタの取扱いや燃料系統の空気抜き方法を教えてもらい、主機が始動できるようになったので、神戸港の定係地に自力で帰着した。

(原因)
本件運航阻害は、主機を始動するに当たり、燃料油系統の水抜きフィルタの点検が不十分で、燃料油タンク中の結露した水分で同油配管系統の同フィルタが満杯となり、水分が燃料噴射ポンプに吸い込まれたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を始動する場合、燃料油中に混入した水分が水抜きフィルタを越えて燃料噴射ポンプヘ送られ、運転中主機が停止することのないよう、主機取扱説明書を参考にし、水抜きフィルタを点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、購入時の試運転及ひ習熟運転が良好であったので大丈夫と思い、水抜きフィルタを点検しなかった職務上の過失により、同フィルタ内の水量が増えていることに気付かないまま運転を続け、満杯となった水分が燃料噴射ポンプに吸い込まれて主機の自停を招き、自力航行が不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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