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1999年(平成11年)

平成10年長審第69号
    件名
旅客船ワーペンファンホールン運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成11年4月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、保田稔、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:ワーペンファンホールン機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
発航前の機関室内機器点検不十分

    主文
本件運航阻害は、発航前の機関室内機器点検が不十分で、燃料油重カタンクの取出弁が閉鎖されたままであったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月26日09時23分
長崎県大村湾北部
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ワーペンファンホールン
総トン数 184トン
全長 34.00メートル
登録長 30.50メートル
幅 6.80メートル
深さ 2.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 632キロワット
回転数毎分 1,800
3 事実の経過
ワーペンファンホールン(以下「ワ号」という。)は、昭和61年3月に竣工し、航行区域を平水区域と定めた2基2軸の一層甲板中央船橋型鋼製旅客船で、船体中央部に機関室を配置し、上甲板上の右舷側中央からやや後方に同室出入口を設け、同室の後部両舷側に主機及び定格容量80キロボルトアンペアの船内電源用発電機を直結駆動するディーゼル機関(以下「補機」という。)をそれぞれ1基ずつ備えたほか、船体の左右両舷側中央に主機の前部動力取出軸から油圧装置、エアクラッチ等を介して駆動される直径4.30メートル幅1.00メートル翼数8の外輪車を推進器として備え、長崎県大村湾内の遊覧航海及び同県西彼杵郡西彼町にある長崎オランダ村(以下「オランダ村」という。)施設海域内の旅客輸送に従事していたところ、平成5年9月ごろから、R株式会社が所有する他の旅客船の代船やチューリップ祭り、花火大会等開催時の臨時便として使用されるようになった。
また、主機と補機の燃料油は、いずれも軽油であって、機関室前部右舷側隅に容量約10キロリットルの燃料油タンクを、機関室出入口の右方機関室右舷側壁沿いに容量880リットルの燃料油重力タンクを、同タンクの下方に容量100リットルの燃料油沈澱槽をそれぞれ備え、同沈澱槽の上部側面にいずれも直径約3センチメートルの鋼管2本を接続し、燃料油重カタンクから同タンクの取出弁を経て燃料油沈澱槽に入った軽油が、これらの鋼管により、主機と補機に分かれて供給されるようになっていた。
ところで、A受審人は、通常、オランダ村施設海域内の旅客輸送に従事する総トン数95トンのテッセル(以下「テ号」という。)と称する旅客船の一等機関士であるが、平成5年2月から翌6年6月ごろまでワ号に一等機関士として乗り組んだことがあり、その後も時折ワ号に臨時に乗り組んでいたので、ワ号の機関室内の機器配置などは熟知しており、また、同船では、停泊してすべての機器を停止したならば、燃料油重力タンクの取出弁をいつしか閉鎖するようになったことを人づてに聞いて知っていた。
越えて平成10年6月25日テ号は、A受審人ほか2人が乗り組み、オランダ村にあって南北に約400メートル離れたホールン及びウィレムスタッドと称する二つの桟橋の間の旅客輸送を繰り返していたところ、操舵機用油圧ポンプが不調になったので運航を取り止め、16時ごろ両桟橋のほぼ中間に位置するキンダー桟橋に着桟し、長崎県佐世保市にあるハウステンボス内で係船中のワ号を代船としてオランダ村に呼んだ。
19時30分ごろA受審人は、ウィレムスタッド桟橋に着いたワ号を迎え、同船の機関長から、同船に搭載してあった操舵機用油圧ポンプ一式を受け取るとともに、右舷船尾管の海水漏れが著しいので同管のグランドパッキンをきつく締め付けてあること、外輪車のエアクラッチ作動用空気圧縮機の潤滑油の汚損が著しいことなどの引継ぎを受け、ワ号の乗組員全員がすべての機器を停止して下船したのち、同船を自船の代船として運航することになったが、21時ごろ同ポンプの取替えを完了したので、ワ号を代船とする必要がなくなった。
翌26日A受審人は、テ号をキンダー桟橋からホールン桟橋に移動させるとともに、ワ号の臨時機関長となって同船をキンダー桟橋に移動させることになり、07時50分ごろ久しぶりに同船の機関室に入り、独りで発航準備にあたったが、同室内のことは熟知しているから大丈夫と思い、指差確認などによる機関室内機器の点検を十分に行うことなく、燃料油重力タンクの取出弁が閉鎖されていることを失念したまま、08時05分ごろ右舷補機及び両弦主機を始動して各機の無負荷暖機運転を始め、同時20分ごろ右舷補機を負荷運転とし、外輪車のエアクラッチ作動用空気圧縮機の潤滑油の状態を確かめ、右舷船尾管のグランドパッキンの締め付けを緩めたのち、同時30分ごろいったんワ号を離れてテ号に移乗し、09時00分ごろ同船をキンダー桟橋からホールン桟橋へ移動させ、ワ号に戻った。
こうしてワ号は、A受審人ほか2人が乗り組み、船首1.00メートル船1.80メートルの喫水をもって、09時20分両舷側の外輪車を使用してウィレムスタッド桟橋を離れ、機関室を無人としてA受審人が船尾甲板上で着桟準備中、燃料油沈澱槽の油面低下により、主機への給油が途絶え、09時23分西彼町の春木山147メートル頂から真方位352度850メートルばかりの地点において、両舷主機が相次いで停止し、航行不能となった。
当時、天候は雨で風力3の南風が吹き、海上はやや波があり、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、異変に気付いて直ちに機関室に赴いたところ、右舷補機は運転中なるも両舷主機が停止しているのを知り、各部調査の結果、燃料油重力タンクの取出弁の閉鎖に気付いて同弁を開け、主機撚料油系統のエア抜きを実施中、船長から主機を停止したままで待機するようにと指示され、これに従った。
一方、航行不能となったワ号は、09時24分に右舷錨を投下したものの、折からの南風に圧流されて陸岸に近付き、同時25分キンダー桟橋北方至近の浅礁に後部が乗り揚げ、満潮時を待って引船により離礁したのち、12時35分同桟橋に着き、損傷箇所調査の結果、船尾船底の塗料が剥離したのみであることが判明し、後日補修された。

(原因)
本件運航阻害は、オランダ村施設海域での移動にあたり、発航前の機関室内機器点検が不十分で、燃料油重力タンクの取出弁が閉鎖されたまま発航し、移動中に主機への燃料油供給が途絶えたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、ワ号の臨時機関長となって発航準備にあたる場合、同船に乗り組むのは久しぶりで、かつ、独りで主機や補機などを運転しなければならなかったのであるから、弁の開け忘れなどの遺漏がないよう、指差確認などによる機関室内機器の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関室内のことは熟知しているから大丈夫と思い、機関室内機器の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、燃料油重力タンクの取出弁が閉鎖されていることを失念したまま発航する事態を招き、航行中、主機停止による航行不能を生ずるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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