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1999年(平成11年)

平成10年函審第63号
    件名
プレジャーボートトワエモア運航阻害事件

    事件区分
運航阻害事件
    言渡年月日
平成11年4月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:トワエモア船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
燃料油の性伏についての留意不十分

    主文
本件運航阻害は、予備タンク内の燃料油の性状に対する留意が、不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月14日07時50分
北海道野寒布(のしゃっぷ)南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートトワエモア
総トン数 17トン
全長 15.77メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関2基
出力 514キロワット
回転数 毎分2,520
3 事実の経過
トワエモアは、平成6年12月に進水し、航行区域を沿海区域とする2基2軸のクルーザー型FRP製プレジャーボートで、主機としてアメリカ合衆国カミンズ社が製造した6CTA8.3M2型と呼称するディーゼル機関を装備し、キャビンの前部及びキャビン上部のフライングブリッジに設けられた操縦場所から主機の遠隔操作ができるようになっていた。
機関室は、キャビン下方に設けられ、中央通路を挟んで両側に主機が並び、船尾側にディーゼル原動機駆動の主発電機が備えられ、また、燃料油タンクとして、両舷側に容量800リットルの油面計付主燃料油タンク(以下「主タンク」という。)がそれぞれ設置されているほか、機関室船首側に容量600リットルのステンレス鋼製予備燃料油タンク(以下「予備タンク」という。)が設置されていた。
主機の燃料油は、軽油で、各主タンクの取出し管を通り、それぞれ切替えコックを経て機関室前部隔壁の左舷寄りに取り付けられたヘッダーの上側に導力れ、次いで同ヘッダーの下側から各主機に至る燃料管が、それぞれ切替えコック、燃料フィルターを順に経て各主機に導かれる一方、予備タンク内の燃料油は、同タンクの下部から取出し管を立ち上がり、切替えコックを経て同ヘッダーに導かれていた。なお、各主タンクの下部は、機関室船尾側に配管されたゴムホースで接続され、同ホースの中間に設けられた止め弁は常時開弁されていた。
A受審人は、石油販売店の経営者で、トワエモアを平成7年2月に輸入艇として購入後、主機燃料油の主タンク及び予備タンクを満タンとして同年4月に京浜港から北海道留萌港へ自ら回航し、同港第2区貯木場の岸壁に定係して友人や家族とのクルージングなどに使用しており、同810月、トワエモアの所有者の名義を友人のBに変更したが、実質上の所有者であった。
ところで、予備タンク内の燃料油は、前記回航中もその後も使用する機会がないまま、また、新油と入れ替えることもなかったので、空気抜き管から侵入した空気中のかびなどの微生物が、いつしか燃料油と沈降した水分との境界面において増殖し、黒色のヘドロ状のスラッジとなってタンク底部に滞留するようになっていた。
A受審人は、同10年5月中旬、右回りで北海道一周のクルージングを行うこととしてその準備に当たったが、長い航海の間には予備タンクの燃料油を使用することも考えられたうえに、3年間貯蔵していた同タンクの燃料油にスラッジを生じているおそれがあった。ところが、同人は、ステンレス鋼製タンクなので燃料油の性状が変化していることはあるまいと思い、同タンクの燃料油の入替えを行わないまま両舷の主タンクを満タンとして燃料油の積込みを終了した。
こうして、トワエモアは、A受審人ほか1人が乗り組み、同人の妻を同乗させ、船首0.8メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、5月13日14時00分留萌港を発し、北上して同日夕刻北海道羽幌港に寄せて停泊し、翌14日05時00分羽幌港を発して稚内港に向かった。
A受審人は、両舷の主機を回転数毎分1,950にかけ、18.0ノットの全速力で航行中、やや荒天模様であったこともあって予定より燃料消費量が多いので主タンクの残量が気になり、念のため同タンクのほかに予備タンクも使用することとして同タンクの取出しコックを開弁したところ間もなく、同タンクに滞留していたヘドロ状のスラッジを吸引して燃料フィルターが目詰まりし、燃料油が供給されなくなって07時50分稚内灯台から真方位234度7.0海里の地点において、右舷機が、続いて左舷機か停止して航行不能となった。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、海上には約1.5メートルのうねりがあった。
A受審人は、うねりで船体の動揺が大きいので携帯電話にて稚内海上保安部に救助を求め、機関室に下りて点検したところ、燃料フィルター容器の透明なドレンセパレータ部分が真っ黒になっており、予備タンクの燃料油を吸引したためと判断し、同タンク取出し管の切替えコックを閉弁として主機の始動を試みたが、両舷機とも着火しかかってすぐに停止するので取り止め、同フィルターを開放してエレメントの掃除に取りかかろうとしていたところ、09時00分同保安部の巡視艇えぞぎくが来援した。
トワエモアは、えぞぎくに曳(えい)航されて10時30分稚内港に入港し、修理業者が燃料フィルターを掃除して主機燃料系統のプライミングなどを行ったところ正常状態に復帰し、その後クルージングを継続して留萌港に帰港し、のちA受審人が予備タンクのマンホールを外して点検し、タンク底にヘドロ状のスラッジを認めてタンク内を掃除した。

(原因)
本件運航阻害は、北海道一周のクルージングを行うに当たり、予備タンク内の燃料油の性状についての留意が不十分で、長期借貯蔵していた同油の入替えが行われず、航行中に同タンク取出し管の切替えコックを開弁したところ、同タンク底部に滞留していたスラッジを吸引して燃料フィルターが目詰まりし、主機へ燃料油が供給されなくなったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道一周のクルージングを行う場合、航海の途中で予備タンクを使用することが考えられたうえに、長期間貯蔵していた同タンクの燃料油にスラッジを生じている可能性に留意し、新油と入れ替えるべき注意義務があった。しかるに、同人は、ステンレス鋼製タンクなので燃料油の性状が変化していることはあるまいと思い、新油と入れ替えなかった職務上の過失により、航行中に予備タンクの燃料油を使用したところ、同タンク底部に滞留していたスラッジを吸い込み、燃料フィノレターが目詰まりして主機が停止する事態を招き、航行不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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