日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年横審第62号
    件名
漁業調査船照洋丸の引船しょうりゅう引索纏絡事件

    事件区分
引索纏絡事件
    言渡年月日
平成11年8月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、勝又三郎、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:照洋丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:しょうりゅう船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
照洋丸…プロペラ軸の軸封装置に損傷、ロープガードに凹損
しょうりゅう…引索を切断

    原因
照洋丸…操船・操機不適切(引索の状況確認)(主因)
しょうりゅう…操船支援不十分(一因)

    主文
本件引索纏絡は、照洋丸が、引索の状況の確認が不十分で、引索が船尾水面下に入り込んでいる状況で、機関を前進にかけたことによって発生したが、しょうりゅうが、照洋丸に対しての操船支援が十分でなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月25日14時03分
京浜港東京第3区
2 船舶の要目
船種船名 漁業調査照洋丸 引船しょうりゅう
総トン数 1,362.86トン 181トン
全長 72.00メートル 33.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット 2,206キロワット
3 事実の経過
照洋丸は、可変ピッチプロペラ及びバウスラスタを装備し、専ら漁業に関する調査・取締りに従事する鋼製漁船で、A受審人ほか36人が乗り組み、東部太平洋における水産資源調査の目的で、船首4.05メートル船尾5.85メートルの喫水をもって、平成9年4月25日13時58分京浜港東京第3区水産庁有明専用桟橋(以下「水産庁桟橋」という。)を発し、最初の寄港地アメリカ合衆国ホノルル港に向かった。
ところで、水産庁桟橋は、13号地その1の南西端にある航海訓練所有明専用桟橋の東側に隣接し、両桟橋の方位線は057度(真方位、以下同じ。)で、水産庁橋の南東側対岸である13号地その2まで約100メートルの広さがあるものの、13号地その2の西端付近から南西方に両桟橋に沿って5メートル等深線が広がり、両浅橋の前面可航水域を示すため、13号地その2側岸壁の延長線上に約140メートルの間隔で赤色浮標2個及び13号地信号所から203度500メートルのところで西側の前示赤色浮標から約190メートル離れたところに赤色灯浮標(以下「赤色灯浮標」という。)がそれぞれ私設で設けられ、両桟橋と2個の赤色浮標間の可航幅は約90メートルで、南西側が東京西航路北端の北側航路筋に接続する出入口となっていた。また、水産庁桟橋の南西方延長線上500メートル沖合に東京西第16号浮標(以下「第16号浮標」という。)が設置されており、同桟橋に離着桟する場合の要領は、入り船左舷着けで着桟し、出航時は船尾に引船の引索を取って離桟し、同船の支援を受けて第16号灯浮標付近まで後退して右回頭し、東京西航路に向かっていた。
A受審人は、発航に先立ち、船首を057度に向けて桟橋に左舷係留中の照洋丸において出航準備にあたり、同日13時42分右舷船尾に操船支援を要請したしょうりゅうの引索を取り、同時45分出航部署を令し、船首配置に次席一等航海士、船尾配置に二等航海士をそれぞれ就け、船橋では三等機関士を機関及びバウスラスタの遠隔操作、首席三等航海士を各配置の連絡にあたらせ、同時50分自らしょうりゅうと連絡を取り、離岸後後方に引け、第16号灯浮標付近で同灯浮標を右舷側に見るよう回頭して出航する旨を伝え、その後の同船との連絡は首席三等航海士を経由して取り、同時56分機関のクラッチを入れ、可変ピッチプロペラの回転数を毎分228回転としていた。
13時58分A受審人は、全係留索を放ち、バウスラスタとしょうりゅうを用いて離岸するとともに翼角を極微速力後進とし、後進行き脚がついたところで翼角0度に戻し、同時59分少し前第16号灯浮標から057度490メートルの地点で、桟橋に平行となる237度方向に後進するよう、しょうりゅうに同灯浮標に向けて極微速力で後方に引かせ、加速しながら平均3.5ノットの速力で後進した。
A受審人は、バウスラスタを適宜使用して船首の振れを制御しながら後進し、14時02分少し前第16号灯浮標から057度160メートルの地点で、赤色灯浮標を右舷正横に見たとき、しょうりゅうが左舷側後方に見えたので自船の右回頭を妨げないように移動したものと考え、バウスラスタを使用して右回頭を開始した。
A受審人は、14時02分少し過ぎ第16号灯浮標から042度110メートルの地点で、しょうりゅうが左舷船尾45度方向に位置していることを認めたが、そのとき同船は引索が強く張ることにより同索を緩めざるを得なくなり、その後同船が引索を緩めて同索が船尾カウンターの下に入り込み、翼角をつけて推力が出ると同索がプロペラに纏絡(てんらく)するおそれがある状況となったものの、可航水域が制限されていることから、桟橋や第16号灯浮標との相対位置関係の確認などに気を奪われ、船尾配置の二等航海士に引索の状況を報告するよう指示するなど、同索の状況を確認することなく、同索が船尾カウンターの下に入り込んでいることに気付かないまま右回頭中、同時03分少し前引索を放つよう指示し、翼角を前進3度に、続いて同5度と右舵15度を令したところ、14時03分第16号灯浮標から000度100メートルの地点において、照洋丸が102度を向首し、後進行き脚が3.0ノットに下がったとき、引索が照洋丸のプロペラ軸に纏絡した。
当時、天候は晴で風力4の南風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、しょうりゅうは、操船支援に従事する鋼製引船で、B受審人ほか5人が乗り組み、照洋丸の要請を受け、船首2.30メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同日13時20分京浜港東京第2区芝浦の基地を発し、水産庁桟橋に係留中の照洋丸に向かった。
B受審人は、13時42分照洋丸に連絡用のトランシーバーを手渡すとともに、船首から13メートル伸ばした直径85ミリメートルで水に浮く合成化学繊維製の引索を渡して同船の右舷船尾に取って自ら操船にあたり、船橋で機関員の1人を引索の巻出し巻込みの操作及びトランシーバーによる照洋丸との連絡にあたらせ、同時50分A受審人から照洋丸の出航操船計画の連絡を受けるなど打合せを行って操船支援作業の準備を整えた。
13時58分B受審人は、照洋丸の指示で同船を桟橋から引き離すために真横に引くことから操船支援作業を開始し、同時59分少し前同船を船尾に引くよう方向を変え、機関を極微速力後進にかけ、同船を第16号灯浮標に向けて徐々に加速しながら後進で引き、14時01分少し前同船が航海訓練所有明専用桟橋の南西端を替わし、同灯浮標から057度280メートルの地点に達したとき、後進速力が自身の予想より速い4.0ノットとなったので、引索に力を加えないよう減速しながら、自船の操船に余裕を持たせるために引索を6メートル伸ばし、以後照洋丸が後進惰力のみにより徐々に後進速力を減衰させながら後退するのに従い、同時02分少し前自船が同灯浮標に100メートルまでに接近したので、照洋丸を避けるため同船の左舷後方に移動して様子を見守った。
14時02分少し過ぎB受審人は、右回頭しながら後進を続ける照洋丸の左舷船尾45度方向に位置したとき、予想より速い同船の後進で引索に強い衝撃を受けたので、引索を更に約10メートル伸ばしたところ、引索が後退する同船の船尾カウンターの下に入り込み、同船が翼角をつけて推力が出ると同索がプロペラに纏絡するおそれがある状況であったが、予想より速く後進する同船との接触を避けるため自船の姿勢制御の操船に集中し、引索が照洋丸の船尾カウンターの下に入り込み、機関が使用できない状況であることをA受審人に報告するなど、十分な操船支援を行わず、しょうりゅうが照洋丸の船尾部から左舷前方45度方向に位置し、ほぼ停止して237度に向首した状態で前示のとおり引索が纏絡した。
この結果、照洋丸はプロペラ軸の軸封装置に損傷、ロープガードに凹損をそれぞれ生じ、のち修理され、しょうりゅうは損傷はなかったが、引索を切断した。

(原因)
本件引索纏絡は、京浜港東京第3区の13号地その1の南西側水域において、照洋丸が、出航操船のためにしょうりゅうの引索を右舷船尾に取り、翼角0度のまま惰力で後進しながら右回頭中、引索の状況の確認が不十分で、引索が船尾水面下に入り込んでいる状況で、機関を前進にかけたことによって発生したが、しょうりゅうが、照洋丸に対しての操船支援が十分でなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、京浜港東京第3区の13号地その1の南西側水域において、出航操船のためにしょうりゅうの引索を右舷船尾に取り、翼角0度のまま惰力で後進しながら右回頭中、しょうりゅうが引索を取ったままの状態で、左舷船尾45度方向に位置していることを認めた場合、引索が船尾水面下に入り込み、機関を使用することによって同索が纏絡するおそれがあったから、船尾配置の二等航海士に引索の状況を報告するよう指示するなど、引索の状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、可航水域が制限されていることから、桟橋や第16号灯浮標との相対位置関係の確認などに気を奪われ、引索の状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、同索が船尾水面下に入り込んでいる状況に気付かないまま、機関を前進にかけたことによって引索纏絡を招き、照洋丸のプロペラ軸の軸封装置に損傷、ロープガードに凹損をそれぞれ生じさせ、引索を切断させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、京浜港東京第3区の13号地その1の南西側水域において、照洋丸の右舷船尾に引索を取って同船の出航操船支援に従事中、引索が同船の船尾カウンターの下に入り込んだ場合、同船が機関を使用すると引索がプロペラに纏絡するおそれがあったから、纏絡することがないよう、照洋丸に引索が同船の船尾カウンターの下に入り込み、機関が使用できない状況であることを報告するなど、十分な操船支援を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、予想より速く後進する照洋丸との接触を避けるため自船の姿勢制御の操船に集中し、十分な操船支援を行わなかった職務上の過失により、引索纏絡を招き、照洋丸に前示の損傷を生じさせ、引索を切断させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION