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1999年(平成11年)

平成10年横審第104号
    件名
プレジャーボート磯丸安全阻害事件〔簡易〕

    事件区分
安全阻害事件
    言渡年月日
平成11年6月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎
    理事官
小金沢重充

    受審人
A 職名:磯丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
なし

    原因
気象、海象に対する調査不十分

    主文
本件安全阻害は、気象、海象に対する調査が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月27日12時10分
静岡県伊東港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート磯丸
登録長 2.84メートル
幅 1.50メートル
深さ 0.45メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 3キロワット
3 事実の経過
磯丸は、船外機を取り付けたゴム製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、トローリングを行う目的で、船首0.05メートル船尾0.10メートルの喫水をもって、平成9年9月27日10時30分静岡県伊東港の船揚陽を発し、同港沖合の海域に向かった。
ところで、A受審人は、同年6月に磯丸を購入し、月に1ないし2回ほど伊東港周辺の海域において釣りを行っていたが、沖合に出てトローリングを行うのは初めてで、当時静岡県伊豆地方には強風、波浪注意報が発表されていたものの、船揚場から海上を見たところ穏やかであったことから、沖合に出て釣りをしても大丈夫と思い、網代測候所に電話で問い合わせるなど気象情報を収集しないで発航した。
A受審人は、発航後陸岸沿いに東進し、11時00分伊東港第1防波堤灯台から076度(真方位、以下同じ。)1.3海里の、手石島の北方に達したとき、トローリングを開始することとしてその準備に当たり、右舷側中央部付近から釣り竿を通して釣り糸を1本出し、船尾左舷側からもう1本の釣り糸を出し、針路を031度に定め、スロットルグリップを半分程度回した3.7ノットの対地速力で、初島の南端に向けて進行した。
A受審人は、トローリングを開始して1海里ばかり進んだとき、波浪が高くなり航行が困難な状況になってきたが、この程度の波浪なら大丈夫と思い、陸岸沿いの釣りに切り換えることなく、トローリングを続行し、11時50分ごろ2本の釣り糸が絡んだので、機関を中立とし停船させたうえこれらを揚収し、友人を船体中央部付近に座らせ、自らは船尾の位置で絡まった釣り糸を解く作業を始めたが、折からの南西の風と波浪により、船体が徐々に回頭し、波間に平行になり、波浪に乗るような状況で、横揺れが激しくなったが、そのまま作業を続けた。
磯丸は、A受審人が、釣り糸を解く作業中、12時10分初島灯台から204度1.0海里の地点において、315度を向いていたとき、高波を受けて横転し、同人が友人とともに海中に投げ出された。
当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、静岡果伊豆地方に強風、波浪注意報が発表され、付近海域には白波が立っていた。
A受審人は、横転した磯丸を起こしたとき、船底に掴(つか)まっていた友人が救命胴衣を着用して同船から離れ、同人を救助するため船外機を駆動させたが、駆動までにほぼ1時間かかっているうち、友人は南西方に漂流して行き、その後見失った。
A受審人は、友人の救助を依頼するため初島に向かい、同島のマリーナで救助を求め、海上に投げ出されて長時間漂流した友人が、翌28日03時ごろ海上保安部の巡視船により救助された。

(原因)
本件安全阻害は、静岡県伊東港沖合において、初めて沖合に出てトローリングを行う際、気象、海象に対する調査不十分で、自船では抗しきれない波浪に遭遇し、横転したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、静岡県伊東港沖合において、友人とともに初めて沖合に出てトローリングを行う場合、気象、海象を十分に調査して沖合でのトローリンクが可能かどうか判断すべき注意義務があった。しかるに、同人は船揚場から海上を見たところ穏やかであったことから、沖合に出てトローリングをしても大丈夫と思い、気象、海象を十分に調査しなかった職務上の過失により、沖合に出てトローリングを行い、自船では抗しきれない波浪に遭遇して自船を横転させ、友人が海上に投げ出されて15時間余り漂流するに至った。






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