この規則の構成は、船種毎の規則が分かり易い利点があるが、船種に依存しない一貫した火災安全の基本用件が見え難いという欠点がある。また、現第II-2章には、防火設備要件やその搭載要件が規定されているが、その要件の根拠となる火災安全の考え方が明確には示されていない場合が多い。
防火の技術の発展は急速に進み、現第II-2章には規定されていないタイプのスプリンクラシステムやウォーターミストによる消火装置、あるいは新タイプの高膨張泡消火装置、さらには最新のエレクトロニクス技術を集結した火災感知警報装置などの新しい防火装置が開発され、船舶に搭載されつつある。一方で、大きなアトリウムや劇場、売店式の飲食街などの新しい客船の設計が提案され、建造されている。これらの新技術や新設計については現第II-2章には規定がないため、その都度、火災安全性の評価を行ってSOLAS上は除外規定を用いて個別に安全証書を発行しているのが現状である。
そこで、新II-2章案は、このような新技術や新設計にも対応できるように、船舶の火災安全及び防火の基本要件を明かに示し、また、各規則が求める要件の骨子を規則毎に掲げ、さらに新技術及び新設計の防火機能の同等性評価方法を定めることとした。
一方、現II-2章には、スプリンクラ装置や二酸化炭素消火装置等の設備に関する技術基準が、規則として盛り込まれている。しかしFPは、これらの技術基準は、SOLASそのものの規則よりは、IMOの技術基準として示すべきであるという意見で合意し、新しくFire Safety Systems Code(FSSコード)としてこれらの基準をまとめることとなった。
2.2 防火の基本要素
火災安全の基本は、「出火しないこと」、「出火を早期に発見すること」、「出火した火災を広げないこと」、「安全な避難手段を確保すること」及び「火災による被害を最小限に食い止めること」である。これらを船舶に適用すると、以下のような具体的な基本要件が抽出できる。
(1)出火の防止 : 可燃物の制限、可燃貨物への着火の防止
(2)早期の火災発見 : 火災発生区画での火災の早期発見・通報
(3)火災拡大の阻止 : 防火仕切りによる区画分け、出火場所での消火、消火設備の整備
(4)安全な避難手段 : 安全な避難経路及び消火のためのアクセスの確保
(5)被害の抑制 : 火災危険区域と居住区域の分離
新II-2章案では、第2規則にこれらの防火の目標及び基本的な火災安全要件を示すこととした。その案を別添の「draft REGULATION 2」に示す。
2.3 新II-2章及びFSSコードの組み立て
2.2に示した基本的な火災安全要件にそって、新II-2章案を組み立てた。また、保守管理及び訓練などの人的要因に関する規定を整理した。さらに、新しい技術に基づいた新防火設備及び新しい船舶設計に対応するために、それらの設備及び設計の火災安全性能が、第II-2章が要求する火災安全性能要件を満たしているかを評価する方法の規定として、同等性能評価方法の規定を設けた。その他、特別な施設に対する火災安全要件をまとめた。なお、船種毎の要件が必要な場合には、規則の各要件のパラグラフ内で記述することとした。このようにして構築した新II-2章案の構成を表1に示す。