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4-3. 幼生生態研究のとりかかりとしてのクロロフィルaの測定

 

(1) 背景と目的

オニヒトデのように小卵多産型の水産無脊椎動物にとって、生活史の初期(プラングトン幼生世代)における減耗が太量発生の鍵となる。そのため、幼生の分布と密度の調査は、大量発生の予測、大量発生の原因の解明に重要な意味をもつ。しかしながら、オニヒトデのプランクトン幼生は、他のサンゴ礁棲ヒトデ幼生と酷似し、また固定すると変形するため同定が容易ではない(波部1989)。そこで、種に特有の抗体を用いた分布調査が今後の有望な手法として提唱されているがまだ実用段階には至っていない(Birkeland & Lucas 1990)。

 

一方、充分な植物プランクトンを採餌しないと、ビピンナリア幼生の段階より先には発生が進まないといわれている(Lucas 1982)。0kaji(1996)は、オニヒトデ幼生は2μm〜50μmの植物プランクトンを摂餌し、クロロフィルa濃度が0.5-0.8μg/Lになると幼生の餌制限がなくなり、オニヒトデの大発生の危険があると述べている。

 

沖縄本島では、オニヒトデの大量発生に地理的な偏りがある。西海岸の恩納村沿岸では、高密度のオニヒトデ個体群が観察されてきた。一方、ヤンバル東海岸では、高密度の個体群は観察されていない(Nishihira & Yamazato 1974, Sakai et al 1988)。

 

これらのことからオニヒトデの大発生を決定する要因のひとつとして、植物プランクトン濃度の違いが推定された。この仮説を検定する第一歩として、高密度のオニヒトデ個体群が観察されている恩納村沿岸と高密度のオニヒトデ個体群が観察されていないヤンバル東側とで海水を採水しクロロフィルa濃度の比較を試みた。

 

(2) 方法

恩納村沿岸(残波岬から名護まで)およびヤンバル東岸それぞれ6ヶ所の各地点から1-2ヵ月時間を置いて2回採水した(図1)。採水は、礁縁付近で水深約0.5mから行った。2回目の採水は、GPSを使い1回目の採水地点とほぼ同じところで採水した。採水後、蛍光法によりクロロフィルa濃度の測定を行った。

 

(3) 結果

表1に示す様に、両沿岸ともに0.05-0.22μg/Lであった。恩納村西海岸沿岸とヤンバル東側とでは、有意な差は見られなかった(Nested ANOVA, p>0.05)。

 

 

 

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