第1章 序
1-1. 本事業の意義と枠組み
サンゴ礁はイシサンゴをはじめとする多種の生物によって作られる暖海に特徴的な地形である。世界各地の熱帯亜熱帯域で多くの人がサンゴ礁沿岸に居住し、その環境の中でそれぞれ独自の文化を築いてきた。人々は、サンゴ礁から魚介類や海藻などの食料や建築材料などの生活必需品を得ている。また、沖縄のように頻繁に台風に見舞われるところでは、海岸線の保全にサンゴ礁は自然の堤防として重要なはたらきをしている。さらに、サンゴ礁沿岸に住む人やそこを訪れる人々に快適な景観や生活環境を提供する。そのため、年間400万人の観光客が訪れる沖縄では、サンゴ礁は重要な観光資源である。
その重要なサンゴ礁環境が、近年、護岸工事による破壊、埋め立て、陸上の急激で不注意な開発による土砂の流入、都市排水や農業廃水による富栄養化による人為的な要因で破壊されつつある。
1960年代からインド・太平洋のサンゴ礁でオニヒトデの大量発生が報告された。沖縄でも広範囲のサンゴ礁がオニヒトデにより食害された。オニヒトデはサンゴ礁およびそれを形作るサンゴにとって最大の脅威である。サンゴを食害する動物は数多いがオニヒトデほど大きな影響を及ぼす動物種は存在しない。大きなオニヒトデ個体群はサンゴ礁の種構成、食物連鎖系、さらには何平方キロメートルという規模で広域の地形的な性格をも変革してしまう(Birkeland & Lucas 1990)。
一時は影を潜めたかに思われたオニヒトデが、近年(1996年以降)、再び大量に発生しているとの報告が相次いだ(Reed 1998)。この調査は、沖縄にとってかけがえのない財産であるサンゴ礁をオニヒトデの食害から護るために、現時点の被害状況を調査し、オニヒトデの生態を踏まえて効果的な駆除方法を示すことを目的とした。この目的を達成することで、サンゴ礁の保全、サンゴ礁を利用する産業、ひいては県民生活の向上に資するものと考えられる。
沖縄観光コンベンションビューローは調査事業の一環として沖縄県の補助を受け、この調査を実施することとした。調査にあたっては、(財)亜熱帯総合研究所、(財)環境科学センターに委託した。
主な調査内容は、(1)沖縄島を中心としたサンゴ礁のオニヒトデによる被害状況および回復状況を把握すること、(2)オニヒトデの行動についての知見を得ること、(3)ケーススタディーとしての駆除を行い、これまで得られた情報に基づいてオニヒトデ駆除マニュアルを作成することとした。
1-2. 過去の文献
(1) 文献調査のねらい
オニヒトデの大量発生によるサンゴ礁の食害は、1960年代末から、沖縄だけでなくインド太平洋のサンゴ礁沿岸の社会にひろく衝撃をあたえた。