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1. 緒言

1.1 スコープ

船舶ばかりでなく原子力システム、航空機などをはじめとして多くの安全性評価がなされている。しかしながら安全性評価はきわめて困難で、多くの安全基準は重大な事故に関して分析評価し国際的国内的合意を得て、成立してきたことは否定できない。近年、国内海外の双方において、安全性基準の客観性、透明性、またそれらの根拠を説明するため、安全性の客観的評価が求められるようになってきた。

これらを背景として、わが国でも検討を開始すべく、本RR42研究は平成7年度から11年度までの5ヵ年をかけて実施された。確固たる研究手法も、また統計解析に不可欠のデータも不明のため、前期3年間で研究を取りまとめ研究手法等についての確認を行い、その後2年間でより詳細な検討を行うこととした。

当初の研究計画は、現状の事故データ、シミュレーション計算などを用いた確率論的評価手法Probabilistic Safety Assessmentであり、具体的な計算対象船舶を設定し、その安全性の度合いを数学的統計的に算出でき、また装備基準により安全性が変化することを、現在までの経験にてらして妥当に評価できるか検討した。具体的には、次章以降に詳述するようにデータ入力から、損傷規模推定、損傷船体の経時変化、仮想現実感システムを利用した避難シミュレーションまでの各モジュールとデータを組み合わせてMSES(Marine Safety Evaluation System)としてシステム実装し、国際航海客船に対して計算を実施した。

一方、本研究が開始されたころからIMOを中心としたFSA: Formal Safety Assessmentの議論が具体性をもってなされるようになり、タンカーや客船のヘリコプター離着陸施設などに対して各国で試適用されるようになり、具体的なFSA手法の検討に入っている。このような状況に対し、IMOでの議論に関して本委員会で、調査検討し、わが国の対処方針設定などのサポートを行うこととなった。FSAは安全性基準を中立公正客観的に設定する手順である。本研究で当初目指したPSAはあくまでデータやシミュレーションによる数学的な取り扱いで客観的な評価結果を得ようとするに対して、FSAは現実に直面して多くの専門家判断により基準設定の道筋を構築するものである。IMOには、本委員会委員がMarine Safety Committeeにわが国の試みとしてPSAについて紹介するなど、貢献をしてきた。さらに、平成9−11年度の3年間では従来RR73として行われてきた貨物室の火災の確率論的検討についても、手法的に類似であることから、本研究の中で行い、成果はIMO FP小委員会にも提出されている。

本委員会は、(1)PSA手法の具体的適用手法、必要なデータや計算手法などの検討、により今後の安全性評価手法のあり方を示した。(2)IMOのFSAの議論については調査検討をおこない基準策定の手法としてその意義を見出すことができた。また、(3)貨物室火災についても具体的な確率論的安全評価手法の検討を行った。本研究はこの分野のまとまった初めての試みであり、運輸省海上技術安全局安全評価室の設置や今後のRR49の構想にも幾分かの理論的根拠を与えることができたと考えている。

 

 

 

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