実際には、事件の具体的状況において、沿岸国がそうした船舶を領海から追い払いたいのであれば、有害通航を主張するであろう(実際に単なる通航であれば、沿岸国はいずれ領海の外に出る予定)し、またそれら船舶を捕まえて処罰する必要がある場合(外国人漁業禁止に違反した嫌疑がある場合)には、領海秩序を害する性質の沿岸国法令違反として刑事裁判権行使をすることができることとなろう。なお E. D. Brown, The International Law of the Sea, Vol. I, 1994, pp. 37-38.
(27) たとえば南太平洋ドリフトネット(長距離流し網)漁業禁止条約(Convention on the Prohibition of Driftnet Fishing in the South Pacific, 24 Nov.. 1989, Wellington, 29 ILM 1449(1990))は、長距離流し網漁に従事する船舶の寄港のみならず、締約国排他的経済水域の通航(crossing)を禁止し、また沿岸国が更に厳しい措置を執る権利を認めている。L. Davis, North Pacific Pelasic Driftnetting: Untangling the High Seas Controversy, 64 Southern California L. Rev.(1991), pp. 1081-82.汚染に関しては有害廃棄物越境移動に関する事前通報制度については注(11)、その他、ship routeing, SRS, VTS など SOLAS 条約にもとづく規制の進展など、参照。
(28) 27条が”shall not”ではなく”should not”とされたのは、麻薬・向精神薬不法取引の抑圧に関しては、沿岸国が領海内で無制限に刑事裁判権を行使できるとする米国の主張を取り込むために禁止を弱めたものである。山本草二、同前、林久茂『海洋法研究』(日本評論社、1995)、61頁、参照。もっともそうした起草経緯の中には、領海に関する刑事裁判権の適用に関する考え方の根本的な違いが内在しており、27条5項が明確な禁止(may not)となっているのは領海外の海域に沿岸国の刑法が適用内のに対して、27条1項の場合は、一般的に沿岸国刑法が領海通航中の外国船舶にも適用されるが、国際航行の利益のために、法的義務としてではなくむしろ礼譲として、刑事裁判権の適用の抑制が求められているに過ぎないと解釈することもできる(Brown, id., pp. 64-65, O'Connell, op. cit., p. 960, Churchill and Lowe, op. cit., pp. 81-82, Molenaar, op. cit., p. 244.)。