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国境を越える犯罪と刑法の適用

 

岡山大学教授 大塚裕史

 

1. はじめに

 

近時、経済のボーダレス化、国際交通の発達、インターネットなど情報手段の高度化に伴い、犯罪を構成する事実が国境を越えて発生する場合が多くなってきている。例えば、正犯行為と共犯行為が国の内外で行われたり、賭博ツアーや少女買春ツアーなどのように我が国では違法な行為を、それを違法としない外国で行うことを目的として国内で会員を募る行為が行われたり、コンピューターシステムの普及により外国のプロバイダーを利用してわいせつな画像などを我が国に向けて発信するなどの「国境を越える犯罪」が以前にも増して問題とされるようになった。このような場合、国内法の問題としては、それを国内犯として処罰し得るか、国外犯としてそれを処罰する特別な規定がない限り処罰し得ないかが重要な課題となる。

これまで刑法1条以下の「刑法の場所的適用範囲の問題」は一部の刑法学者の関心の対象とされただけで、広範に議論されたことはなかった。ところが、近時、この問題がにわかにクローズアップされるようになり、特に、犯罪地の決定の基準に関するいわゆる「遍在説」の妥当性について疑問が提起されるようになった。そこで、この問題について、新しい議論状況をふまえながら若干の検討を試み、今後の海上保安業務の検討課題を探求することにしたい。

 

2. 属地主義と犯罪地の決定

 

(1) 属地主義

犯罪が、ある国の領域内で行われ、犯人も被害者もその国の国民であるときは、もっぱらその国の刑法によって処罰すればよいので、国際法上の問題は特に生じない。

 

 

 

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