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フランスの行政法学では、そもそも法概念の定義といった抽象的な議論について、実益の少ない記述を展開するといったことを方法論的に嫌う傾向があるので、右の論文でも、海上警察の定義の問題が詳細に論じられているわけではなく、すぐに個別の海上警察作用の分析へと移行している。しかし、この部分からも、日本法との比較という観点から幾つかの論点を指摘することができるであろう。

第一に、フランスにおいては、行政警察と司法警察の理論的区別が維持されており、海上警察について行政警察の領域としてとらえていることが指摘できる。この議論の前提として、そもそも行政上の強制制度(実効性確保の制度)に関する法的構造が、日本とフランスでは類似しているという点が指摘される。すなわち、行政強制の基本構造を法理論上のモデル的にとらえた場合に、日本とフランスは、ともにアメリカ・モデルとドイツ・モデルのいわば中間にあるという共通点を持っているのである。右に言うアメリカ・モデルとは、行政主体が私人に対して実力を行使する場合に、裁判所による関与を原則とするものを意味している。また、右に言うドイツ・モデルとは、行政主体が私人に対して実力行使を行うための法的仕組みとして、行政庁が私人に対して法的義務を命じた上で、行政機関が直接義務の履行をする直接強制の仕組みを法律で定め、これに基づいて直接強制を行うというものを指している。これらと比較して、フランス行政法では、行政上の義務違反に対しては刑事制裁による担保が置かれることが通常であり、特別の場合にのみ個別に直接強制が法定される。これは、刑事制裁による実効性確保を中心としているわが国の現在の行政強制のシステムと類似した構造になっている。わが国では、戦前は行政強制に関する一般法としての行政執行法が存在し、ドイツ・モデルによって行政強制を仕組んでいたわけであるが、戦後の改革によってこれが失われたのち、アメリカ・モデルに移行するのではなくて、両者の中間的なものに落ちついて現在に至っていることは、良く知られたことであろう。

 

 

 

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