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最後にカメラのファインダーから見える景観を、アニメーションに必要なフレーム数だけ描画する。この描画のための計算をレンダリングと言う。レンダリングは、物体の見え隠れを計算する陰面消去と、光が物体に当たってどのように見えるかを光学的に計算するものであり、簡易な方法としては、Zバッファ法、スキャンライン法があり、光の屈折や写り込みも計算できるレイトレーシング法、さらに、光のエネルギーを計算して光の減衰や干渉までも計算するラジオシティ法がある。いずれも、簡易な手法ほど計算は速く、しかし、品質は落ちる。特に、海洋生物の表現では、その周辺環境として海に降り注ぐ太陽光や波による光の変化を表現するためには、レイトレーシング法が適していると言えよう。このようにレンダリングされた画像は、一旦、コンピューターのディスク(外部記憶装置)に記憶され、その後、ビデオテープ(30フレーム/秒)やフィルム(24フレーム/秒)に1フレーム毎に収録して完成する。

 

3. CGによる海洋生物の可視化

近年、博物館や科学館での展示にCGが活用される事例が増えてきた。CGが手書きのパースや実写の映像にまさる理由を考察する。海洋生物を対象に考えると、例えば魚をCGで描いてみる。先ずモデリングを行う際に、魚の計測データを基に正確に形状を再現する。そして、魚の側面を撮った写真をスキャナーで読み込み、これを形状モデルにテクスチャーマッピングする。最後にポーズを決め、レンダリングして一枚のスチルが出来上がる(写真6)。

形状は本物と同一であり、ウロコの形や色、模様も写真を貼り付けているから本物そのものである。しかも、光学に基づいた影や陰影の計算をしているため、立体的に表現されている。これに対して、手書きのパースは形状も不完全であるし、色や模様も、本物とはほど遠い。しかもデザイナーの技量によって、描く品質が大きく異なる。

次に、実写の映像との比較を考える。例えば、絶滅寸前の魚の生態を映像化する場合、実写でその個体を撮ることは不可能に近い。もし撮ることができたとしても、大変なコストと時間がかかる。古い映像が残っていたとしても、それで子供達に十分リアルに生態を伝えることは難しい。しかしながらCGであれば、これまでに計測された魚のサイズ(例えば魚拓等)と写真があれば、その個体を再現できる。また、魚の泳ぎ方は、古い映像をトレースすることによってその特徴をつかみ、関数化して自在に泳がせることができる。関数化というのは、魚の動きを、胴体、背びれ、胸びれ、そして尾びれ等にSin関数を与えて、それらが相互に影響してリアルな動きを表現できるように、数式でアニメーションを設定することである(図4)。

この関数のパラメータを変えることで、群れや回遊、エサの保護等、様々な魚の泳ぎを再現することができる。もちろん、これらは、学者や研究者達が監修を行うことが必要である。だだし、そのチェックの程度は映像化する目的によって大きく異なる。泳ぎ方に関する学会向けの発表では、十分な精度が期待される。一方、“泳ぎ”そのものを見せることが目的ではない場合、例えば雄雌の個体差や年齢差、そして環境映像としての利用や釣り、飼育を楽しむゲームで等は、その“泳ぎ”が完壁でなくても、概ね間違っていなければよいだろう。なぜなら、その精度を上げるにはコストと時間を要し、目的を達成するための費用対効果を十分に考えてCGを活用すべきだからである。

以上のように、CGの活用法によって海洋生物の研究から教育、それにエンターテインメントまで幅広い分野での利用が拡まる。理想的には、海洋生物のCGデータベースを創ることにより、多くの人が安いコストでCGによる海洋生物を活用することが出来るだろう。

 

 

 

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