大気に関する科学や漁業・水産についての研究があり、地質科学という関連分野が存在し、トータルに地球環境科学の一つの切り口、という学問的位置づけが明確になったものと考えてよい。自然科学の近代的展開としては宇宙科学と共に著しい事例と断言できる。
ちなみに、海に関する分野の広領域化は、生き物や地球の科学の場合とよく似ており、
・自然誌学→生物学→生物科学
・自然誌学→地質学→地質科学→地球科学
のパターンが、同様に科学分野の近代化の一つの傾向を示しているとみてよい。
2-2-2 地球化学から見た海洋科学
1. はじめに
海洋科学それ自体、多くのサイエンスの複合体であり多方面の智を必要とする。しかし、宇宙、地球全てを視野に入れる地球科学はその内に海洋科学を取り込んで考えることもできよう。現在問題になっている大気中の二酸化炭素の吸収源として、また温度の緩衝領域としても海は海のみにとどまらず、大気圏、水系とも密接な関係にあり地球環境に大きなかかわりをもっている。ここでは地球科学、あるいは地球化学の立場から海洋科学を眺めてみることにする。
2. 水塊分析
水はよく混合すると思われているが、実は水は自然界では必ずしも十分に混合して均一になっているわけでない。海はいくつかの水塊(water mass)の集合体として考える方が良い、これを規定するものは海水の温度とその内に含まれている塩分の量によって定まる密度(σ)である。昔は海洋物理学では、t、σで水塊を定義し、海洋における水の動きをこの水塊で理解する場合が多かった。最近ではこれに加え、δD、あるいはδ180などを加味して、その水の特殊性を把握することが多くなってきている。等密度の水の運動を知るために、海洋中任意の密度の水と行動を共にするブイが作られており(ソーフアーフロート)、このブイの出す“うなり”を追跡することにより中層水の挙動を調査することも可能になっている。これによって北太平洋の中層水の循環が明らかされたが、これはまだ10年位前のことである。