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話の内容を理解するために、自発的に聞こうとする努力が必要となる」3)ということをトレーニングで実感した。相手に熱心に話を聞いてもらっていると感じ、共感のことばかけをされると本当に言いたいことが言える。またコミュニケーションでは、「沈黙」が時にはことばよりも意味を持つことがある。「沈黙のうちに、共感や愛をはじめ、憤りや敵意などの感情まで表すことができる。相手の言うことを注意して聞こうとするときには、沈黙が必要となる」4)。「沈黙を前向きの姿勢で利用するならば、看護婦は患者との結びつきを強めることができる」5)。積極的傾聴や時には沈黙も癒しのためのケアとなるということを学んだ。患者・家族とのコミュニケーション、チームメンバー間のコミュニケーションが良好であればケアの質も向上する。

入院中の患者のほとんどが何らかの不安を持っているが、それが身体的な症状やさまざまな行動となって現れることがあるので、患者の示す症状と不安との関係をよく理解していなければ、その状況に効果的に対処することはむずかしい。日頃私達が「不安」という問題を看護で取りあげる際、コミュニケーションが十分でないため事実が確認できず、はっきりした根拠がないままに対処していることがある。それでは表面的な対処でしかなく、患者の望む問題解決にはなり得ない。Finkの危機モデルを用いた事例の分析で学んだように、問題解決が困難な状況が長く続くと、不安、緊張、さらには退行、ひきこもりなどの身体症状が現れる。実際には、危機のプロセスである衝撃、防御的退行、承認、適応の、どの段階であるのかを判断するのはなかなか難しいが、患者の様子や言葉から問題をキャッチできるだけの私達の感性やコミュニケーションが必要とされる。しかも介入方法を誤ると、状況を更に悪化させ患者に辛い思いをさせることにもなりかねないので、患者へのはたらきかけには訓練も必要になってくる。

患者への援助を考えるには、まず自分自身について理解する。「自分自身についてよく理解していなければ、患者に対して正しい見方をすることはできないだろう。ナースもまた、患者と同じように、自分の社会経済的、文化的、身体的、宗教的、教育的、職業的背景に基づいた一つの価値体系を携えて、患者の床頭に立っているのである」6)。もし自分の基準で患者を評価するなら患者について正しい評価をすることは不可能であり、患者との信頼関係を築いていくことはできない。家族についても同様のことが言える。

私達は自分達の基準で家族を評価し、患者のためにというもっともな理由を強調し、家族に強制していたのではないか。そしてそのことが家族を傷つけたり、医療者への不信感を募らせたりする結果になっていたのではないか。家族への援助を考えるには、まず家族アセスメントを行い、その家族についてよく理解する。そして家族もまた患者同様、全人的苦痛を感じていることを理解して関わっていく必要がある。患者と家族との関係は患者のQOLに大きく影響するということや、患者がどのような終末期を迎えるかが死別後の家族の適応に影響するということを、私達が認識して家族と関わっていかねばならない。

現在、緩和ケア病棟が対象としているのは悪性腫瘍とエイズの患者であるが、終末期にある全ての患者は緩和ケアを受ける権利がある。また一般病棟でも緩和ケアは受けられる。一般病棟で緩和ケアを行うには現状では困難な問題もあるが、緩和ケアについての学びを深め、今できることから一つずつ取り組んでいきたい。私達医療者が人として患者・家族と向き合う姿勢と、一人ひとりの死生観が問われている。

 

<引用・参考文献>

1) 小島操子:終末期医療における倫理的課題、ターミナルケア、VOL7、No.3、p198-199、1997、三輪書店

2) 3) 4) 5) 仁木久恵、岩木幸弓訳:患者との非言語的コミュニケーション、第2版、p33-35、1983、医学書院

6) 藤沢みほ子訳:患者行動への効果的アプローチ、p12、1985、医学書院

7) 季羽倭文子、石垣靖子、渡辺孝子他:がん看護学・ベッドサイドから在宅ケアまで、1998、三輪書店

 

 

 

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