日本財団 図書館


その時、医師は「患者の希望を失わせてはいけないから現実を話せない」と言い、患者は「治る日が来るまで闘っていたい」と話す。そういう言葉を聞くと、その気持ちもわかるし、問題があるとも思うが、どうやって考えていけばいいのか分からず悩んできた。しかし、希望にはいろいろな種類があること、QOLのギャップを改善するために現実的修正を行っていくことをふまえ、患者のありのままを理解し、受容しながら考えていくことが解決への道であることを学んだ。この患者のありのままを理解することの大切さは、研修の学びの中で改めて考えさせられたことの一つである。

今までも患者やその家族のありのままを理解し、受け止めることの重要性を理解し、行ってきたつもりだった。しかし、私自身の中で「もっとこうであったら、楽になるのに…」という思いのせいか先走り、結局ありのままを受け止めきれず、何か看護をしなくてはと思いながらも何もできない自分に落ち込むという悪循環を生じていたのかもしれない。看護者が何かできるというのはある種不遜な考えで、問題解決の当事者は患者とその家族であることを念頭におき、看護者は今ある姿に寄り添い、引き受けることをまず行わなければならない。その上で、患者の自律性を尊重するとともに、弱さを持った現実の人間であることを尊重しながら向き合って、また思いを共にして、患者が納得して選択できるようサポートすることが大切であることを学んだ。そして、これらのことを行うために求められる資質としてコミュニケーションスキルの高さが挙げられる。看護者は対象を理解するために、共感のレベルを上げて巻き込まれながら積極的に傾聴し、感情を表出させる。その言動の根底にある感情をさぐることにより、問題が明確になり、また患者も自身の感情に気付くことができる。看護者は何があっても患者を引き受けていく覚悟が必要で、それを患者に伝えていくことが役割であることも学んだ。

今までの私は対象の話をよく聞いても、その根底にある感情をさぐり問題を明確化させることが足りなかったために、核の部分に触れられず問題解決の糸口がつかめず、もどかしさを感じていたのだと思う。また、苦痛をわかっているとアピールすることや、患者を自身の感情に向き合わせるということを看護者の役割であるとはっきり認識していなかった。これらのことを含めたコミュニケーションスキルの習得は、これからの私の課題となるであろう。

家族援助においても患者と家族を一つの単位と考え、家族が歩いてきたように沿っていくことの大切さを再認識した。私自身の中に、家族への援助が必要と考えながらも患者のために家族がこうであったらという希望が入ってしまい、期待が大きすぎたように思う。家族も苦悩する人々であり援助を必要とすること、家族がどの発達段階にあるかを見極め、どういうプロセスを歩んできたのかを知り、共に考え援助し、どのような変化が起きたのかを見ていくことが重要であると学んだ。また、家族はシステムであり、どこからアプローチしても相互作用を生み出し全てに影響を与えることを知り、これを利用していきたい。

症状マネジメントではがん患者に多い症状への援助の実際を学んだ。痛みのコントロールでは新しい知識をかなり得、また精神腫瘍学の分野への認識を新たにした。しかし、緩和ケアにおいては症状マネジメントはまだまだ発展途上にあること、症状マネジメントの主人公である患者とともに考えながら、チームで模索しているのが現状であることを知った。がんの症状は多岐にわたり難治性のものが多く、いつもケアの行き届かなさ、難しさを感じる。また複数の症状が出ていることも多く、中心的な症状ばかりに目がいってしまうこともある。しかし、科学的根拠に基づいてアセスメントしアプローチし続けること、うまくいかない時にも決してあきらめず患者の訴え、苦痛を引き受け、チームで共有していく姿勢を再認識した。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION