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ルチアーノ・ベリオからのメッセージ

Message from Luciano Berio

 

ファイナリストの5作品に多様性がみられるのは大変喜ばしいことです。それぞれ音楽的、技術的にレヴェルが高く、独自のメッセージを持っています。私自身、審査をしながら、多くのことを学びました。

5人中、4人の日本人が含まれていたことはまったくの偶然です。私は、今の時代、地理的な距離(ジオグラフィック・ディスタンス)が必ずしも文化的な距離(カルチュラル・ディスタンス)と一致しなくなっていると感じているのですが、これはまさにそのことを示すものではないでしょうか。日本とイタリアは、いまや、文化的にとても近しく、お互いの違いを認識した上で評価し合う関係になっているのではないかと思います。

今回の審査にも通じることですが、異なる文化と出会った時、オリジン(起源)−私の場合は「イタリア」です−というものが極めて重要な意味を持ってきます。最近私は、アフリカ音楽に関心を持っているのですが、それを理解し自分の中に取り入れる際に、イタリアというバックグラウンドは不可欠なものです。それはまた、トランスクリプション(変換)、トランスレイション(翻訳)の問題を含んでいます。つまり異文化に対面した時、自分の文化へのトランスレイトがなされ、トランスクライブされたかたちで表現される。そこで始めて二つの文化間に対話が生まれ、新たな創造につながっていくわけです。

「武満徹作曲賞」の本選会で、それぞれ異なったオリジンを持つ若い作曲家たちに会えるのを楽しみにしています。このコンサートを、彼らが、お互いの音楽を体験し出会える場にしてほしい。東京オペラシティコンサートホールという美しい空間が、彼らの作品が持つ多様なパースペクティブを響かせることを期待しています。

――「武満徹作曲賞」譜面審査後の記者会見、インタビュー(1998年5月)より

 

 

 

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