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阪神・淡路大震災の教訓を生かして

―防災意識の風化に対して―

京都大学防災研究所巨大災害研究センター 河田恵昭

 

1. 憂慮される巨大地震とその津波災害

阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震は、地震学的には多くの情報をもたらした。その1つは、これがマグニチュード8クラスのプレート境界型巨大地震である南海地震の前触れであるということである。この巨大地震は、西暦684年に発生が記録されて以来、わかっているだけでも8回発生し、しかもほとんどの場合、東海地震とペア、すなわち双子地震である。近畿地方では、南海地震の発生のおよそ50年前から内陸部でいわゆる直下型地震が頻発した記録が1854年安政南海地震や1946年昭和南海地震で残っている。2040年±10年頃に起こると予想されている南海地震までに、兵庫県南部地震と同じマグニチュード7クラスの地震があと1ないし2回発生してもおかしくないのである。

この震災後、近畿地方の府県レベルの自治体が大急ぎで地震による被害想定を行ってきたのも、そのような背景があるからである。そして、東海地震も、発生の危険を指摘されて20数年経ち、まさしく予断を許さない状態になってきている。へたをすると、駿河湾から土佐湾沖に延びる南海トラフが連続的に破壊される恐れもある。そうなると、本震ー余震ー本震ー余震という、近代になってわが国が遭遇したこともないような地震動が関東以西の西日本を襲うであろう。東京都と新潟県を結ぶラインより西側のほとんどの府県では震度5弱以上になり、災害対策本部を設置しなければならなくなる。しかも、巨大津波が房総半島以西の太平洋沿岸各地に来襲し、一部は瀬戸内海でも被害を起こすであろう。安政東海、南海地震とその津波に関する歴史史料は、それが絵空事でないことを証明している。そうなると漁港などを控えた中小集落の田園災害のみならず、わが国で初めての、大港湾・臨海人口密集地域の都市型津波災害が発生する恐れがある。津波災害の発生が憂慮されるのは伊豆半島以西だけではない。三陸地方でも、1933年の昭和三陸津波災害以来、すでに60年以上経過している。この地域の津波災害が50年から60年ごとに起こってきた歴史を考えると、いつ起こってもおかしくないと言えよう。

 

2. 教訓を活かすための防災エスノグラフィーと検証事業

私たちの経験には限界がある。だからこそ、日頃から多くの人と交わり、また書物を読んだりして、知識や知恵を得ているのである。私は、震災直後にはほぼ毎日現地に行き、4年8ヶ月経った現在でも月に数度は被災地を訪れている。しかし、これだけやっても個人が得ることのできる重要な情報にはもちろん限界がある。もし、自分の分身が10人いて、彼らが地震発生直後の被災地で様々な立場で経験できれば、もっと賢くなれるはずである。

 

 

 

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