一年間待ちに待った、「『盲・聾・養護学校』児童青少年演劇巡回公演」が今年も始まりました。
一年前、恐る恐るだった私たちも、二年目ともなると、もうすっかりベテランのような面持ちです。
東京から最初の公演地であるいわき市へ向かう車の中で、昨年のツアーで出会った子どもたちの顔が次々と浮かんできました。
青森の盲学校で、給食を一緒に食べながら観終わったばかりの『歯のいたいワニ』を実演してくれた全盲の彼。
後片付けを手伝ってくれながら、修学旅行のおみやげを買ってきてやるやらないと、真剣な顔で先生とやり合っていた養護学校高等部の彼女。
終演後の送り出しの時、ベットの上から細い腕を精一杯のばして私の顔に触れたあの子。
一人ひとりの顔がまるで昨日のことのように思い出されます。
彼らの中には、もう二度と演劇を観ることが無い人もいたことでしょう。
もちろん、一般の人たちにもそういう人はいくらでもいますが、そういう人は、行こうと思えばいつでも演劇を観ることができます。
でも、興奮すると声をあげてしまったり、身体が動いてしまったり、自分の肉体をコントロールする力にチョット欠けている彼らには、劇場に足を向けるチャンスなんて滅多にあるものではありません。もしかしたら、私たちの「リーダースシアター」が生涯でただ一度の演劇になるかも知れないのです。
責任の重さを痛感します。
と同時に、このツアーは、私にとって、これからもまた長く続いていくであろう私の役者生活にとって、一年に一度訪れるオアシスのようにもなっています。
誰でも、知らない世界に足を踏み入れるのは怖いものです。はじめに言ったように、昨年の私たちもそうでした。でも、今回はもう知らない世界ではありません。それに、去年のあの子たちの思い出が、私たちを前へ前へと駆り立てます。
彼らの舞台へ向けるエネルギーは、何物にも替えがたい「宝」を与えてくれます。
そして、私を舞台に立たせる「使命」があるとすれば、それは何なのか、考え続けさせてくれます。
さて、今年はどんなオアシスが待っているのか。車は雨の中をひたすら北上していきます。
九月三日(金) 晴れ。
福島県立いわき養護学校。
昨日私たちを追ってきた台風も去り、いわきの空は気持ちよく晴れわたりました。
朝八時、仕込みをしていると、登校してきた子どもたちが入れ替わり立ち替わり体育館を覗きにやってきます。